ドリーム NASAを支えた名もなき計算手たち (ハーパーBOOKS)
- 作者: マーゴット・リーシェタリー,山北めぐみ
- 出版社/メーカー: ハーパーコリンズ・ ジャパン
- 発売日: 2017/08/17
- メディア: 文庫
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目次
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モデルのある映画だから調べて観たい
映画を観る前にどんな映画なのか知りたくないですか?
ネットで知り合った人に映画の話をしようとしたら、その映画の話をしないで、と言われたことがあります。彼はストーリーの展開を知ってしまうと、興味が薄れてしまうのを心配しているようでした。
私は逆で、映画見に行く前に、Yahoo!映画で評判を調べたり、映画の公式サイトをみたり、解説記事を読んだりします。映画を観てつまらないと酷く損した気分になるのが嫌ですから、面白いかどうかを調べます。
調べると楽しみがかえって増えて、余計に観たくなることが多いようです。
テレビで旅番組を見るとそこに行きたくなったりするじゃないですか。
カズオ・イシグロさんがノーベル賞を受賞しました。彼が日本生まれであること、今までの作品のこと、村上春樹さんも会ったことがあって読んでいることなど、情報が増えれば読みたくなるじゃないですか。それと同じです。ノーベル賞を受賞しからと言っても作品の内容は変わらないんですけどね。
映画『ドリーム 私たちのアポロ計画』の邦題が酷すぎると炎上したことがありました。なぜ炎上したのかというと、映画は「マーキュリー計画」を描いているからです。
その映画が『ドリーム』にタイトルを変え、公開されたので観てきました。
この映画にはモデルになった人たちがいます。映画の時代背景、モデルたちのことなどを知れば、もっと映画を楽しめるのではないかと考えて調べてみました。それを紹介します。
原題は『Hidden Figures』
邦題は『ドリーム』ですが、原題は『Hidden Figures』。
「Hidden」が「隠れた、隠された」と言う意味。
「Figure」は、元々は「形」と言う意味ですが、「人物」という意味もあるようです。
『Hidden Figures』は「隠された人たち」のことです。人間を地球周回軌道上に送り安全に帰還させる「マーキュリー計画」には、アメリカ初の宇宙飛行士となった「ジョン・グレン」など多くのヒーローがいますが、それを影で支えた人たちがいるのです。
この映画に登場する三人の黒人女性はロケットを飛ばすための計算をしています。コンピュータが取り入れていなかった時代には複雑な計算をする能力が必要だったのです。
モデルになった女性たち
『Hidden Figures』はNASA・ラングレー研究所 で働いてた三人の女性をモデルにしています。
こちらがNASAの彼女たちをたたえるサイトです。
映画に登場するのは次の三人です。
- Katherine Johnson - Wikipedia
映画ではアフリカ系アメリカ人のタラジ・P・ヘンソンが演じていますが、本人の写真をみるとアフリカ系ではなさそうです。黒人の一般公共施設の利用を禁止制限した「ジム・クロウ法」に次のようなことが規定されていたのです。
この対象となる人種は「アフリカ系黒人」だけでなく、「黒人の血が混じっているものはすべて黒人とみなす」という人種差別法の「一滴規定(One-drop rule)」に基づいており、黒人との混血者に対してだけでなく、インディアン、ブラック・インディアン(インディアンと黒人の混血)、黄色人種などの、白人以外の「有色人種」(Colored)をも含んでいる。(Wikipedia「ジム・クロウ法」より)
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Mary Jackson (engineer) - Wikipedia
彼女の経歴を見ると「Human computer」というのが目につきます。現在では「コンピュータ」と言えば電子計算機のことですが、「マーキュリー計画」の当時は「計算する人間」のことだったのです。(Mary Jackson Biography | NASA) - Dorothy Vaughan - Wikipedia
