2017年9月29日にXbox LIVE Indie Games(以下、XBLIG)のサービスが終了した。これはXbox 360で展開されていたマーケットのひとつで、XNA Game Studioというゲーム開発環境で制作した作品を誰でも配信することができるという、当時にしてはかなり夢のある場であった。
XBLIGでは数多くの名作が登場した。「Salt and Sanctuary」などで知られるSka Studiosが手がけるゾンビ全方位シューティング「I MAED A GAM3 W1TH Z0MB1ES 1NIT!!!1」、古代祐三氏が楽曲を手がけるレトロ風アクション「まもって騎士」、そして魔王がアパート経営をする「メゾン・ド・魔王」など……。しかし、実際のXBLIGはかなり玉石混交であった。
正確に言うとXBLIGの9割くらいは“石”であり、3000作品以上あるそのほとんどがプレイするに値しないのだ。「それならば名作に思いを馳せよう……」となるかもしれないが、実は名作のほうこそどうでもいいのである。なぜなら品質の高い作品はよそのプラットフォームに移植されたり、あるいはそれをベースにした新たな作品として生まれ変わっているからだ。良質な作品は消えることはなく、むしろ二度と見れなくなるのは石のほうなのである。
今回は、XBLIGのゲームをほとんどすべて眺めたと自負する私が「このゲームはまずXBLIGでしか見れず、しかもその背景にはすごいものがあるけれども絶対にオススメしない!」というタイトルを紹介する。これらタイトルはもう買えなくなるようだが、どうせ紹介したところで誰も買わないだろうから別にかまわないだろう。
新時代のユニコーン格闘ゲーム「Unicorn Makeout Mania」
アメリカの女児とオッサンはかわいいお馬さんが大好きだ。ついでにオッサンは格闘ゲームが好きな割合も高い。つまり、ポニーと格闘ゲームを組み合わせたら最高に楽しいゲームができ上がるのではないか? という考えに至るのも自然なことだろう。
「Unicorn Makeout Mania」はまさしくそんな思想から生まれた作品で、簡単に言えばユニコーンたちがちゅっちゅペロペロして戦う2D格ゲーである。かわいい女の子にもウケるピンクが基調のグラフィックに、「ストリートファイター」や「モータルコンバット」のパロディを入れるというのだから刺激的にも程がある。攻撃方法はキス、ベロ、流し目の3種類。ついでにひとり用モードを進めていくとユニコーンたちが緑色に変色するあたりも衝撃的だ。
しかしこのゲーム、何が最もすごいかと言えばゲームバランスがすごいのである。2D格闘ゲームなのに「めくり」も「削り」も「投げ」もないので、相手のガードを崩す手段が一切ないのだ。よって対人戦は一発決めたらあとはガードし続けるというのが安牌なのだが、心配無用。本作は当然ながらローカルマルチプレイにしか対応していないので、操作の妨害はなんとかできる。ゲームで先手を取られたら、今度はリアルで攻撃をしかけてコントローラーを手放させればいいのだ。
エロい美少女を見て涙する「Sexy Island Adventure」
「Sexy Island Adventure」というタイトルを見て心を動かされた人もいるだろうが、おそらくその気持ちは上記のスクリーンショットを見た時点で消え失せたことだろう。だが待ってくれ。確かにこの島ではセクシーな美少女を見ることができるのだ。
本作は自然に満ち溢れた島のあちこちを巡り、セクシーな美少女を眺めるという視姦アドベンチャーゲームである。武器や爆弾を駆使して道を切り開いたり、あるいは迷路になっている岩山をくぐり抜けたりすると、なぜか美少女を見つけることができるというわけだ。まるでファミコン時代のようなグラフィックだが、移動速度の遅さや迷路の嫌がらせっぷりなどもそれにそっくりである。ただし、美少女を見つけたときのスチルはふつうのイラストなので安心して欲しい。
「セクシーさで人を釣っただけで内容はふつう未満」と評されそうな本作だが、重要なのは作品内容よりデベロッパーのほうだ。本作はFusion Gamingというデベロッパーが制作しているのだが、そのデベロッパーはおそらくクレイ・シュバイナーという人物の別名義なのである。
