砲撃場 軍事施設 既存の観光施設 観光開発予定地 金一族の別荘 一族専用の滑走路 専用の鉄道駅 レクリエーション施設 故・金正日氏の別荘だった建物 ゲストハウス 一族専用の鉄道駅と滑走路 プライベートビーチ 厩舎 レクリエーションセンター ボート小屋 射撃場 ヘアンホテル 元山デパート 松濤園 元山駅 ビーチ 松濤園ホテル 松濤園 松濤園国際少年団キャンプ場 葛麻(元山)国際空港 格納庫 連絡通路 発射位置 見学スペースと駐車場 砲撃演習が行われた場所 標的の島 開発予定地 クルーズ船 元山醸造所 元山醸造所 セナルホテル
故・金正日氏の別荘だった建物 ゲストハウス 一族専用の鉄道駅と滑走路 プライベートビーチ 厩舎 レクリエーションセンター ボート小屋 射撃場
格納庫 連絡通路 発射位置 見学スペースと駐車場
ウォンサン

元山

北朝鮮「ミサイルとリゾートの町おこし」


北朝鮮の日本海側沿岸では、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長「肝いり」の一大観光プロジェクトが進行中だ。その一方で、正恩氏は、この地でミサイルを打ち上げ、さらには海岸で砲撃訓練まで行っている。

(2017年10月10日作成)

正恩氏は少年時代、この海岸都市・元山(ウォンサン)で多くの時間を過ごしたと、同氏を知る関係者は語る。

中国

北朝鮮

元山

平壌

韓国

中国

北朝鮮

元山

平壌

韓国

2015年、元山を観光都市として再開発する計画を北朝鮮は発表し、15億ドル(約1690億円)の投資妙味があるとうたった。観光開発を目論む一方で、北朝鮮は核開発の一環としてこの地域からおよそ40発のミサイルを発射している。

元山開発が正恩氏の生き残り戦略にとってどれほど重要であるか見ていこう。

リゾートと大砲が隣り合わせ


元山の人口は36万人。正恩氏が余暇を過ごす別荘のほか、軍の実験場まである。

町の中心部には高射砲や大砲が多数配備されている。こうした兵器(地図上の赤枠)は、朝鮮戦争の停戦後、北朝鮮の主要都市では珍しい存在ではなくなった。北朝鮮は攻撃を受けたら、韓国首都ソウルを「火の海」に変えてやるとたびたび脅迫している。

2015年、北朝鮮政府が明らかにした「元山特別観光地帯」は総面積が400平方キロ以上ある。計画を示したパンフレットによると、近いうちに年間100万人以上、さらに「近い将来」には500万―1000万人の観光客を誘致するとしている。

元山は朝鮮半島でも有数の美しいビーチで知られる。

元山の人口は36万人。正恩氏が余暇を過ごす別荘のほか、軍の実験場まである。こうした兵器(地図上の赤枠)は、朝鮮戦争の停戦後、北朝鮮の主要都市では珍しい存在ではなくなった。

2015年、北朝鮮政府が明らかにした「元山特別観光地帯」は総面積が400平方キロ以上ある。 計画を示したパンフレットによると、近いうちに年間100万人以上、さらに「近い将来」には500万―1000万人の観光客を誘致するとしている。

元山は朝鮮半島でも有数の美しいビーチで知られる。

別荘での暮らし


金正恩氏の生年月日や出身地は、公式記録で明らかにされていないが、多くの元山市民は正恩氏がこの町で生まれたと考えている。松濤園(ソンドウォン)にある別荘で少年時代を過ごしたことが、その根拠の1つである。

金一族は元山湾に要塞化された邸宅を構えており、ここで過ごすのが一家のお気に入りだった。

専属料理人を務めていた藤本健二氏の回顧録によると、正恩氏の父親である故・金正日(ジョンイル)総書記は、ここでウミバトやアザラシの狩りをしたり、ジェットスキーや乗馬を楽しんだりしていたという。

正恩氏の母親は黒い水着を着て、正日氏とプールのウオータースライダーを滑ったり、少年時代の正恩氏がプールで遊ぶのを眺めたりしていたという。

金正恩氏の生年月日や出身地は、公式記録で明らかにされていないが、多くの元山市民は正恩氏がこの町で生まれたと考えている。松濤園(ソンドウォン)にある別荘で少年時代を過ごしたことが、その根拠の1つである。

