【ニュースの深層】魅力度ランキング5年連続最下位 その時、県庁は…なぜ栃木、群馬は順位を上げ、茨城は沈んだのか

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 昨年度の民間調査会社「ブランド総合研究所」(東京都港区)の都道府県魅力度ランキングで、ワースト3を独占した北関東の茨城、栃木、群馬県。

 さて、このほど発表された2017年度のランキングでは、群馬県が鳥取県と並んで41位、栃木県が43位とワースト3を抜け出した。これに対し、茨城県は堂々の5年連続全国最下位。同県を舞台にしたNHK連続テレビ小説「ひよっこ」も、視聴率好調で人気だったはずなのになぜ? 茨城県はいつか、指定席となった「47位」から脱出できる日が来るのだろうか-。

 10月10日午前10時過ぎ、水戸市笠原町にそびえる茨城県庁4階の広報広聴課で、インターネットをチェックしていた職員たちの顔が一瞬引きつった。

 「マジかよ」

 「嘘だろ」

 「今年、脱出しなかったら、いつ脱出できるんだよ…」

 目の前に飛び込んできたのは、見慣れた「47位」。ブランド総合研究所が発表した都道府県魅力度ランキングで、茨城県が5年連続で全国最下位になったと伝えていたのだ。

 今年は茨城が各種メディアに露出する機会が多く、職員の期待は例年以上に大きかった。それだけに、ブランド総合研究所が突きつけた“結果”に、落胆の声が県庁内に広がった。

 期待値の大きな源になったのは、今年4月から半年間にわたって放送された「ひよっこ」だ。女優の有村架純さん演じる主人公は、茨城県の架空の村「奥茨城村」出身という設定で、茨城が舞台の一つとなった。ロケ地にもなった県北地域の6市町は「茨城県北『ひよっこ』推進協議会」を立ち上げ、土産品にロゴマークを付けるなど、「この波に乗れ」と攻勢を仕掛けていた。

 推進協議会の会長を務める茨城県常陸大宮市の三次真一郎市長は「向こう100年、こういうチャンスはないという気持ちでPRしていく」と意気込んでいた。

 広大な丘一面に季節の花が咲く、ひたちなか市の国営ひたち海浜公園は、外国人観光客の増加で入園者数がうなぎのぼりの人気スポットだ。

 スポーツ界で、茨城県出身者の活躍も多かった。大相撲では稀勢の里関が初場所で初優勝を飾り、横綱に昇進。弟弟子の高安関も5月の夏場所後、大関に昇進した。2人が少年時代を過ごした龍ケ崎市や牛久市、土浦市など地元の盛り上がりもテレビなどを通じて、国民の目に届いたに違いなかった。

 他にも、昨年12月に行われたクラブワールドカップ準優勝の鹿島アントラーズ、女子ゴルフの畑岡奈紗選手ら昨年末から今年前半にかけて、茨城にゆかりのあるスポーツチームや選手の活躍はめざましかった。

 県の魅力や情報を発信する茨城県広報戦略室の松崎達人室長は産経新聞の取材に「ランキング何位といった目標は掲げていないが、5年連続は非常に残念」と語った。

 「今年は特に良い話題、ニュースを振りまいたと思っていたけど…」と肩を落としつつも、「とにかく県の魅力をしっかり発信していけば、ランキングは自然と上がると思う」と前を向く。別の県職員は「想像していたより、『ひよっこ』と茨城が結び付かなかったのではないか」とつぶやいた。

 松崎室長は調査会社の調査方法にも着目している。調査は全国の20~70代がインターネットで78項目を回答する方法で行われた。「この調査方法だとテレビなどでの露出増が必ずしもつながらない可能性もある」と分析し、「今後は今まで以上に、ネットメディアを積極的に活用していきたい」と述べている。

 肌感覚で恐縮だが、県民の反応は大きく以下の3つに分かれると思う。

 (1)ずっと最下位は悔しい。順位を上げるために行政、民間一丸となって努力すべきだ

 (2)中途半端に30位、40位代になるくらいなら、このまま最下位のほうが露出も増えて“おいしい”

 (3)住んでいる人が幸せなんだから、調査会社が発表しているランキングなんてどうでもいい(そんなことに無駄な予算使うな)-の3つの見方だ。

 “5連覇”の報道に、ネット上では「ベストジーニストなら殿堂入り」「強すぎるから来年から茨城抜きでやったら…」といった投稿も見られた。

 この「魅力度」についてだが、8月に行われた茨城県知事選でも争点の一つになっていた。

 初当選した大井川和彦知事は公約に「『魅力度ワースト1からNo.1へ』プロジェクト推進」を掲げ、選挙期間中も「ネットメディアのフル活用で発信力強化」「知事がトップセールスを行う」「国内よりも先に海外で話題を作る」などと訴えた。

