10日ほどアメリカに出張してきました。
私の仕事はM&Aのアドバイザーなのですが、なにもクロスボーダーのディール交渉に行ったという訳ではありません。
実は今後の当社の戦略を練る参考にする為の諸々の視察が今回の目的。
5年先、10年先を見据えての戦略策定というのはいつでもできる事ではありません。
やはりタイミングというのがありまして、大きな変化が見込まれる今だからこそ、少し先の戦略を考えよう、という訳です。

さて、我々のような民間企業だけでなく、大きな戦略を立て、今後のはっきりとした道筋を造っていくのが大事なのは国家も一緒。
 
ところが帰国早々、例の増税がらみの論争の中で、その基礎となるべき今後の社会保障の収支見込みを非公表にすると野田内閣が決定したというニュースが流れてて唖然としました。
いくらお金が必要だから、いくら増税するというのならわかりますが、その理由も金額も明らかにせずに増税だけしようというのだから困ったものです。

しかし誰でも疑問に思うのが、なぜ未来の予測を公表できないのか?ということです。
今日はそれに関する、少し、というか相当恐ろしいお話です。
 

☆ 消えた90兆円の年金積立金 ☆

何年か前、自民党内閣時代に、100年年金安心プラン、とかいうのがあったのを覚えてますでしょうか?
確か舛添さんかなんかがこの法改正で、年金は100年は大丈夫と胸を張っていたやつです。
ところがあれから数年もたたずに、社会保障制度は破綻寸前でこのままで行くと年金は持たない、と言われる有様になりました。
いったいなぜ、こんな事になってしまったのでしょう?

それを解く鍵に一つに、日本医師会のシンクタンク、日本医師会総合政策研究機構(日医総研)が2002年4月にまとめた『公的年金積立金の運用実態の研究』というレポートがあります。

その中身は非常にショッキングなものです

なんと存在するはずの年金積立金143兆9858億円に対し、実質破綻と評価される特殊法人、地方自治体などに融資され回収見込みのない積立金が実に87兆8857億円に上っており、年金の財源として残っている積立金は、実質たった56兆1001億円しかないというのです。

つまり、年金積立金はとっくの昔に空っぽになっており100年安心どころかすでに実質破綻寸前になっている、らしいのです。
特殊法人への融資

このレポートによると大蔵省資金運用部(当時)から27の特殊法人に財政投融資の形で貸し出された金額のうち、実に24法人が実質返済不能の状態にあり、その総額は184兆円に上っている、そうです。

帳簿上これらの特殊法人からの利息などの運用収入は95兆4000億円あがっています。
一見すると貸したお金が利息を生んでいるようですが、実際にはそれ以上の金額をこれらの法人に追加融資しているのです。
つまり、単に利息分を貸し付けて回収しているだけで、これは自転車操業以外のなにものでもありません。

この貸し出しの元本は郵便貯金255兆円と年金積立金144兆3000億円。
 
郵便貯金はいずれ預金者に返済しなければならないので、長い事流用はできませんから、そのしわ寄せは当然年金積立金の流用に回ってくるということになります。

財政投融資制度は小泉政権下で廃止され、現在は財投債がそれに代わっていますが、小泉元首相があれほど郵政民営化にこだわったのは、この財政投融資の恐るべき損失を知っていたからでしょう。
しかしその小泉首相でさえ、年金積立金の流用には手をつける事はできませんでした。(彼は元々厚生族だったのも関係しているのかもしれません)
その結果、我々が老後の為に積み立てていると信じてきた年金は、そのほとんどが食い荒らされた状態になってしまったのです。


☆ 年金を食い潰した20匹のシロアリ達 ☆

以下が不良債権化しているとされる財政投融資のベスト20です。(いずれも2002年当時 日医総研調べによる)

1)住宅金融公庫 23兆4518億円
2)地方自治体 17兆5000億円
3)年金資金運用基金 10兆6150億円
4)特別会計 10兆6000億円
5)日本政策投資銀行 4兆3490億円
6)国際協力銀行 3兆9683億円
7)都市基盤公団 3兆9017億円
8)日本道路公団 3兆5212億円
9)国民生活金融公庫 2兆7982億円
10)農林漁業金融公庫 1兆823億円
11)福祉医療機構 9800億円
12)中小企業金融公庫 8478億円
13)首都高速道路公団 6196億円
14)阪神高速道路公団 5292億円
15)沖縄復興開発金融公庫 4660億円
16)鉄道建設、運輸整備機構 3158億円
17)本州四国連絡橋公団 3052億円
18)日本育英会 2871億円
19)電源開発 2795億円
20)石油公団 1431億円

勿論これらの特殊法人がすぐに倒産し、年金財政に穴があく訳ではありません。
 
問題は寧ろ、これらの特殊法人は特殊法人故に決して倒産しないことにあります。
つまり、これらの不良債権は税金で穴埋めするしかなく、今後いくら損失を膨らませようとも、流用した年金積立金の返済 = 増税 という図式にならざるを得ないのです。

更に恐ろしいのはこのデータはもう10年も昔のもので、それから更に損失は拡大しているのは確実だということです。
一時期話題になったグリーンピア事業に投じられた数千億円などはまだかわいいもので、運用自体も株式投資の失敗などで23年度第二四半期だけで3兆7326億円の損失を出しています。
正直全体ではいったいどれくらいの損失を出しているのか想像もできないほどです。 

では現在の損失額はどれくらいに拡大しているのか?
 
実は恐ろしい事なのですが、それがさっぱりわからないのです。
年金積立金が本当はいくらあるかについては、何度か国会でも取り上げられてたようなのですが、なにせ特殊法人の経理が複雑怪奇なのと、肝心の資料がほとんどでてこないので、誰にも正確なところがわからないのだとか。

そして更に絶望的なのは、このことに対してだれも責任を取ろうともしなければ、追求しようともしないということです。 

ユーロ危機の際、お役人天国のギリシアを揶揄する声が多くありました。

しかしこれで、日本は本当にギリシアを笑えるのでしょうか?