金一族は元山湾に要塞化された邸宅を構えており、ここで過ごすのが一家のお気に入りだった。

金正恩氏が藤本健二氏に手渡したという、11歳の正恩氏の写真。藤本氏提供(ロイター)

別荘での金一族の暮らしぶりを物語るエピソードがある。藤本健二氏の回顧録によると、若き正恩氏はよく遅くまで起きていて、イヴ・サンローランのたばこを吸って話をしていた。ある日、将来の指導者はこんなことを言ったという。

「フジモト、僕たちは毎日乗馬して、ローラーブレードやバスケットボールで遊び、夏にはジェットスキーやプールで遊ぶ。でも普通の人たちは何をして暮らしているんだろう。」

別荘での金一族の暮らしぶりを物語るエピソードがある。藤本健二氏の回顧録によると、若き正恩氏はよく遅くまで起きていて、イヴ・サンローランのたばこを吸って話をしていた。ある日、将来の指導者はこんなことを言ったという。

「フジモト、僕たちは毎日乗馬して、ローラーブレードやバスケットボールで遊び、夏にはジェットスキーやプールで遊ぶ。でも普通の人たちは何をして暮らしているんだろう。」

贅の限りを尽くす

別荘にはゲスト用の施設が点在するほか、プライベートビーチやバスケットボール場、金一族専用の滑走路と鉄道駅まで完備されている。近くのボートハウスには、およそ700万ドル(約8億円)もする正恩氏専用の高級ヨット「プリンセス95MY」が停泊している。

米プロバスケットボールNBAの元スター選手、デニス・ロッドマン氏が2013年に訪朝した際、ヘリコプターでこの別荘を訪れて滞在した。

カナダ人コンサルタントでロッドマン氏に同行したマイケル・スペーバー氏によると、元山は正恩氏にとって「心の中で特別な位置」を占めていると本人が語ったという。

別荘にはゲスト用の施設が点在するほか、プライベートビーチやバスケットボール場、金一族専用の滑走路と鉄道駅まで完備されている。

米プロバスケットボールNBAの元スター選手、デニス・ロッドマン氏が2013年に訪朝した際、ヘリコプターでこの別荘を訪れて滞在した。

マールアラーゴ

米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院の北朝鮮専門家、マイケル・マッデン氏は「元山は金正恩氏の『マールアラーゴ』だ」と話す。

トランプ米大統領がフロリダの別荘マールアラーゴを目指すように、金一族も元山へ行く。そしてここを訪れたことがある2人の人物によると、彼らはここで乗馬やジェットスキーを楽しんだり、高級ヨットを乗り回したり、国内のエリート層を招いて豪華な宴会を催したりしているという。

元山出身の人々は、地元に対して概ね良い印象を持っているという。出身者によると、北朝鮮の大半よりも安定した電力の供給があり、市内ではカラオケバーやビリヤード場が営業しているという。

米ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院の北朝鮮専門家、マイケル・マッデン氏は「元山は金正恩氏の『マールアラーゴ』だ」と話す。

トランプ米大統領がフロリダの別荘マールアラーゴを目指すように、金一族も元山へ行く。

元山出身の人々は、地元に対して概ね良い印象を持っているという。出身者によると、北朝鮮の大半よりも安定した電力の供給があり、市内ではカラオケバーやビリヤード場が営業しているという。

プロパガンダ


元山は北朝鮮のプロパガンダにとっても重要な役割を果たしている。

正恩氏の祖父で、北朝鮮建国の立役者となった故・金日成(イルソン)主席が、日本による植民地支配が終わった1945年に、国の支配権を奪うため当時のソ連軍とともに上陸を果たした地だからだ。

金主席は米国が支援する韓国に対抗すべく、北朝鮮を建国した。当初、北朝鮮経済は韓国経済よりも成長するなど、成功を収めていた。

現在、金主席の肖像は国内の至る所で見ることができ、当局の宣伝機関によって神格化されている。

元山は北朝鮮のプロパガンダにとっても重要な役割を果たしている。

正恩氏の祖父で、北朝鮮建国の立役者となった故・金日成(イルソン)主席が、日本による植民地支配が終わった1945年に、国の支配権を奪うため当時のソ連軍とともに上陸を果たした地だからだ。