 本格スタートした大井川県政は来年の調査まで、今後、どれだけ魅力を発信できるか、県民だけではなく全国から注目が集まる。

 「イバラキング」の名で、茨城に関する執筆活動を行っている同県常総市在住の青木智也氏は産経新聞の取材に以下のように回答した。

 「魅力度と銘打ってはいるが、結局のところ観光イメージのランキングなのだろう。少なくとも、多くの方がイメージしている魅力度と今回の結果が乖離(かいり)しているのは確かだ。栃木県の知事が7月の記者会見で発した『何年か47位(の最下位)を守ってくれた茨城県が、今年はずいぶん上に行きそうな気がする』という言葉が象徴的だ。

 私はあえて『5連覇』と言っているが、その理由は簡単で、毎年一番目立っているのが茨城県だからだ。今年の勝因はズバリ、ひよっこや稀勢の里関、鹿島アントラーズ、ひたち海浜公園のネモフィラなどのトピックが反映されなかったことだろう。これほど話題性があっても順位は変わらなかったわけだから、茨城県は自信を持ってこのまま魅力を発信し続けていくべきだ。

 ランキングでは最下位を維持しながら、『本当の魅力』が上がっていくことを期待している」

 一方、前年46位の栃木県と同45位の群馬県は、茨城県が今年は躍進すると予想し、自分たちが最下位に転落する“悪夢”もよぎった。

 前年からちょっぴり上がって43位の栃木県。福田富一知事は「2月に策定したブランド取組方針に基づき、地域資源の磨き上げや戦略的な情報発信、県民の愛着と誇りの醸成に取り組んでいる」とコメントした。

 平成32年の25位以内を目標としており、県の魅力をアピールし、動画や特集記事を掲載したサイト「ベリーグッドローカルとちぎ」を新設。県とちぎブランド戦略室の川上信博室長は「20~30代の女性をターゲットに情報を拡散してもらえるような内容にしたい」という。

 データの分析には時間がかかるといい、川上室長は「直感的な印象だが、今年前半のイベントや出来事に県の知名度向上効果があったかもしれない」とみている。今回の調査期間は6月23日~7月14日で、印象に新しいイベントの効果も考えられる。

 来年のJRグループの大型誘客事業「デスティネーションキャンペーン」(DC)を前に、プレDCが4~6月に展開されたほか、県外でも注目されたニュースといえば、日光東照宮陽明門の修復作業完了(3月10日)▽“刀剣女子”が注目した堀川国広の名刀「山姥切(やまんばぎり)国広」の展示(3月4日~4月2日、足利市立美術館)▽自転車の国際ロードレース「ツール・ド・とちぎ」初開催(3月31日~4月2日)▽バスケットボールBリーグの栃木ブレックス優勝(5月27日)-などがあった。

 ひよっこで舞台となった茨城の躍進が予想され、栃木、群馬は戦々恐々だったが、まさかの結果。深夜ドラマから映画化した「お前はまだグンマを知らない」が、国民的朝ドラよりも効果があったのだろうか。

 前回45位だった群馬は、41位に浮上し、ワースト5から抜け出した。大沢正明知事は11日、「テレビとかマスコミが『北関東3兄弟』などと取り上げてくれたのがよかった」と分析。ただ、「県民は誰も41位って思っていないと思う。もっと上だと。経済力もあるし農業出荷、工業製品の出荷額もいい。東京からの利便性もいいし。ただ、外からみたらああいった結果なんだろう」。その上で、「一喜一憂することなく、引き続き、観光振興や農産物の販売に力を入れていきたい」と気を引き締めた。

 昨年に北関東3県がワースト3を独占してから、県内ではブランド力への危機感が芽生えたことは間違いない。県議会では今年度、「ぐんまの魅力づくりに関する特別委員会」を設置。さらに、自民党県連は「タスクフォース」を立ち上げ、なぜブランド力が上がらないのかを議論。ブランド総合研究所の田中章雄社長にも、処方箋を施してもらったばかりだ。

 茨城県では行っていないこれらの取り組みで生まれた県民の意識の変化も多少、順位を押し上げたとみられる。一方で、大沢知事は「もう少し順位が上がって30何番ってなると、群馬は全然目立たなくなってしまうよなあ…」。

 こうした新たな悩みもある。

 (水戸支局 鴨川一也、宇都宮支局 水野拓昌、前橋支局 久保 まりな)