低融点の金属で鋳造した自分の指のコピー。鉄分の高いカフェです。
鋳造(ちゅうぞう)という金属の加工方法があります。金属を一度溶かして型に流し込み、冷やし固めて目的の形を作る加工方法です。身近なところだと、マンホールのフタや鉄瓶などがこの方法で作られています。
鋳造作業は、通常1000度を超えるような高温の溶けた金属を扱うので、大変危険な作業となります。それをカジュアルに体験できるカフェが秋葉原にありました。美味しいコーヒーや酒を味わえるだけでなく、自分の好きなものの型をとり金属化できます。 その名も「IRONCAFe(アイアンカフェ)」。鉄分高めのカフェでした。
1972年生まれ。体力系、料理系の記事を多く書いています。ライター以外に日本酒と発酵食品をメインにした飲み屋も経営しています。利き酒師で、元機械設計屋で元プロボクサー。ウルトラマラソン走ります。米の飯と日本酒が有れば大体なんとかなります。
前の記事:「フグの卵巣の糠漬けをタラモサラダにするとうまい、他の魚卵もね。」 人気記事:「かたいプリン復活の時は近い!」 > 個人サイト 酒と醸し料理 BY 個人ページ「走れば大体大丈夫!」 高架下のアートな空間「IRONCAFe」は秋葉原駅と御徒町駅の間の高架下。「2k540 AKI-OKA ARTISAN」内にあります。
「2k540 AKI-OKA ARTISAN」がどんな所か、詳しくは施設のサイトを見てください。
工房やショップ、カフェなどが並ぶ商業施設の中ほど。鉄製の看板が目印です。
鉄、コーヒー、鋳造。不思議な組み合わせ。
店内はカウンター席が数席と、4人掛けテーブルが4つほど。窓も広く開放的で、明るい店内です。
カウンターもテーブルも椅子もステンレスなどの金属製。
開放的な店内ですが、よくあるカフェのように木を多く使用したウッディな作りとは真逆のメタルな内装。カウンター、テーブル、椅子などすべてが金属製です。
ペーパーナプキンホルダーは鋳物。
机の天板の下にはドリルの刃や、金属を削る時に出る切り屑などがディスプレイされ、ペーパーナプキンのホルダーも金属製。内装すべてが金属です。
なぜこんなカフェを作ったのか?どんなメニューがあるのか?どんなお客様が来店されるかなど、IRONCAFe代表の戸田さんに聞いてみました。 代表の戸田有紀さん。理系かと思ったら経済学部卒。卒業後は日本や世界を旅されたそうです。
馬場「なぜこのような金属ばかりのカフェを作ろうと思ったのですか?」
戸田「単純に金属のカフェを作ってみたかったというのがあります。なぜなら、金属をコンセプトにしたカフェがなかったから。カフェの運営母体が金属加工を行っている会社なので、金属的バックボーンを持っています。そのうえで、金属を見せるカフェにしようということになりました」 店内にはギャラリースペースがあり、鋳物の作品も展示されています。
IRONCAFeは、広島に本社がある精密鋳造部品の製造販売会社、株式会社キャステムが運営母体となっています。
戸田「カフェではなくてもよかったのですが、カフェはオープンな雰囲気があります。他の製造業でもそうですが、工場と一般の人の距離は遠い。ショールームだと金属に関係する人しか来ないですが、カフェなら金属好きが来ても、コーヒー好きが来ても、アイスクリーム好きが来てもいい。飲食というところで新しい流れを作りつつ、金属はこういう種類がありますよ。うちはこういうことやっていますよとアピールできます」 製造業の企業広報活動の新しい形かもしれません。 ブロッコリーの鋳物。こういう比較的柔らかい有機物でも型をとって鋳物で金属にできるそうです。
メニューも金属推し馬場「お店で出ている飲み物や料理にはどのような特徴があるのでしょうか?」
戸田「コンセプトは、あらゆる角度で金属を提供すること。カウンターも食器も金属でできています。メニューのネーミングも金属の名前をつかっています。鉄分入りのドリンクを飲むストローもステンレス製です。ワッフルも提供していますが、ワッフルを作る工程は型に流しこんで固めるところが鋳造をイメージさせます」 鉄分アップルは鉄分配合の健康ドリンクとして販売されているものだそうです。
確かにメニューを見ると、鉄分アップル、アイアンスムージーなど金属を意識した名前のメニューが並ぶ。