クレイ・シュバイナー氏は、女の子の口説き方を四択クイズ形式で教えてくれるしょうもないソフト「How to Get Girls」(驚くべきことにこのいい加減なソフトは6000ドルの売上を記録したらしい)、うまくプレイすればするほど画面がチカチカしてプレイヤーの目と脳にリアルなダメージを与える「Colaris」、ボタンを100万回押すというゲームになっているが実際はボタンを押した数をカウントしているだけの「One Million Taps」など、イカれたゲームばかりを作る人物だ。正直、XBLIGにおける問題デベロッパーのひとりだったと言っても過言ではない。
もともとクレイ・シュバイナー氏はちょくちょく名義を変える癖があり、しかもFusion Gamingは「How to Get a Girlfriend」というクレイ・シュバイナー氏のものとそっくりなゲームを配信していた。これは同一人物の可能性が高いと睨んだ私が本人にメールで聞いてみたところ、「Fusion Gamingの中の人は私の親友です」と答えており、もう少しまともな言い訳はなかったのかと問い詰めたくなった。
いずれにせよ、つまらないどころかプレイヤーに害を与えるゲームを作っていたようなXBLIGの問題デベロッパーが、安易なエロ推しのゲームであろうと至極まともな作品を作り上げた(と推測される)のだ! たとえその作品の出来栄えがいまいちであろうとも、素晴らしい成長だと褒め称えるべきだろう。
6年も同じものを作り続ける職人芸「NewsCopter」
クレイ・シュバイナー氏はおそらく成長したが、逆にほとんど成長しなかったデベロッパーもいた。その名はARCHOR GAMES、ここはとにかくもう同じゲームばかりを作り続けていたのだ。
「NewsCopter」は、ヘリコプターを操作して各地に隠されたアイテムを拾っていく(正確には写真を撮るらしいのだが、別に撮っているシーンはないので拾うという表現でよい)というゲームである。地上のグラフィックには航空写真を使っているため、遠景はともかく近寄ると核戦争かゾンビ・アポカリプスが発生したかのような街並みになる。そもそもヘリコプターのプロペラは回らないし、ビルにぶつかれば軽い金属音が鳴るし、アイテムが隠されている場所は嫌がらせのようだし……と、当然のように問題も取り揃えている。
これだけなら単なる不出来なゲームなのだが、実は「NewsCopter」は、ARCHOR GAMESが2009年4月に配信した「BluePrint Racer 4D」の基本システムはそのままに見た目を少し変えただけなのである。そして2011年11月には操作するものがサメになった「JAWSOME」を(しかもサメになっても接触音は金属のまま)、2012年8月には操作するものが船になった「2 JAWSOME」を、2014年3月には操作するものがテクスチャを貼っていない無人偵察機になり上下移動も削除した「GLOBAL HAWK」を配信していたというわけだ。
ARCHOR GAMESはこれら以外にも大しておもしろくないアドベンチャーなども手がけているが、ガワを少し変えただけの似通ったゲームを6年間も作り続けていたことは事実である。「このデベロッパーはいつ成長するのだろう?」と思ったままXBLIGが終わってしまった。
エラー4地獄から脱することができた「Escape Hell Prison」
落ち込む話をしたので、今度は明るいゲームの話をしよう。「Escape Hell Prison」はGuillaumesoftが開発した2Dアクションゲーム。本作は、主人公のくノ一が地獄刑務所からの脱出を目指すためブッダが隠した魔法のドラゴンを探すという、設定だけでめまいがしそうなタイトルだ。
実写取り込みゲームなのがまたすごい。主人公は開発者の奥さんらしいという噂もあるが(真偽は不明)、かなりふくよかでくノ一というよりは近所のおばさんだ。しかもアクションを行う際はモーションの切り替えがうまくできていないようで、主人公は狂った動きをしながら身体を「く」の字に曲げて地獄刑務所を進むのだから笑いすぎておかしくなる。
背景の牢屋にはなぜかビキニ・ニンジャが捕まっているし、ブッダ・ドラゴンが隠されているタルへ近づくと即死することがあるなど、おもしろ要素はたっぷりだ。挙句の果てにゲームを進めていくと強制終了のエラーが発生し、これが実質的なエンディングになっているというのだから過呼吸になりそうなほど笑える。
そんなふうに私は「Escape Hell Prison」を心底バカにしていたのだが、本作はアップデートが行われだいぶまともなゲームになった。アップデート後は主人公の移動速度が上昇し高速で「く」の字移動ができるように変化、画面がかなり引き気味になり難易度もそれなりに調整されている。もちろんエラーも直されきちんとエンディングを見られるようになったのだ(エンディング内容はきちんとしていなかったが)。