朝鮮半島が日本の統治下に置かれていた時代から、元山は人気のリゾート地だった。

北朝鮮の貨客船「万景峰92」は、日本から乗客のほか自動車や家電製品を運んでいた。だが2006年に日本政府が独自制裁を課して以来、同船の日本入港は禁止された。

金日成主席と正日総書記の銅像が、建国の父が降り立った場所を示している。

朝鮮半島が日本の統治下に置かれていた時代から、元山は人気のリゾート地だった。

金日成主席と正日総書記の銅像が、建国の父が降り立った場所を示している。

ビーチでアイスクリーム

松濤園の金一族の別荘から近いビーチでは、バーベキューをしたり、釣りをしたり、ロイヤルゼリー味のアイスクリームを食べたりする家族連れでにぎわう。

北朝鮮の他の都市同様、この町も同国の建国以来、その姿を大きく変えていった。

松濤園の金一族の別荘から近いビーチでは、バーベキューをしたり、釣りをしたり、ロイヤルゼリー味のアイスクリームを食べたりする家族連れでにぎわう。

北朝鮮の他の都市同様、この町も同国の建国以来、その姿を大きく変えていった。

同志とキャンプ

ソ連時代、金一族の別荘に隣接する松濤園国際少年団キャンプ場は、共産圏諸国から「若き先駆者」を受け入れていた。

だがソ連の崩壊後、キャンプ場は荒廃し、北朝鮮政府はもはや国民に十分な食糧や仕事を与えることさえできなくなった。飢饉(ききん)による栄養不足で20万―300万人が死亡したとされている。

正恩氏は権力についたとき、「これ以上、ベルトをきつく締めなくても国民が生活していけるようにする」時が来た、と語っていた。

同氏は2013年に政策を変更し、「並進路線」を提唱して祖父の時代への回帰路線を明確にした。それは、核抑止と経済を同時並行で前進させることを意味した。

松濤園国際少年団キャンプ場で水泳を楽しむ人々。KCNA提供(ロイター)

国営メディアによると正恩氏は2014年、松濤園国際少年団キャンプ場を再整備した。

キャンプ場は現在、ロシアや中国、ベトナムや東欧諸国からのグループを受け入れている。また国内から金日成社会主義青年団が夏季キャンプのために訪れ、ここで水泳やセーリングのほか、巨大な砂の像づくりを行うという。その像には「常時臨戦」という彼らのスローガンが刻まれた。

松濤園ビーチには外国人専用エリアがある。元山出身で2012年に脱北したPark Eun-heeさんは、毎年元山を訪れる外国人を目にした。中にはガムやキャンディーをくれた人もいたという。

「どの外国人もアメリカ人だと思っていた。私たちは彼らを『ヤンキー』と呼んでいた」とParkさんは語った。

松濤園ビーチを訪れた外国人。「外国人エリア」と書かれた看板が見える(ロイター/Ray Cunningham)

松濤園ビーチのアイスクリーム売りと地元の人々(ロイター/Ray Cunningham)

元山へようこそ


商業プロジェクトとミサイル開発を同時進行させるのが、正恩氏の「並進路線」の基本だ。

元山国際空港がそれを体現している。

商業プロジェクトとミサイル開発を同時進行させるのが、正恩氏の「並進路線」の基本だ。

元山国際空港がそれを体現している。

2015年、正恩氏は松濤園別荘の東方に同空港をオープンさせた。

前面がガラス張りのターミナルビルには、いまのところ国際線は1機も到着していないが、旅行客を迎える準備は整っている。元山市と、近くにある金剛山観光地区を紹介する大きな広告が掲げられている。

2016年、この空港で航空ショーが行われ、ソ連時代の旅客機や戦闘機を見ようと世界各地から航空ファンが訪れた。

2015年、正恩氏は松濤園別荘の東方に同空港をオープンさせた。前面がガラス張りのターミナルビルには、いまのところ国際線は1機も到着していないが、旅行客を迎える準備は整っている。

