あなたはオペレーティングリースという言葉と、そのしくみを使った節税をご存知でしょうか。
まだそれほど広く知られてはいませんが、事業で単年度に突発的に大きな利益が出てしまった場合、節税対策に大いに役立ちます。そして実際に、オペレーティングリースを利用した節税スキームが投資商品として売り出されています。
ただ、どんな商品でも良いわけではありません。決定的に重要なのは商品の選び方です。しかし現状、オペレーティングリースを活用した節税対策のしくみや注意点について、きちんと分かりやすく説明している本やウェブサイトは非常に少ないです。
そこで、この記事では、オペレーティングリースを活用した節税について、基本的なしくみ・メリットと、失敗しないための選び方のポイントをお伝えします。
1.オペレーティングリースとは
まず、オペレーティングリースとは何なのかについてお伝えします。
リースの種類は、大きく分けて、オペレーティングリースとファイナンスリースの2種類です。どちらも形式は一定期間、お金を払って物を借りるというものです。
そして、オペレーティングリースは「ファイナンスリースでないもの」とされています。
ですので、ファイナンスリース⇒オペレーティングリースの順番で説明します。
1.1.ファイナンスリースは分割払い購入と同じ
ファイナンスリースは、実質的に物を分割払いで購入するものです。そして、以下の2つの条件をみたすものです。
- 途中で解約できない(ノンキャンセラブル)
- リース料の総額が、物件の価格以上(フルペイアウト)
どういうことかというと、実質的に分割払い購入するのと同じなので、物を受け取って使い始めた後で解約(キャンセル)するのは基本的にNGです。
また、分割払い購入すると代金総額は利息等が上乗せされてもともとの価格よりも高くなります。
1.2.オペレーティングリースはリース料が低い
これに対し、オペレーティングリースは、ファイナンスリースにあたらないものです。
つまり、
- 途中で解約できる
- リース料の総額が物件の価格より低い
のどちらかをみたすものです。
そして、特に重要なのが、「2.リース料の総額が物件の価格より低い」という条件です。
〈イメージ〉
1.3.オペレーティングリースの対象物件:中古でも売れるもの
オペレーティングリースの対象となる物件は、中古でもある程度の値段がつくものに限られます。
なぜなら、オペレーティングリースは
物件の価格 > リース料総額
ですので、物件の貸し手(所有者)がその差額を回収するには、物件をリース終了後に売ってお金に変えられなければならないからです。
したがって、オペレーティングリースの対象となるのは、ポンコツでなければある程度の値段で売れるものです。たとえば以下のような物件です。
- 自動車
- 工作機械
- 建設機械
- 半導体製造設備
- 印刷機械
- 航空機
- ヘリコプター
- 船舶
- コンテナ
これに対し、パソコンやコピー機等、すぐバージョンが古くなって値がつかなくなってしまうような物は、オペレーティングリースには向いていません。実質買い取りのファイナンスリースが向いています。
2.オペレーティングリースが節税に役立つしくみと注意点
以上がオペレーティングリースの基本的なしくみでした。では、このオペレーティングリースがどのように節税・決算対策に役立つのでしょうか。
オペレーティングリースを活用した節税スキームは、簡単に言うと、航空機、船舶、コンテナといった超高額な物件を、みんなでお金を出し合って買い、リースに出す方法です。
そこで、これから、節税商品としてのオペレーティングリースの活用法と注意点について、分かりやすくお伝えします。
3.1.オペレーティングリースを活用した節税のしくみとメリット
オペレーティングリースを活用した節税は、以下の手順で行います。
- みんなでお金を出し合って巨額の物件を買う
- 物件を航空会社等へオペレーティングリースに出す
- 初年度の決算で多額の損金を出して節税する
- 物件をお金に替えて分け合って終了
たとえば、ジェット機であれば、ボーイングとかエアバスとかの航空機メーカーから買い、航空会社に貸し、業務に使ってもらいます。
なお、先ほどお伝えしたように、オペレーティングリースの対象となる物件は中古で値がつくものです。
その点、航空機等は通常、こまめにメンテナンスしているので、5~10年では価値はそれほど減らないと考えられます。
手順1|みんなでお金を出し合って巨額の物件を買う
まず、「匿名組合」という団体を作り、そこにお金を出し合います。
物件がたいへん巨額なので、1口1,000万円とか、大きなものだと1口7,500万円になるものもあります。
匿名組合は、組合員が出し合ったお金に加えてさらに、金融機関からも多額の借り入れをして、巨額の資金を集めます。