アップデートでまともになって寂しいと思うこともあったが、単純に作品の出来栄えとしてよくなったことは事実。1本の作品をきちんと作り上げるという、制作者の誠意を垣間見た瞬間であった。
制作者の性癖が漏れすぎている「AAH, HALLOWEEN PIE!」
XBLIGは多少の制限こそあれど自由にゲームを配信できたので、それぞれのタイトルには制作者の好みがモロに反映されていることもある。INGENIOUSFUNが制作した「AAH, HALLOWEEN PIE!」はまさにそういった作品で、簡単に言えばムッチムチで少女趣味な女性が「魔界村」的なアクションに挑むという内容である。
どのあたりが「魔界村」なのかというと、このキャラクターはダメージを受けると服が脱げるのである。ここで「なんてセクシーなんだ!」と喜べればいいのだが、いくらスタイルのいい女性でも、眩しすぎるピンク色の服を着ていてしかもテディベアを持った少女趣味、一方で顔はかなり大人びているというのだから、性癖が強烈すぎて私はついていけない(ついでに彼女が乗っている車のナンバーは“PU55Y”であり、ド直球の変態である)。
ちなみにこのゲーム、下着状態でダメージを食らうとミスになるのだが、その際は女性の顔がアップになり“歯並びが綺麗なのに歯列矯正をしている”という事実が明らかになる。もはや、持っているだけでなんらかのポルノ犯罪に関わってしまっているのではと不安になるくらいに性癖が詰め込まれているのだ。
ついでに本作は非常に高難易度だ。女性は魔女に助けてもらうため道中に落ちているカボチャを集めることになるのだが、ザコ敵は延々と無限湧きを続けるためどうしてもダメージを受けてしまう。2段ジャンプができるので避けていけばいいと思いきや、地面に降りるとそこにはガイコツがいるのでほとんどどうしようもないというわけだ。私はいまだにクリアできていないし、クリアできる気もしないし、ついでに言えばクリアしようという気も起きない。
余談になるが、現在INGENIOUSFUNはSteamで「BootyBuns & 21」という作品を配信している。内容は脱衣ブラックジャックで、性癖も相変わらずな模様。お盛んなようで何より……。
突如、子供たちに牙を剥いた「Sidewalk Sally」
性癖といえば「Sidewalk Sally」を忘れてはならない。本作は、巨乳で露出度の高い女性がローラーブレードに挑戦するというミニゲームなのだが、そもそも「Sidewalk Sally」には“立ちんぼ”というスラングがあるらしく、つまりはそういうスケベ心が透けて見えるゲームなのだ。
サリーは昭和のアイドルのような髪型をしているのみならず足腰が弱く、雑草だろうが歩道のひび割れだろうが何にぶつかっても転ぶので、操作性が最悪なジャンプで避けなければならない。そして歩道はどこまで続くかまったくわからないほど長く、この作品もまたクリアした者がいないであろう高難易度ゲームなのだ。
これだけなら少し変なゲームという話になるのだが、本作を制作したSoft Sell Studiosというデベロッパー、実は子供向けゲームばかりを配信していたところなのである。正確には技術力不足で簡単なゲームしか作れずそれを子供向けと誤魔化していたのだろうが、そんなデベロッパーがいきなりスケベな要素を含むゲームを作って出したのだ。これにはSoft Sell Studiosの作品を子供に与えていた親たちが意義を申し立てることになる……と思いきや、そもそもそんな層はいなかったので特に問題はなかった。
しかしながら子供向けゲームを制作しているデベロッパーが本作を配信していてはマズいと思ったのか、あるいは子供に鞭を打つような超高難易度のせいか、本作はしばらくしてマーケットプレイス上から姿を消した。「Sidewalk Sally」は、子供の相手をしていた大人が一瞬だけ助平心を見せた瞬間である。
じゃんけん未満「Truth or Treason」
「Truth or Treason」の何が素晴らしいかといえば、じゃんけんを劣化させることに成功させたという部分だ。本作はローカル2人マルチプレイ専用のゲームで、三すくみになっている3種のキャラクターのどれかひとつを出して相手と勝負をする。勝負の前には“見せあい”を行うため、相手がどのキャラクターを出してくるか読む……というわけだが、要は“どんな手を出すか事前に宣言するじゃんけん”と同じなのだ。
