10月22日の衆議院総選挙の結果、自民党は単独で過半数。自民党と公明党で3分の2超の議席を確保した。
開票速報を受け、財政再建の必要性を問われた安倍晋三首相は、基礎的財政収支(PB)を無理矢理黒字化して、アルゼンチンは次の年に債務不履行(デフォルト)になった、との旨を述べた。
産経新聞の記事が伝えている。
安倍晋三首相「PB黒字化でアルゼンチンは債務不履行になった」
記事にあるように、安倍首相は加えて「(PBを黒字化して)無理矢理に経済に負荷をかければ、皆さんが就職できなくなる」とまで語気を強めて断言した。
はたして、本当にそうなのか?
結論から言えば、PBを無理矢理黒字化したから次の年に債務不履行になったのではない。債務不履行を避けようとPBを黒字にした(しかし、交渉が決裂して債務不履行になった)、というのが実情だ。主従が逆である。
アルゼンチンは、最近では2014年に債務不履行になっている。これが、アルゼンチン史上8度目の債務不履行である。そもそも、この債務不履行は、2001年の債務不履行に遠因がある。アルゼンチンが2001年に債務不履行となったとき、その債権者と交渉して返済の繰り延べなどして債務再編を求め、一部の債権者とは合意した。しかし、その債務再編に応じなかった債権者がいた。2014年の債務不履行は、この2001年に債務再編に応じなかった債権者との協議が決裂したことで起きた。
ただ、2001年に債務再編を行った分については、アルゼンチン政府はきちんと耳を揃えて約束通り返済しなければならず、その努力を続けていた。その過程で基礎的財政収支(PB)も黒字にしていた。そのお蔭で、2014年に、アルゼンチンは債務不履行となったものの、債務履行能力はあったのだ(それは国際的な民間金融機関も認めていた)。協議が決裂しただけだった。2001年の債務不履行と、この点で異なっていた。
安倍首相(あるいはその数字の知恵をつけた人)は、債務不履行という事実と、PBの値だけをみて、妙な推論をしたのだろう。債務不履行するぐらいだから、PBは黒字化する余裕などないのに無理矢理PBを黒字にした、と決めつけたのではないか。
しかし、返済能力があるのに協議不調で債務不履行になることは、政府のみならず民間企業だってある。PBを無理矢理黒字化したから次の年に債務不履行になったのではなく、債務不履行を避けようとPBを黒字にしたというのが実相だ。
政府債務返済の逼迫感から、古今東西、好不況を問わず、PBを黒字にするよう政府が追い詰められる局面がある。日本も、そうなる前に、自律的にPBの黒字化を進める必要がある。
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