たとえば、みんなが30%出し合い、あとの70%を金融機関から借り入れるという具合にです。
そして、その巨額の資金で、ジェット機や大型船、コンテナ等の超高額な物件を買うのです。
この時、物件は、匿名組合に参加している会社が組合を通じて持ち合っている形になります。したがって、各会社が出資した分の額が、それぞれの資産として計上されます。
手順2|物件をオペレーティングリースに出す
そして、「匿名組合」から物件をオペレーティングリースに出します。
ジェット機であれば航空会社、船舶・コンテナであれば船会社にリースに出すのです。
この時、匿名組合が金融機関から融資を受ける額(金利も含む)と、リース期間中のリース料総額は、ほぼ同じ額になるように設定してあります。なぜこうするかというと、
- 出資額:後で売るなどして回収する
- 融資を受けた額:リース料を返済に充てる
というイメージです。
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匿名組合が受け取るリース料は、金融機関からの融資の返済に充てられます。
手順3|初年度の決算で多額の損金を出して節税する
匿名組合では、「減価償却」という処理がなされます。ここで減価償却について簡単に説明しておきましょう。
減価償却は、ある年度に物件を買ったら、その時から、代金の額を何年かに分けて費用として計上していくことです。
物件は買った直後から事業に使われ、通常はそれに応じて価値がすり減っていくので、その時々の資産の価値を適切に把握していかなければなりません。
そのため、物件の価値が減った分を損失として計上します。これが「減価償却」です。
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この損失は、匿名組合に参加しているそれぞれの会社に、出資の口数に応じて分配されます。
そして、それぞれの会社で、「特別損失」として損金に算入されます。
この「特別損失」による損金の額が大きければ大きいほど、節税につながるのです。
したがって、オペレーティングリースによる節税の効果を大きくしたければ、以下のような特徴を持った商品を選ぶ必要があります。
- 短期間で減価償却できる
- 初年度にできるだけ多くの減価償却費を計上できる
航空機、船舶、コンテナは、償却期間5~10年です。また、中古だと、償却期間はさらに短く、2年で償却できることがあります。
さらに、初年度にたくさん減価償却できる「定率法」という計算方法を選ぶことができます。これは、毎年決まった率を減価償却していく方法です。
節税のためのオペレーティングリースの商品はこういったことを計算に入れて作られています。
たとえば、オペレーティングリースの商品に5,000万円を出資し、匿名組合で年80%ずつの定率法で減価償却されるとします。
初年度は資産計上総額5,000万円の80%の4,000万円を損失として経費(損金)にできます。
2年目は、残額1,000万円の80%の800万円を損失として経費にできます。
つまり、初年度と2年目で、資産計上額5,000万円のうち合計4,800万円、つまり96%が経費(損金)として処理できる計算になります。
手順4|物件をお金に替えて分け合って終了
リース期間が終わった後、匿名組合は、物件をリース先の航空会社等が買い取ってもらうか、中古市場で売却してお金に替えます。
そして、そのお金を匿名組合に参加している会社みんなで分け合って、終了です。
なお、このお金は益金に算入されます。したがって、何もしなければここで課税されてしまいます。そうなっては節税になりませんので、手当てが必要です。この点については後ほど改めてお伝えします。
3.2.オペレーティングリースによる節税の注意点
以上が、オペレーティングリースによる節税のしくみです。
オペレーティングリースは、単年度にたくさんの損金を出せるので、突発的に大きな利益が出てしまった年度の決算対策に非常に有効です。
ただし、正しい商品を選ばないと、節税の効果が得られないばかりか、損をしてしまうリスクがあります。
そこで、ここからは、正しい選択をしていただくために、オペレーティングリースを節税に活用する上で絶対に押さえておいていただきたい注意点を5つ、お伝えします。
ポイント1|リース期間が終わったら出資が戻ってきて益金になる
リースの期間が終わると、匿名組合は物件を売って代金を得て、清算してみんなで分け合うことになります。
その結果、多くの場合、出資したお金の総額と同じくらいか、大部分のお金が戻ってきます。これは雑収入として益金に算入されます。