ミサイル発射場

その元山国際空港に隣接するのが、ミサイル発射場だ。

米ワシントンに拠点を置く北朝鮮分析サイト「38ノース」によると、発射場には発射台や格納庫、さらに空港内に見学スペースまで用意されている。

その元山国際空港に隣接するのが、ミサイル発射場だ。

発射場には発射台や格納庫、さらに空港内に見学スペースまで用意されている。

「常時臨戦」

元山は、正恩氏が行ってきたミサイル発射実験の中心地となっている。

金日成政権

舞水端里衛星発射場

14発

平壌

支下里ミサイル基地

1発

舞水端里衛星発射場

14発

平壌

支下里ミサイル基地

1発

北朝鮮のミサイル開発は祖父・日成氏の時代から始まった。当時のロケットは巨大かつ簡素で、移動が困難だった。ほとんどが同国北東部の実験場から発射された。

金正日政権

3発

旗対嶺ミサイル基地

13発

平壌

3発

旗対嶺ミサイル基地

13発

平壌

正日時代にミサイル実験は加速する。北朝鮮は1998年までに、長距離ロケット「テポドン1号」で同国初の人工衛星の軌道投入に成功したと主張している。海外の専門家はその主張に懐疑的だったが、極めて重要なステップだったことは確かだ。ミサイル実験は元山で始まった。

金正恩政権

新浦港

8発

元山北部

20発

平壌

葛麻(元山)国際空港

10発

(2017年10月9日時点のデータ)

新浦港

8発

元山北部

20発

平壌

葛麻(元山)国際空港

10発

(2017年10月9日時点のデータ)

正恩氏はミサイル実験をさらに飛躍させ、実戦を想定した新たな場所から発射した。正恩氏は元山のビーチ2カ所を実験場所にして、中距離弾道ミサイル「ムスダン」などの新たな兵器を完成させた。

「外から見れば、経済開発を行おうとする場所からミサイルを発射するなんてクレイジーに聞こえるかもしれない。だが、それこそ金正恩氏の統治のやり方だ」
(韓国慶南大学の北朝鮮経済専門家Lim Eul-chul氏)

軍が重荷に

入手できる最新のデータによると、軍事費のGDPに占める割合は北朝鮮が世界最高で、2004─2014年の平均では23%に達すると米国務省は分析している。

軍事費のGDPに占める割合上位50カ国
単位:% 2004―14年

11年間の平均

最小

最大

0510152025北朝鮮米国ロシア韓国

砲撃演習


今年4月、正恩氏は元山の新空港に近いビーチで、国営メディアが北朝鮮で史上最大と伝えた砲撃演習を実施。同演習では、「大口径自走砲300門」が3キロ先の小さな島にある白く塗られた標的に向かって一斉に砲撃を開始したという。

今年4月、正恩氏は元山の新空港に近いビーチで、国営メディアが北朝鮮で史上最大と伝えた砲撃演習を実施。同演習では、「大口径自走砲300門」が3キロ先の小さな島にある白く塗られた標的に向かって一斉に砲撃を開始したという。

正恩氏は8月、この演習を再び北朝鮮の特殊部隊に実施させた。国営メディアは「目標攻撃コンテスト」と称し、南北の境界線付近にある韓国の島々への攻撃を想定したと伝えた。

 アングル:核やミサイルだけではない北朝鮮の「脅威」

正恩氏は8月、この演習を再び北朝鮮の特殊部隊に実施させた。国営メディアは「目標攻撃コンテスト」と称し、南北の境界線付近にある韓国の島々への攻撃を想定したと伝えた。

