二村ヒトシさんと川崎貴子さんによる人気連載シリーズが一冊の本になりました。題して『モテと非モテの境界線』。今回は書籍化を記念した特別編として、男性学の専門家・田中俊之さんをゲストにお迎えします。恋愛を切り口に、現代の男たちが抱える生きづらさについて、3賢人が冷静に、熱く語り合う――。(構成/崎谷実穂、撮影/村田克己)
二村: 先日スナックで飲んでいたら「ある種の男は、別れた相手ともう一回セックスできると思っている」という話になったんですよ。別れてもまだワンチャンある、相手はいつまでも俺のことを嫌いじゃないと思っちゃう、と。
川崎: なんと図々しい! 女性は、特に新しい彼ができると記憶喪失レベルで元カレの存在をなかったものにしますけどね(笑)。
二村: で、これは男にはオチンチンがあるからとかそういうことではなくて、じつは社会的な問題なんじゃないかと考えたんです。
男性はセックスする相手に、自分からアプローチする側です。少なくとも今の社会ではそういうものだとされている。選ぶ側から発想するから、断られるということはあっても、一度受け入れてくれた元カノがもはや好いてくれてないってことには思い至らないんじゃないか、と。
田中: 男性は自分から行かなければいけないので、向こうからどう来るかということはあまり意識していないんですよね。
川崎: セックスそのものの構造やパターンも、影響しているのかもしれませんね。
二村: でも、なかには「男はセックスでも自分からアプローチするべき、たくましい存在である」というイメージに馴染めない男性もいて、実際にそういう人たちが増えているから、田中先生がやってらっしゃるような男性の生き方を問い直す研究に、注目が集まっているんじゃないでしょうか。
田中: 社会学の分野でも、女性は「愛される側」、男性は「愛する側」として能動的に行動する、という役割についての研究が行なわれています。ここで、じゃあ拒否権はどっちにあるのかということを考えると、じつは女性の方なんですよね。アプローチされる側なんです。つまり、受け身だからこそ拒否権があるという逆説的な強さを女性は持っている。
川崎: 確かにそうですね。ただ、私は男性にも「選ばれる性」を体験してほしいと思っていまして、女性向けの結婚情報サイトを立ち上げようとしているんですよ。男性は無料で登録できるけれど、自分からアプローチはできなくて、女性からのアプローチを待つ仕組みです。
田中: なるほど、それはおもしろいですね。