それだけならまだしも、あいこ状態になったら連打で勝負が決まるという謎のシステムが搭載されており、端的に言ってXbox 360の電源をつけてコントローラーをふたつ用意してモニターの前に座る価値を感じられない一作となっている。
ただ本作、習作として考えると途端に愛着が湧くのだ。「とりあえず何かゲームを作りたい!」という気持ちから作ったはいいものの、できたものはじゃんけん未満。もしもピアノが弾けたとしても、思いを形にできるかどうかはまた別の話なのである。
猫好きによる猫撲殺STG「Charlie Cat's Hot Air Balloon」
インターネットの8割は猫の画像や動画で構成されているらしいが、XBLIGでも猫好きによる侵略が行われていた。「Charlie Cat's Hot Air Balloon」は制作者が大好きな猫ちゃんを主役にした横スクロールシューティングゲームで、デベロッパー名はCute Cat Gamesというのだからまさしく猫可愛がりというやつである。
とはいえこのデベロッパー、ゲーム制作者としての矜持も持ち合わせている。シューティングとなれば歯ごたえがあったほうがいいし、敵もきちんと存在したほうがいい。そう考えたのかはしらないが、結果として自機の当たり判定は異常に大きくなり、砲台で攻撃してくる敵の猫たちをリンゴでボコボコにするといったゲーム内容になった。
猫を愛したがゆえに猫をリンゴで倒すというゲームになったという事実、ルイス・ウェインの描いた猫の絵に通じる恐怖がある。ちなみに全体的な難易度は高いが、なんとかクリアできる程度のレベルなので安心して欲しい。
絶望が詰まったFPS「The War of the end of the days」
“オススメしないゲームの紹介”という矛盾もついに最後となる。「The War of the end of the days」はまさしくラストにふさわしい世界の終わりを表現したFPSだ。このゲームは冗談抜きで体調を崩すくらいにおもしろくない。
本作は単純に出来が悪く、敵に弾を当てると爆音が鳴ったり、「ミョン ミョミョン ミョン ミョン」というBGMなのか洗脳音波なのかわからないものが流れていたり、そもそも敵のロボットは近寄らないと棒立ちしたまま(逆に自分の攻撃も近寄らないと当たらない)と、すべての場所に問題が散見されるのだ。
銃弾が切れたらいちいち取りに戻らなければならないので、たびたび敵の前から離席して補充に行き、戻ってくると敵も戦いを再開してくれる。頭がおかしくなりそうな音を聴きながらそんな虚無とも呼べる行為を繰り返していると、本当に世界の終わりを疑似体験しているような気になってくるほどだ。
おまけにこのゲーム、後半のほうで先に進めなくなるようだ。私の検証不足かもしれないのだが、どうも途中の道が塞がってしまっているらしい。頭がおかしくなりそうなのを我慢しつつプレイしたのに、最後に待ち受けるのは詰みという絶望。一般的なゲームタイトルではまず味わえない感覚が本作にはある。
消え行く石こそが歴史の大部分
改めて書いておくが、XBLIGには名作もたくさんあるのだ。全方位シューティングの決定版「Radiangames JOYJOY」をはじめとするRadiangamesシリーズ、インベーダーに弾幕STGを組み合わせた「Decimation X」、穴掘りの楽しさを教えてくれる「Miner Dig Deep」、クトゥルフが世界を救うRPG「Cthulhu Saves the World」もXBLIGで配信されていたし、Xbox 360のアバターを使ったミニゲームのブームや、「マインクラフト」のクローン作品の流行など、いろいろ見所はあったことは間違いない。ただ、正直なところ石のほうが割合的に多かったのである。
多くの人がゲームを配信できるという場にすると、必ず困ったことが起こる。先日Steamで200以上の低品質ゲームが削除されたと話題になったが、参入障壁が下がれば下がるほどこういった難点が出てくるし、App StoreやGoogle Playにも問題はたくさんあるだろう。XBLIGにも間違いなく共通する問題があったし、何よりこういった“石”はむしろ迷惑な存在として考えられていたかもしれない。
とはいえ今回紹介した作品は、デベロッパーたちが(おそらく)丹精込めて作ったゲームであり、XBLIGの歴史の一部であることは間違いない。もはや忘れ去られるだけの作品群だが、もしあなたがこの記事に掲載されているゲームのことで笑えたり、あるいは印象に残ったのであれば、頭の片隅にでも置いてあげてほしい。それはおそらく、消え行く歴史に対しての敬意となることだろう。