衆院選は自民、公明両党が3分の2の議席を得て、安倍政権の継続が決まった。

 自民党が単独で国会運営を主導できる絶対安定多数を確保し、与党で憲法改正の発議に必要な議席を上回ったのは、大勝といっていい。

 しかし背景をつぶさに見ていくと、安倍政権の評価に対するねじれが浮かぶ。

 共同通信が実施した出口調査で、安倍晋三首相を「信頼している」の44・1%に対し、「信頼していない」は51・0%に上った。報道各社の世論調査でも、安倍内閣は不支持の方が高い傾向にあり、首相の政治姿勢には厳しい目が向けられている。

 自民党内から「おごりや緩みだけでなく、だんだん飽きられてきた」(小泉進次郎筆頭副幹事長)、「政権が全面的に信任されたという評価は下しにくい」(石破茂元幹事長)との声が聞こえてくるのは、それを裏付けるものだ。

 一方、今回の政権継続の審判は、野党自らが招いた「オウンゴール」の側面もある。

 野党第1党だった民進党の分裂。小池百合子代表の「排除の論理」で失速した希望の党。バラバラで頼りない野党に政権は託せないという消極的な支持が与党に集まったのだ。

 衆院選から一夜明けた23日、安倍首相は公明党の山口那津男代表と会談し、憲法改正論議など連立政権が進める主要政策で合意した。 

 選挙で安倍政治の全てが信任されたと思ったら大間違いだ。まして選挙中ほとんど語られなかった改憲を「白紙委任」などしていない。

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 5年近くに及ぶ「安倍1強政治」が、衆院選の大きな争点だった。

 憲法観や安全保障政策で自民党と違いが不鮮明な希望の党に対し、安倍政権との対立軸を鮮明にした立憲民主党が野党第1党に躍進した意義は大きい。

 枝野幸男元官房長官らがわずか20日前に旗揚げした党が、公示前の3倍以上の54議席を獲得し、政権批判票の受け皿として一定の役割を果たしたのだ。

 希望の党への合流を巡り、小池代表の「排除」であぶり出された民進党出身のリベラル系議員を中心にしてできた党である。

 信念を曲げずに立ち上がった枝野氏らの姿と、「政治は、政治家のためでも政党のためでもなく、国民のためにある」との訴えが有権者の心に響いたようだ。

 立憲主義が壊されていくことへの危機感も大きかったのだろう。

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 とはいえ立憲民主は1955年以降で最少勢力の野党第1党となる。異常な勢力構成である。 

 1人の当選者以外の票が「死に票」になる小選挙区制度では、与野党が「1対1」で対決する構図を広げなければ、巨大与党には太刀打ちできない。

 安倍1強のおごりを招いた責任の一端は、受け皿になりきれなかった野党にある。

 民主主義を健全に機能させるためにも、安倍政権に対抗しうる勢力を築き上げなければならない。