人の多い飲み会に感じる孤独の正体は何だろう。
そこに自分の居場所あっても、誰かとつながることにふと空しさをおぼえる瞬間が唐突にやってくる。
散会したあと、冷たい空気のなか独りで歩く夜道は、なぜあんなに満たされているのだろう。
遠い集合住宅の窓にひとつだけ点いた明かりを見ると、誰と親しく話しているときよりも心地よい人の温度を感じる。
僕とはまったく関係のない場所で誰かが暮らしている。そんなあたりまえの事実が救いになることはないだろうか。
というわけで、『ガールズ&パンツァー』の秋山優花里さんのフィギュアを買った。職場の机に置いてある。
ア~~~~~!!
最高~~~~!!!!
何が最高って、「モニターから少し視線を落とすだけでそこに小さい秋山優花里さんがいる」という事実が最高である。
蒙昧の民のために説明すると、秋山優花里さんとは県立大洗女子学園に所属する高校生である。架空競技「戦車道」を履修していて、西住みほ率いる「あんこうチーム」の装填手を担っている。
笑顔で敬礼する姿からもわかるが、彼女の持ち味はその素直さと優しさだ。隊長の西住みほを尊敬していて、チームの力になりたいと本気で思い、逆境の中を奔走する。
僕は秋山さんの「人を尊敬できる」という点を深く尊敬している。
アニメキャラクターを「嫁」として愛す風潮があるが、僕個人には全くしっくりこない。砲弾を抱えて敬礼する彼女の瞳に映っているのは僕ではなく、きっと西住みほである。だが、それがいいのだ。
現実と虚構という谷に隔絶されていても、僕は「向こうの世界」に息づく彼女の存在を確かに感じ取ることができる。それは僕にとって、夜の水平線上に灯る光のような輝きをもっている。
仕事中、僕がPCの前で頭を抱え悩むとき、かたわらに座る秋山さんは「お仕事がんばってください!」と励ましてはくれない。彼女はいま樹脂の形を借りて机の上にいるものの、本当は「こちら側」の存在ではない。向こうの世界では劇場版とかいろいろあって忙しいのだ。
しかし、僕が「あちら側」の秋山さんに「戦車道がんばってくださいね!」と思うことはできる。そう思うことによって、僕は独りの魂として励まされる。
そしてこう思う。
「最高~~~~!!!!」
と。
そんな気持ちを胸に秘めてPC横の秋山さんにエールを送りつつキーボードを叩いていたら、同僚のまきのが後ろを通りがかった。
「お、フィギュアやんけ」
まきのはフィギュアをひょいと持ち上げてひっくり返し、
「白」
と言って元に戻して去っていった。
絶対に許さない。