電子計算機が導入されたとき、プログラミング言語「FORTRAN 」を教えた人です。(Dorothy Vaughan Biography | NASA)
この三人の女性が人種差別を受けながらも、実力を発揮して自分たちの道を切り開き、「マーキュリー計画」で「ジョン・グレン」の宇宙飛行が成功するまでが描かれます。
このをトランプ大統領が観たらどんな感想をもつか・・・、きっと観ていないと思う。
どんな時代だったのか
1961年。アメリカとソ連が宇宙開発競争を繰り広げている時代の話です。そのころのアメリカは白人と有色人種の分離政策が行われていました。黒人専用のトイレを使わなくてはならなかったり、バスに乗るときはバスの後部に乗ならければなりません。図書館も分かれていました。
黒人差別との闘いの歴史についてはこちらに詳しい情報があります。
その当時の主な出来事を記載してみます。
- 1953年 2月1日 - 日本で初のテレビ放送を開始。
- 1957年10月4日 - ソ連、人工衛星スプートニク1号の打ち上げに成功。
- 1958年1月31日 - アメリカ初の人工衛星・エクスプローラー1号の打ち上げに成功。
- 1960年 9月10日 - 日本でカラーテレビの放送開始。
- 1961年1月20日 - アメリカ合衆国大統領に、ジョン・F・ケネディ就任。
- 1961年4月12日 - ソ連、人類初の有人衛星にガガーリン飛行士を乗せ地球一周。
- 1962年2月20日 - アメリカ、ジョン・グレンが地球周回に成功。
- 1962年3月1日 - 日本のテレビ受信契約者が1000万突破(普及率48.5%)。
- 1963年8月28日 - ワシントン大行進。ワシントンD.C.で行われた人種差別撤廃を求めるデモ。
- 1963年11月22日 - ケネディ大統領がダラスで暗殺される。
- 1964年7月2日に公民権法制定。
- 1964年10月10日 - 東京オリンピック。
私が生まれたのが、テレビ放送が開始された年です。
中学校の社会科の教師が言っていたダジャレを覚えています。「アメリカの欲しいものスプートニク、ソ連の欲しいものスープと肉」。
映画を観ていて感じるのは、アメリカの圧倒的な豊かさです。ジョン・グレンが宇宙飛行に成功したころ、私はDASHに出てくるような茅葺屋根の家に住んでいました。
映画に登場するアメ車
この映画の面白のひとつは、観る人を1961年のアメリカに連れて行ってくれること。その時代を演出するために、車、テレビ、住宅、ファッションも1961年を感じさせるものになっています。映画の映像もコントラストの高いはっきりした映像でなくて、古い時代を感じさせるもののような気がしたのですが、それは私の思い過ごしかもしれません。
映画のオープニングは、エンコして動かない大きなアメ車を、三人の黒人女性がなんとか動かそうとしているところから始まります。
バスでNASAに通勤するには、差別を受けてバスの後部座席に座らなければなりません。それが嫌なので彼女たちはオンボロ・シボレーに乗って通勤するのです。
その車がこの「シボレー・ベル・エアー」です。
(1957 Chevrolet Bel Air sport sedan CC BY-SA 4.0)
そこに1964 Ford Customに乗ったおまわりさんが来て職務質問をするのですが、その動画はオフィシャルサイトにあります。
この映画に登場する車を紹介しているのが、こちらのサイト。
よくも丁寧に調べてあるもんです。感心してしまいます。
その頃、私は8歳くらい。毎日、学校の帰りに友達の家に寄って遊んでいました。
彼の家にはオモチャのレーシングカーやステレオがありました。彼の両親はどちらも学校の先生をしてましたから、かなり裕福な家庭だったのです。それをいいことに私たちは毎日上がり込んで、ステレオにレコードをかけて、ホウキをもって、テケテケテケテケ・・・って踊ったりしてました。今思えばあのレコードはベンチャーズの「パイプライン」だったようです。
その彼の家にあったのがこの車「トヨタ・パブリカ」です。
