私のエイジングデザイン

<更年期治療>ホルモン補充療法(HRT)を受ける 人生の新しい一歩を踏み出すきっかけになった

 女性の更年期は、子どもの巣立ちや親の介護、転・退職など人生の節目で、様々な変化が起こりやすい時期に重なる。エストロゲン減少だけでなく、そうした環境要因も更年期症状に影響すると言われている。

家庭内トラブルで疲労困ぱい 電車に乗るとパニックに

 親の死、相続に伴うトラブル、夫との関係悪化、それに自身の体の不調も重なって「40代は大変な時期を過ごしました」と振り返るのは東京都のB子さん(53)。47歳から始めたHRTは、体だけでなく、気持ちの支えにもなったと話す。

 私が45歳のとき、大腸がんで闘病していた母が亡くなりました。わずかその1か月後には、父が肺炎を起こしてあっという間に……。続けざまに両親の葬儀を出すなり、今度は弟との間で相続をめぐるトラブルが起きました。本来、頼りになるはずの夫との間は冷え切っていて、自分の家にも心が落ち着く場所はありませんでした。疲れが続いたせいか、体重が減り、腰痛も出るようになりました。

 そのころ、自身の大腸がんの検診でもポリープが見つかった。そんな体の不調は、心の不調にも飛び火した。

トラブル続きでパニックになることが

トラブル続きでパニックになることが

 イヤなことばかり続いたせいか、混んだ電車に乗ろうとすると急に胸がドキドキし、冷や汗やめまいが起こるパニック発作に襲われるようになったのです。通勤が恐ろしくなり、もう仕事をやめるしかないのかとまで追い詰められました。

 年上の同僚女性に相談したところ、「生理は? ちゃんと来ている?」「一度、婦人科に行ってみたら」と勧められました。

 そう指摘されると、1年半ほど前から月経不順で、この数か月はほとんど来ていませんでした。同僚は自分自身も更年期の症状に悩んだらしく、体にも心にもいろいろな症状が出た経験があったことで心配してくれたのです。

 勧められた婦人科クリニックを受診して女性ホルモン検査を受けると、医師からは「エストロゲンがほとんどなく、閉経状態」といわれた。このときはまだ47歳。「閉経するには少し早いと感じていましたし、心身の不調が更年期症状から来ているのだとしたら、これで楽になるかもしれない」と期待して、HRTを始めることにした。

腰痛まで更年期の症状だったとは

 クリニックで処方してもらったのは、2日に1枚ずつ貼る「エストラーナ(エストロゲン薬)」と、1週間に2枚(3~4日に1枚)貼る「メノエイドコンビパッチ(エストロゲン・黄体ホルモン合剤)。どちらも腹部に貼るパッチ剤で、2週間ずつ交互に貼ることで、月経のような出血を起こす「周期的併用法」を行った。複雑な薬の管理に戸惑っていたら、医師がHRT用のダイアリーをくれた。そこで、薬を貼った日や気になる症状、体調などをまめに記録するようになった。

ダイアリーで薬の管理を行う

ダイアリーで薬の管理を行う

 もともと細かい手作業が好きだったので、ダイアリーに記録をしていくことは性に合っていたんですね。当初、感じた下腹部痛や頭痛、出血の状態。ふくらはぎの痛み、微熱など、感じたことは何でも記入しました。

 更年期とは直接関係がない症状かもしれないけれど、しっかりと記録をしておけば、もしものときに医師が対処してくれたり、専門医の紹介を受けたりできるだろうと考えてのことでした。

 

 

 ダイアリーには婦人科以外の検査結果票なども貼り付けた。まるで母子手帳のように活用したことで、医師からは「あなたほど、この手帳を使いこなしている人はいない」と感心された。「HRTによって、医療とつながっていられる安心感も大きかった」とB子さんは言う。

 しばらくして気づいたら、いつの間にか体が全体的に軽くなるように感じ、悩まされてきた腰痛もなくなっていた。

 腰痛も更年期症状だったのは意外でした。そのうちに、気になっていたことが気にならなくなり、パニック発作も感じなくなって、電車にも恐れずに乗れるようになりました。

 すべての症状がHRTで改善したかは別にして、「この治療をしているのだから大丈夫」という安心感が、心の支えになっていたと思います。

 日々の気力を取り戻したおかげで、弟との間の相続問題も乗り越えることができ、仕事への集中力も出てきました。

 結局、夫とは離婚することになりましたが、縁あって趣味の音楽仲間と再婚しました。娘が結婚して孫が生まれたりと、今は楽しく暮らしています。

いつまでも、やりたいことができる自分であるために

 HRTを始めて5年が過ぎた。途中で出血のコントロールがうまくいかず、錠剤の黄体ホルモンに変えたり、エストロゲンの量を減らしていくために製剤を変更したりもしたそうだ。

 長期のHRTは乳がんのリスクが少し出てくると聞いているので、検診はきちんと受けています。一方で、大腸ポリープを切除している私にとって、大腸がんのリスクを下げるとされているのは心強いです。

 いろいろな不調が重なっていた40代のころに比べると、現在の自分のほうが頭は働いている気がします。これも女性ホルモンのおかげかな、と感じています。

 今は会社で経理の仕事をしながら、社会保険労務士の資格試験にチャレンジしています。最近、70歳を過ぎて現役の社労士として活躍されている女性と知り合いになり、「あなたにもできる」と励まされたばかり。

 HRTも6年目に入って、医師に「この先、どうする?」と聞かれたので、仕事や資格について話すと、「それじゃ、まだHRTは続けたほうがいいね」となりました。

 いくつになっても、しっかりとやりたいことをできる私でいたいと思っています。

(南雲つぐみ 女性の健康とメノポーズ協会)

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