衛星写真:グーグル、DigitalGlobe

標的の島

国営テレビで放映されたこの砲撃演習は、その島を月面のように殺風景な埃っぽい場所に変えてしまった。

国営テレビで放映されたこの砲撃演習は、その島を月面のように殺風景な埃っぽい場所に変えてしまった。

夢の都市


元山の新たな開発計画には、拡大する中間層にアピールする一大プロジェクトも含まれている。

元山の新たな開発計画には、拡大する中間層にアピールする一大プロジェクトも含まれている。

パンフレットに示された元山開発計画で最大のものは、元山市中心部の再開発だ。所在するものすべてを完全に取り壊した上で再建築するという。

パンフレットに示された元山開発計画で最大のものは、元山市中心部の再開発だ。所在するものすべてを完全に取り壊した上で再建築するという。

元山ホテル

市中心部の再開発の一環として、海に面した「5つ星高層ホテル」を計画している。

このホテルは、大型客船の操舵室のようなある特定の建築スタイルを取り入れるとパンフレットはうたっている。

総工費5億8200万ドル(約650億円)のうち、4億9000万ドル(約550億円)を海外からの投資で賄いたいとしている。

市中心部の再開発の一環として、海に面した「5つ星高層ホテル」を計画している。

金融センター

市中心部には外国人向けの国際金融施設を含む新たな金融センターをつくるとしている。

建物は地上15階、地下2階で、内外の銀行支店やATM、ファストフード店が入居するとしている。

市中心部には外国人向けの国際金融施設を含む新たな金融センターをつくるとしている。

国際展示場

960万ドルをかけて「多目的施設」を建設するとうたっている。展示ホールやオフィス、保税倉庫レンタル会社が入居する。

パンフレットによると年6回、ここで展示会を開催するという。

960万ドルをかけて「多目的施設」を建設するとうたっている。展示ホールやオフィス、保税倉庫レンタル会社が入居する。

パンフレットによると年6回、ここで展示会を開催するという。

さらに広がる計画

計画はさらに元山市外にも広がっており、普段はうかがい知ることのできない北朝鮮の日常生活を垣間見ることができる。元山市の南には1億2300万ドルのゴルフ場開発が計画されている。

侍中湖ゴルフ場

侍中湖の北西にゴルフ場が建設される予定だ。

侍中湖は北朝鮮政府高官が休暇に訪れる場所でもある。

侍中湖の北西にゴルフ場が建設される予定だ。

侍中湖は北朝鮮政府高官が休暇に訪れる場所でもある。

泥パック

松林には300席を擁する2階建ての海鮮料理店が予定されている。

また侍中湖泥療法院は湖から産出される泥を使って、炎症や神経系疾患の治療を行うという。

泥療法院は200人収容可能で、いわゆる「医療ツーリズム」の客を呼び込むとしている。

松林には300席を擁する2階建ての海鮮料理店が予定されている。

また侍中湖泥療法院は湖から産出される泥を使って、炎症や神経系疾患の治療を行うという。

秘密警察もバカンス

こうした娯楽施設から程遠くない場所にあるのが、北朝鮮国家保衛省の夏季保養所だ。

同省は同国で最も恐れられている国内監視機関だ。

その活動は超法規的で、国内で6カ所ある強制収容所を管轄下に置く。これらの収容所は「完全統制区域」と呼ばれる場所にあり、2014年の国連報告書によると、収容された人々に対する虐待が行われている。

同省は外国人に対するスパイ活動も行う。同省の元職員や平壌で暮らしていた人々の話によると、ホテルの客室内に盗聴器を仕掛けたり、外出時の尾行を行っているという。

ビーチの前に建てられた同省の保養所からは、厚遇ぶりがうかがえる。

こうした娯楽施設から程遠くない場所にあるのが、北朝鮮国家保衛省の夏季保養所だ。

同省は同国で最も恐れられている国内監視機関だ。その活動は超法規的で、国内で6カ所ある強制収容所を管轄下に置く。これらの収容所は「完全統制区域」と呼ばれる場所にあり、2014年の国連報告書によると、収容された人々に対する虐待が行われている。

同省は外国人に対するスパイ活動も行う。同省の元職員や平壌で暮らしていた人々の話によると、ホテルの客室内に盗聴器を仕掛けたり、外出時の尾行を行っているという。

ビーチの前に建てられた同省の保養所からは、厚遇ぶりがうかがえる。

その隣にあるのが大聖総局の夏季保養所だ。大聖総局は「朝鮮労働党39号室」として知られ、2006年の国連制裁に反して金一族のために海外のぜいたく品を調達している。 もう1つあるのが「朝鮮民族保険総会社(KNIC)」の施設だ。2016年、欧州連合(EU)は同社が保険詐欺に関与したとして制裁対象にしたほか、英国も同社の資産を凍結した。

これら3つの組織は、北朝鮮の核・ミサイル開発の資金調達に関わっているとして、国連の制裁下に置かれている。

その隣にあるのが大聖総局の夏季保養所だ。大聖総局は「朝鮮労働党39号室」として知られ、2006年の国連制裁に反して金一族のために海外のぜいたく品を調達している。 もう1つあるのが「朝鮮民族保険総会社(KNIC)」の施設だ。2016年、欧州連合(EU)は同社が保険詐欺に関与したとして制裁対象にしたほか、英国も同社の資産を凍結した。

