「恐ろしい化け物の仮装をする」といえば、10月31日のハロウィーン。元々はケルトの収穫祭であり、死者の霊が家族を訪ねてくるのだ。
しかし、その際に悪霊も一緒について来てしまうので、脅かして追い払う、あるいは仲間のフリをして身を守る、というのが仮装の由来と言われている。可愛い仮装では本来はダメなのである。
さて、ハンガリーのモハーチという町には、同じようにモンスターの仮装をして町を練り歩く祭りがある。ただし、こちらは2月に行われるのだ。
そして、この祭りにも、「怖い」モンスターの仮装をする理由が存在するのである。
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モンスターが練り歩く祭り
ハンガリーと南側のクロアチアとの国境近く、ドナウ川沿いにモハーチという小さな町がある。この町では、毎年2月に「ブショーヤーラーシュ」という祭りが行われる。
Busó járás Mohácson
ブショーヤーラーシュの中では、「ブショー」という仮装をした人々が登場する。木製の恐ろしげな仮面に山羊の角、そして羊の毛皮の外套という出で立ちだ。この仮面は一つ一つ違う手作りのもので、身につける人の内面を表すと考えられているらしい。
imege credit: Qji / Wikimedia Commons [CC BY-SA 3.0 or GFDL]
伝統的にはブショーとなるのは男性だが、近年では女性のブショーも少数ながら現れている。他の女性たちは、オスマン帝国時代を思わせる服装に、口元を隠すレースのついた仮面をつけている。
image credit: vimeo
手漕ぎ舟でドナウ川からやってきた500人ほどのブショーは、徒歩で、あるいは飾り付けを施した馬車や自動車に乗り込み、町中をパレードするのだ。その手には、回して音をたてるおもちゃのような楽器や、ベルなどが握られている。
imege credit: Barath GaborBenno / Wikimedia Commons [CC BY-SA 2.5]
謝肉祭としてのブショーヤーラーシュ
ブショーヤーラーシュの持つ意味合いのひとつは、「カーニバル(謝肉祭)」だ。キリスト教会では毎年3月~4月のどこかの日曜日にイースター(復活祭)を祝う。イースターまでの、日曜日を除く40日間「レント(四旬節/受難節)」という。
レントの始まりの日を「灰の水曜日」という。ブショーヤーラーシュが行われるのは「灰の水曜日」の直前の6日間だ。
レントの期間中は、飲酒や肉食を避け、節制することが求められる。そのため、レントに入る前に酒池肉林の宴会を行うのがカーニバルなのである。ブショーヤーラーシュにおいても、人々は浴びるほど酒を飲むそうだ。
image credit: vimeo
歴史を伝えるパレード
ブショーヤーラーシュは単なるカーニバルではない。「歴史を伝える」という側面もあるのだ。この側面が、ブショーが登場する理由なのである。
西暦1526年のこと、オスマン帝国軍がモハーチに侵攻した。モハーチの住人は町の外へと逃げ出し、森に隠れていた。
そこへ、神秘的な老人が現れ、仮面と武器、そしてベルを身につけて待つように、と告げたのである。そうすれば、騎士が現れ、町を取り戻すための戦いを率いてくれるだろう、と。
数日後の夜、老人の言葉通りに騎士が現れ、仮面と武器を身につけた人々を率いてモハーチへ向かった。町に駐留していたオスマン軍はベルの音を聞き、悪魔がやって来たと信じて逃げ出したのである。こうして人々は町を取り戻したのだ。
この物語を現代に伝えているのがブショーのパレードなのである。
imege credit: Dankahazi Lorant / Wikimedia Commons [CC BY-SA 3.0]
冬将軍の葬送
そしてまた、ブショーヤーラーシュは「冬の終わり」を告げる祭りでもある。より古い言い伝えでは、人々が追い出したのはオスマン軍ではなく冬将軍だとされているのだ。また、北半球のカーニバルには「冬の終わり」を寿ぐ伝統もある。
ブショーヤーラーシュにも、「冬将軍」を意味する大きな藁人形や棺が、かがり火にくべられ、河に流される場面があるのだ。
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はっちゃけた祭り
毎年欠かさず行われるブショーヤーラーシュは、パレードのほかにも、子どもの仮装コンテストや、伝統音楽にフォークダンス、ご馳走と大量のお酒など、様々な楽しみにあふれている。
image credit: vimeo
だが、ちょっと行って見物してこよう、というのはちょっと難しいかもしれない。というのも、ブショーヤーラーシュの期間中に町を訪れた人は、否応なしに祭りに巻き込まれるようなのである。
スパイス入りワインを大瓶で勧められるのは好ましく思う人も多いだろう。しかし、それだけでは済まず、大人の場合は小麦粉をかけられたり、酔っ払ったブショーに抱きつかれ、腰を振られたりするそうなのだ。
ブショーヤーラーシュの間は、町全体が無礼講、何でもありの大騒ぎになるのである。一説では、この小さな町の人口は祭りの間の無礼講によって維持されてきたとされている。祭りの期間中に妊娠した子どもは、父親が誰であるかを問われることがないためだ、というのがその言い分だ。
imege credit: Dankahazi Lorant / Wikimedia Commons [CC BY-SA 3.0]
via: Stories/Atlas Obscura / Places/Atlas Obscura / UNESCO など / translated by K.Y.K. / edited by parumo
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