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政治政策 中国

習近平が3時間超を費やして語った「あまりに強大な夢」の中身

いよいよ皇帝になるつもりか

「偉大で栄光、正確な中国共産党万歳!」

64歳の習近平総書記は、いまや権力の絶頂の秋(とき)を迎えた。

18日に開幕した第19回中国共産党大会は、まさに「習近平の習近平による習近平のための一人舞台」と化している。人民大会堂に集まった2338人の代表らは連日、まるで金太郎飴のように「習近平総書記の偉大さ」を口にする。

この人民大会堂で起こっている「個人崇拝運動」は、まもなく中国全土に拡散していくことだろう。5年前、習近平総書記が登場した際に、私がこのコラムで予言した「毛沢東時代の復活」が、いよいよ現実のものとなっていきそうだ。

また、習近平総書記が、5年後に引退する気などさらさらないことも判明した。後述する「報告」にあるように、82歳を迎える2035年まで「皇帝」として君臨するつもりなのだろう。そう言えば、毛沢東主席も、82歳で死去するまで、共産党主席のポストを手放さなかった。

 

開幕当日、私は朝から、インターネットで中国中央テレビ(CCTV)の生中継を見ていた。特別番組は開幕の1時間も前から始まり、がらんとした人民大会堂の「万人大礼堂」を映し出した。

「壇上に花壇なんか置かないのが、習近平時代のこの5年間のやり方なのです」とアナウンサーが吹聴する。2012年12月に習近平総書記が発令した「八項規定」(贅沢禁止令)を意識しているのだ。「八項規定」の第一項で簡素化を謳い、花壇などを壇上に飾ることを禁じている。

テレビカメラが、万人大礼堂に掲げられている紅い横断幕を映し出す。そこには紅くこう書かれていた。

〈 偉大で栄光、正確な中国共産党万歳!
初心を忘れず、使命を心に刻み、
中国の特色ある社会主義の偉大な御旗を高く掲げ、
全面的な小康社会(ややゆとりある社会)の建設を戦い抜き、
新時代の中国の特色ある社会主義の偉大なる勝利を奪取し、
中華民族の偉大なる復興という中国の夢の実現のため、たゆまず奮闘しよう!〉

「八項規定」は、その第一項で、横断幕を掲げることも禁じているが、都合のいい部分は無視するというのが、この政権の特徴である。

ちなみに「八項規定」は、その第二項で長い会議も戒めているが、この日、習近平総書記が行った「報告」の演説は、3時間20分に及んだ。本人も後半には、さすがに疲れてきたようで、草稿に書かれた単語を読み間違えて、再度読み直したりしている。

その内容も強烈だった。2大キーワードは、「社会主義」と「偉大」。それぞれ数えてみたら、139回と70回も連呼していた。まさに、「中国は習近平総書記が治める偉大な社会主義の国」ということを言わんとした3時間20分だった。

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ジョージ・オーウェルが描いた世界

この習近平総書記の一世一代の重要演説を最後まで聞いていて、習近平総書記が思い描くような「中国の夢」が実現した暁には、中国はいったいどうなってしまうのだろうと不安を覚えた。

従順な国民にとっては生きやすいが、少しでも逆らえばお上の逆鱗に触れる社会――1948年にジョージ・オーウェルが描いた『1984』の世界そのものではないか(以下、カギかっこ内の訳文はハヤカワ文庫版『一九八四年』を引用)。

習近平総書記というビッグブラザーに抱かれた14億中国人民。「戦争は平和なり、自由は隷従なり、無知は力なり」と説く真理省が、中国共産党にあたる。「党中枢委員」は黒い制服を着ているが、8900万中国共産党員は「紅い帽子をかぶる」(習総書記の教えに従順になる)ことが奨励されている。

もしもビッグブラザーに逆らうと、「ただ人の姿が消えるだけ。登録簿から名前が削除され、その人間がそれまで行ったことすべての記録が抹消される」。こうした社会で暮らしていると、「自分を表現する能力を失ってしまうばかりでなく、元々言いたかったことが何であったかさえ忘れてしまう」と、オーウェルは記している。

習近平総書記が3時間20分もかけて何を語ったのか、その「壮大な夢」の全文を訳出してお届けしようと思っていたのだが、なにせA4用紙でびっしり25ページにも及び、あまりに長い。それに同じことの繰り返しだったりもする。そこで前文のみ全訳し、13項目に分かれた本文は、要旨のみ訳す。

それでもかなり長くなってしまったが、ご寛恕願いたい。空疎と思われる部分は読み飛ばしていただいても構わない。