これら3つの組織は、北朝鮮の核・ミサイル開発の資金調達に関わっているとして、国連の制裁下に置かれている。

フレンドリー

元山のパンフレットの1つは「この地帯の当局者と住民は観光業を十分に理解しており、観光客に対してフレンドリーです」とうたっており、観光客を歓迎している。

だが以前、軍事と観光を両立させようとした試みは悲劇を招いた。

1998年、北朝鮮と韓国両国は元山地区を観光客に開放することで合意。金剛山開発は南北融和の象徴であり、北朝鮮にとって外貨獲得の源だった。

韓国政府によると、約10年間でおよそ200万人の韓国人観光客がこの地を訪れた。

ところが2008年7月、53歳の韓国人女性が軍の施設を囲む規制線を越えたとして、北朝鮮の兵士に射殺される事件が起きた。

1970年1980年1990年2000年2010年010203040万人'08年7月韓国人観光韓国人観光客が射殺される客が射殺される

韓国はすべてのツアーを中止した。元山で土産物店やレストランを営んでいた人は、すべての資産を北朝鮮当局に没収された。

Lee Jong-heungさんは600万ドル(約6億7000万円)を投じて、金剛山で醸造所とレストラン、免税品店を経営していた。

2013年に元山を再訪したLeeさんは、北朝鮮当局が中国や香港などからの観光客向けに、それらの店を経営していたのを発見したという。「不合理だ」とLeeさんは語った。


核の夜明け

観光開発と核開発の組み合わせが、正恩氏にとって重要な理由は2つある。

正日氏の後継者に選ばれた2009年時点で、正恩氏には目立った功績がなく、経済は崩壊寸前だった。

強力な権力者だと思われている正恩氏だが、旧ソ連の崩壊により内憂外患の状況に置かれた。カネを調達し、自らの身を守るため、経済と軍事力という2つの手綱を握る必要があった。

それに対する答えの1つが核兵器だ。正恩氏が核兵器は通常兵器に比べ安上がりで、なおかつ西側との交渉を優位に進めるための切り札になると考えている、と専門家はみている。

核兵器開発の指示をする正恩氏。KCNA提供(ロイター)

中距離弾道ミサイル「火星14」を視察する正恩氏。KCNA提供(ロイター)

もう1つの答えが観光プロジェクトだ。正恩氏は軍に対する資金を減らして、民間経済により多くの資金を回したいと考えている。

核抑止力を手に入れれば、正恩氏は産業復興に国の力を再び集結させたいと考えている、と専門家は指摘する。

元山開発計画を作成した後で、正恩氏は大陸間弾道ミサイルの実験を成功させた。国連の制裁強化によって、元山開発計画の資金確保は一層難しくなりそうだ。

元山 ゴルフ場開発が計画される 侍中湖地区 ゴルフ場 侍中湖 ビーチ 湿地観光 エリア シーフードレストラン 侍中湖泥療法院 ホテル 国家保衛省の夏季保養所 朝鮮人民軍の調達会社の保養所 北朝鮮保健省の保養所 朝鮮民族保険総会社の保養所 大聖総局の保養所

衛星画像:グーグル、DigitalGlobe

衛星画像:グーグル、フランス国立宇宙センター/エアバス、TerraMetrics

衛星画像:グーグル、フランス国立宇宙センター/エアバス

国家保衛省の夏季保養所 朝鮮人民軍の調達会社の保養所 北朝鮮保健省の保養所 朝鮮民族保険総会社の保養所 大聖総局の保養所

松濤園海岸を撮影した、日本統治下の1935年に作成された絵葉書。提供写真(ロイター)

元山に立つ金日成主席と正日総書記の銅像(ロイター/Christian Peterson-Clausen)

  

建設の過程を見る

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砲撃演習の模様を見るにはここをクリック

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取材:James Pearson、Ju-min Park
グラフィックス作成:Weiyi Cai、Simon Scarr
イラストレーション:Chris Inton
編集:Sara Ledwith
翻訳:新倉由久、伊藤典子、山口香子
日本語グラフィックス作成:照井裕子
編集:伊藤典子、山口香子、下郡美紀

出典:元山地区開発総会社、ネナラ、朝鮮民主主義人民共和国、藤本健二氏の回顧録、朝鮮民主主義人民共和国国家観光局、韓国海洋開発院、モントレー不拡散研究センター北朝鮮ミサイル実験データベース、核脅威イニシアティブ、カーティス・メルビン氏(ジョンズホプキンス大学高等国際関係大学院米韓研究所)、韓国銀行、韓国統一省、米国務省、朝鮮中央通信、ロイター