ステンレスのストローは、再利用できるエコなマイストローとして持ち歩く人もいるようです。
ソフトドリンクを注文すると金属のカップにステンレスのストローがついてきました。金属のストローで鉄分高めな飲み物が味わえます。
日本酒も金属のワイングラスで提供。カフェだと錫のぐい飲みではなくこちらなのか。
日本酒で出てきたのが広島県呉市の千福吟醸「鉄のくじら」。ワインならばアイアンストーン。焼酎だと鉄幹、鉄馬などが置かれていました。
スッキリ軽いタイプの日本酒だったので、鉄というよりアルミでしょうか。おいしかったです。
馬場「イチ推しのメニューはありますか?」
戸田「それぞれの金属をイメージしてブレンドしたアイアンブレンドシリーズです。鉄、ステンレス、銅、真鍮、錫があります」 アイアンブレンドシリーズ。豆を厳選したオリジナルブレンドコーヒー。
戸田「それぞれの金属の特徴を表しています。鉄は黒く錆びていくので深煎り。鉄鉱石がブラジルでよくとれるのでブラジルの豆を使います。生豆の精製方法もブレンドごとに変えています。鉄は表面が変化しやすいので、味の変化が大きいウォッシュドという方法で精製しています」
コーヒーカップも金属。こちらはアイアン。鉄ブレンド。
馬場「味の違いは?」
戸田「鉄は深入りのしっかりとした味わい。ステンレスは鉄と同じブラジルの豆でナチュラルという方法で精製された豆。鉄のしっかりさと、ステンレスらしい明るさをもっています。カッパー、銅は、錫ほどじゃないが柔らかいし明るい味わい。真鍮は、華やかな感じが経年変化して落ち着いた風合いになっていくイメージ。錫はとにかく柔らかい。飲んだらストンと落ちていく軽い味わいになっています」 撮影に同行してくれた編集部の藤原さん。コーヒーは美味しかったようです。
オリジナルの小物や鋳造サービス、ワークショップもあり内装やメニューの段階で色々要素の多いIRONCAFeですが、店で行っているサービスや、オリジナルの商品も各種あります。
戸田「カフェの他に、鋳造を体験するワークショップ。1点からの鋳物のオーダーメイドの受付。鋳物を使ったアクセサリーや小物などの自社商品の開発も行っています」 鋳物体験ワークショップで製作された作品。この後実際に体験します。
戸田「個人のお客様を対象とした鋳物のオーダーメイドでは、鋳造したい物を持ってきもらえれば、こちらのカフェで受け付けています。工場でステンレスや鉄、銅、錫、アルミでも何でも溶かせるので、うちの技術で出来るものならば何でも鋳物にします」
思い出の地の落ち葉を金属化することも可能。型をとる際、現物を焼き崩して取り除く事もあるので、金属化の方法と価格は応相談です。
戸田「注文される方は一般の人の他に、アート関係、色々な物作りをしている方が多いです。記念品を鋳造依頼されることもあります」
こちらはオリジナル商品のミニチュア工具セット。全部動くし、ちゃんと切れます。
戸田「以前、オーダーメイドの鋳造の依頼で年配の女性が来店されたことがあります。その方は、今はヨーロッパに住んでいる東大と縁のある方と文通をされていて、手紙の中に東大キャンパスのイチョウ並木が懐かしいと書いてあったそうです。そこで、自分が拾ってきた東大のイチョウ並木の葉を、誕生日のプレゼント用に金属にして欲しいという依頼でした」
アイアンブレンドの各コーヒー豆を型に鋳物を作ったオリジナルのネックレスもあります。
戸田「そのままでは薄いので、片面にシリコンを付けて肉増しするなどして型をとり鋳物にしました。その裏面に刻印を打って贈ったら大変喜ばれたそうです。手紙に書かれていて、自分で行って選び、それが物になるなんてすばらしい事だと思いました」
オリジナルブレンドのコーヒー豆とコーヒー豆型鋳物のピアスをセットにした商品なども開発中だそうです。
戸田さんによると、お店に訪れるお客様は女性の方が多め。秋葉原や上野方面からのデートコースとして立ち寄る感じの方も結構いるようです。
ものづくりを知る場として。カフェとして落ち着ける場として。IRONCAFeは、どちらでも利用可能な空間と言えます。 続いては、こちらで体験できる鋳造体験ワークショップを実際にやってみました。小指が出来ました。
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