(議員会館。筆者撮影)
2017年の衆院選は与党側の勝利に終わりました(議席を減らしましたが)。
そして、希望の党の出現に伴い、「改憲勢力」と分類される議員が圧倒的な多数を占めています。
選挙後の議席数をこの二点で分けると、以下の結果になります。
- 与党:312
- 野党:152
- 改憲勢力:371
- 護憲勢力:67
そして、各党ごとに議席数を見ると、民進党が二つに分かれ、立憲民主党の議席が増えています。
- 自民党:290⇒283
- 公明党:34⇒29
- 希望の党:57⇒49
- 維新の会:14⇒10
- 立憲民主党:15⇒54
- 日本共産党:21⇒12
- 社民党:2⇒1
- 諸派・無所属:39⇒23
政党単体で見た場合、立憲民主党の一人勝ちです。
各党の減った議席数と立憲民主党の増えた議席数はほぼ同じです。
- 各党減数:38(7+5+12+4+9+1=38)
- 立民増数:39
民進党が二つに割れたことで、国会は改憲勢力と護憲勢力で二分されました。
もともと、政策的には不一致の議員が集まってできたのが「民主党⇒民進党」なので、今回の選挙ですっきりしたとは言えます。
ただ、この「改憲勢力」という表現は曲者です。
内訳をみると、その面々は呉越同舟だからです。
公明党はもともとは「護憲」なので、自民党と政権を確保するために「加憲」と言ってきただけです。本音ベースで言えば改憲に賛成ではありません(自民保守と同じ路線となれば支持母体の創価学会がついてこない)。
また、希望の党には旧民進党から流れ込んだ議員が多数なので、どこまで改憲に本気かわかりません。
維新の会の「改憲」というのは、教育無償化や道州制がメインなので、九条改正を目指しているとまではいいかねます。
内実を見ると「改憲勢力」というのは、実態にかなっているのかどうかが不明です。
今後、憲法改正の議論は可能になりますが、九条改正にどの程度まで踏み込めるのかは「今後の展開次第」ということになります。
衆院選の結果:前原と小池の「希望」の産物とは
今回の衆院選の火種は、結局、民進党でした。
民進党の幹事長のスキャンダル等を通して、その基盤がガタガタであることが明らかとなり、(勝てると見たのか)安倍首相は解散を決断。
窮地に立たされた前原氏は何と、小池氏の希望の党に合流。
そして、希望の党から排除された議員が立憲民主党を立党。
どれもこれも「民進党」から出た火種です。
今回の顛末を踏まえ、選挙後の前原氏と小池氏の動向が産経ニュース(2017.10.23)で報じられていました(【衆院選 迷走10・22】)。
この記事では、まず、小池氏と前原氏の選挙後の発言が紹介され、過去の経緯を振り返っています。
- 小池氏:「問題点は山ほどある。これまで東京都知事選と都議選は『完勝、完勝』だったが、今回は完敗だ」
- 前原氏:「政治は結果が全て。一度立ち止まり、さまざまな方のご意見を伺う」(辞意も漏らした)
そして、10月5日に行われた、まるで喜劇のような問答が紹介されています。
- 前原「ぜひ衆院選に出てほしいんです」
- 小池「以前からお話ししている通りです。国政には出ません」
- 前原「マザー・テレサのように民進党から行った人に寛容な心で接してください」
「小池氏がマザー・テレサ!」悪い冗談もよしてくれと思いますが、前原氏はとんだ見込み違いをしていました。
希望の党の失速はここから始まったが、前原はこの瞬間まで「小池は最終的に出馬を決断する」と信じ込んでいた。
2人が極秘に合流構想を温めていた9月下旬、小池は仲介人を通じて「都知事を辞任する選択肢もある」との意向を伝えていたからだ。直後の9月25日、小池は希望の党の旗揚げを宣言し、自ら代表に就任した。
ところが、小池氏の本音は「政権交代が確実でない限り、都知事職は投げ出さない」ということです。
小池氏が勝負に出れば「自民議席の大幅減⇒安倍退陣」というストーリーもありえたといわれていますが、小池氏は「1年余りで都知事を辞めるのは無責任」と批判されることを恐れました。
小池氏不出馬と民進党議員への「排除」宣言によって風向きが変わり、希望の党は失速に向かうわけです。
これで漁夫の利を得たのは立憲民主党の枝野氏です。
マスコミは立憲民主党の枝野氏を護憲派の「期待の星」とみて、「筋を通した」と持ちあげました。
しかし、民進党は満場一致で希望の党に入ることを認めていたので、枝野氏もいったんは護憲や安保法制反対の旗を取り下げていたわけです。これは菅直人氏も同じです(安保法制賛成の菅直人氏ってどんな顔してるんだ・・・)。
やや事実とは異なる「筋を通した」というストーリーがつくられ、今回、立憲民主党が躍進しました。
立憲民主党の戦い方は、安保法制成立前の大騒ぎでマスコミが宣伝した「シールズ」とどことなく似ています。
リベラル・護憲派の中でメディア戦略に長けた一派が、昔のシールズのように、また護憲の「期待の星」を世にPRしたようです(詳細はBuzzfeed記事「なぜ#立憲民主党 は議席を伸ばしたのか?」を参照)。
なお、民進党の今後に関しては「希望の党や立憲民主党、無所属から当選した面々が参院民進党と再結集するのではないか」という怪しげなストーリーが噂されています。
さすがにこれをやったら、世間からは総スカンをくらうので、「統一会派」の結成あたりがオチになりそうですが・・・。
(関連記事:政党交付金の暗部/法の抜け道を衝く民進党再結集論)
衆院選の結果:三陣営化で国会の「見える化」が進んだ?
ただ、保守陣営では「前原・小池騒動で民進党が割れ、結果的に良かった」と見る向きもあるようです。
前述のように「改憲勢力」が多数を占める結果になったからです。
もともと、民主党は旧社会党系の議員、小沢一郎氏が引きつれてきた議員、自民党から立候補できなかった松下政経塾系の議員が混ざっているので、政策に関しては一致しない議員が集まっていました。
これに維新の会からの離党組が加わったので、さらに毛色が違うグループが増え、実に怪しい政党になっていたのです。
その民進党が共産党と連携すると、個別の政策で見た時に「真逆の主張を掲げる者同士で協力して選挙を戦う」という怪しげな光景が全国に出現します。
消費税増税法案を成立させた元民主党の議員が、消費税増税反対を掲げる共産党と選挙協力をして議席獲得を目指す、という笑えない光景が各地で展開していたわけです。
そうまでして連携したのは、結局、安倍政権による憲法改正を阻止するためでした。
こういう怪しげな政界の関係が一つ整理され、「自公政権」「希望+維新」「立民+共産」という形で「似たもの同士」のグループに分かれたことは、今回の選挙の一つの「成果」だといえるのかもしれません。
政策の一致度の高い議員同士で政党を運営するようになったので、今までよりは政界が分かりやすくなりました。