彼は毎週日曜日になるとこの車で町までバイオリンを習いに行っていました。毎日農作業の手伝いをさせられている私とはまるっきり違った生活してました。
(クリエイティブ・コモンズ CC0 1.0 全世界 パブリック・ドメイン提供)
もちろん、私の家に車はありませんでしたが、「シボレー・ベル・エアー」に比べて、「パブリカ」の貧弱なこと。
当時の日本とアメリカ、NASAと田舎の差に愕然としてしまいます。
映画に登場する電子計算機
この映画にはロケットの打ち上げ、着陸、軌道計算をするために導入された大型計算機が登場します。それが IBM 7090 です。
NASAのマーキュリー計画で使われた7090(Wikipedia「IBM 7090」より)
IBM 7090は、IBMの科学技術計算用第二世代トランジスタ版メインフレームであり、真空管ベースの IBM 709 の後継マシンである。最初の7090は1959年11月に稼動。1960年、典型的なシステム価格は290万ドルで、レンタルでは月額63,500ドルであった。
ワード長は36ビットで、アドレス空間は32Kワード。基本メモリサイクルは2.18μ秒。IBM 7030 (Stretch) プロジェクトから生じた IBM 7302 磁気コアメモリ記憶装置を流用している。(Wikipedia「IBM 7090」より)
これより古い709は真空管を使っていましたが、7090はロジックはトランジスタで組まれていたようです。
磁気コアメモリ。名前は聞いたことがありましたが、実物は見たことがありません。
命令形式とデータ形式
基本命令形式は IBM 709 と同じで、「プレフィックス」3ビット、「デクリメント」15ビット、「タグ」3ビット、「アドレス」15ビットから構成される。(Wikipedia「IBM 7090」より)
レジスタの構成は乗っていないのですが、IBM 709 と同じようなものだったのかも知れません。
アキュムレータ×1、38ビット
積・商レジスタ×1、36ビット
デクリメントレジスタ×3、15ビット(Wikipedia「IBM 709:レジスタ」より)
デクリメントレジスタはインデックスレジスタのこと。そこにメモリアドレスを入れてレジスタとメモリのデータ転送などができたようです。
今では考えられないほど大きな計算機です。このマシンが大き過ぎて部屋に入らず、壁をハンマーで壊すシーンもあります。
NASAに「IBM 7090」が導入されたけれども、プログラマーがいなくて使えません。そこでドロシーが、これからはコンピュータの時代だ計算手はいらなくなると「FORTRAN」を学んで、みんなに教えます。
黒人女性たちの力が認められるシンーをみると、胸がすっきりします。
IBMに映画「ドリーム」の特設サイトが出来ていました。コンピュータ好きが楽しえそうな情報が満載です。
一方、私が初めて触ったコンピュータはこんなに小さいものでした。
1976年2月に発売されたNEC「TK-80」。定価が88,500円。「IBM 7090」からすると破格の安さです。たった15年でこんなに進歩したかと思うと驚きです。
(wikipedia : TK-80 より)
映画には歯車で計算する機械式計算機が電動になったものが登場するのですが、その写真や資料は見つけることが出来ませんでした。
まとめ
実在するモデルがいる映画『ドリーム』観てきました。まだ人種差別が酷かった時代、NASAで計算手として働く黒人女性たちの物語です。
映画の時代背景、モデルたちのことなどを知れば、もっと映画を楽しめるのではないかと考え、映画に登場する車、計算機について調べてみました。調べた情報があると映画をもっと楽しめると思います。
アメリカでは『ラ・ラ・ランド』を超える大ヒットだったそうで、映画 映画評論家の町山智浩さんが、その理由をこんなふうに解説しています
「黒人は学力が低いとかそんなことはないんだ。女の子は数学ができない。工学とかエンジニアリングはできないとか、そんなことはないんだよ! アメリカのロケットを実際に動かしたのはこの人たちなんだよ!」っていうことを実際に見せるということで、すごい動員が伸びたんですよ。
生きる勇気を分けて貰える映画です。