たとえば5,000万円の物件について、期間7年のオペレーティングリースを組んだ場合、7年後に5,000万円近い額がドカーンと戻ってきて益金になるのです。
このままでは結局、税金を取られてしまいます。したがって、それを避けるためには、戻ってくるお金と同額くらいの損金を計上できる計画があればベストです。
実際、近い将来の事業拡大などの資金需要を見込んで、その時に備えて利益を先送りすべく、オペレーティングリースによる節税スキームを活用するケースも多いです。
他にも、ちょっと裏ワザ的な方法について、『オペレーティングリースの節税の仕組みと具体的な活用術』でお伝えしておりますので、詳しくはそちらをご覧ください。
なお、どうしても損金を計上できる使い道が見つからないのであれば、最終手段として、再度オペレーティングリースに出資する方法があります。
ポイント2|リース期間中はキャッシュが拘束される
次に、オペレーティングリースに出資した場合、その額はリース期間中ずっと拘束されてしまいます。
なので、資金繰りに余裕がない中でオペレーティングリースに参加すれば、銀行から融資を得る以外にありません。
現状、ただでさえ多額の借入金の返済があるのに、それに加えて融資を受ければ、より資金繰りが苦しくなるリスクがあります。
銀行に融資の利息分をもうけさせるだけになってしまっては意味がありません。
目先の決算対策をしたいからといって、借入までして資金繰りを圧迫するようなことはくれぐれも避けてください。
ポイント3|税務処理について税務署や専門家に確認をとっている商品を選ぶ
現状、オペレーティングリースを活用した節税は、税法上の減価償却等のルールに則っている限り適法という扱いです。
しかし、税務リスクを避けるためには、念には念を入れて選ぶに越したことはありません。
オペレーティングリースの商品を販売している事業者の多くは、税務署の確認をとったり、税理士等の専門家に税務処理について確認をとったりした上で販売しています。
ただし、中には少数ですが、確認をとらずに販売している業者も見受けられます。もしオペレーティングリースを利用するのであれば、きちんと税務署や専門家の確認をとっている商品を選ぶようにしましょう。
ポイント4|元本保証がない
オペレーティングリースは、リース期間が終わった後、順調にいけば、出したお金の総額と同じくらいのお金が戻ってきます。
ただし、元本保証はありません。
たとえば、リースから思ったように収益が上がらないこともあります。また、リース後に物件を売った時に、予想外に値段が付かないこともあります。
そういう場合、出資した額よりも大きく目減りしてしまうリスクがあります。
物件がきちんとした品質・性能を備えているか、リース先の航空会社や船会社の経営状態がしっかりしているか、など、慎重に見極める必要があります。
ポイント5|為替の動きによっては損をするリスクがある
オペレーティングリースによる節税の商品の多くは、航空機や船舶等を海外で購入し、海外の航空会社や運送会社にリースします。
したがって、外貨建ての商品が主流です。円建ての商品はないわけではありませんが、限られています。
そのため、「円高ドル安」「円安ドル高」といった為替の影響を受けます。
「円高ドル安」の時に開始し、「円安ドル高」の時に終わるのであれば、円に換算すると得をする計算になります。
他方、「円安ドル高」の時に開始し、「円高ドル安」の時に終わるということになると、円に換算する際に損をしてしまうリスクもないわけではありません。
一つの目安として、2001年から現在(2017年10月)までの為替の平均は約106円ですので(こちらのサイトをご覧ください)、1ドル=106円以下でスキームが組まれていればなお良いでしょう。
まとめ
最後までお読みいただき、誠にありがとうございます。
オペレーティングリースを活用した節税のしくみについてお伝えしてきました。
減価償却のしくみを利用した節税方法で、単年度に大きな額を節税するのに適したスキームです。
税務処理についてきちんと税務署や専門家の確認をとっている商品を選ぶことをおすすめします。
また、いったん出資するとリース期間中はキャッシュが拘束されますし、為替の影響等のため損をするリスクがないわけではありません。
活用を考える際は、以上のことを踏まえて、会社にとって最も条件の良い商品を慎重に選ぶことが重要です。
なお、オペレーティングリースによる節税は、物件の種類ごとにそれぞれ特徴があります。より詳しいことをお知りになりたい方は、航空機については『航空機のリースの節税の仕組みとメリット・デメリットの全て』、船舶については『船舶のリースの節税の仕組みとメリット・デメリットの全て』、コンテナについては『コンテナのリースの節税の仕組みとメリット・デメリットの全て』を、それぞれご覧ください。