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【社会】基地 脱却か依存か 沖縄・辺野古ルポ
午前八時、緑深いやんばるの山に、フェンスの向こうから米国歌が流れ込む。沖縄県名護市辺野古(へのこ)の米海兵隊基地「キャンプ・シュワブ」ゲート前。赤黒く日に焼けた約三十五人の反対派市民が「新基地建設反対!」などと書かれたプラカードを手に、工事車両の進入を阻もうと座り込む。 機動隊の姿は数人。十一日に普天間(ふてんま)飛行場(同県宜野湾(ぎのわん)市)配備のCH53E大型ヘリコプターが同県東村(ひがしそん)高江で大破、炎上する事故が起き、変化があったという。「工事車両が現れると、われわれをごぼう抜き(排除)しようとしてもめるけど、事故からは来ない」と参加者。「政府も選挙中だから気を使っているのかね」 目の前に広がる海は青く透き通っている。普天間飛行場の移設に向けた埋め立て工事は四月に着手し、海に砕石入りの袋を投入するための巨大なクレーンがそそり立つ。埋め立て予定海域にはフェンスが張り巡らされ、船に乗った海上保安庁職員らと反対派市民がにらみ合う。ジュゴンが遊んだ穏やかな海は緊張の海になった。 昨年十二月に普天間所属の垂直離着陸輸送機オスプレイが名護市沖で大破事故。今年八月にはやはり普天間所属のオスプレイがオーストラリア沖で墜落し、抗議の県民大会に主催者発表で約四万五千人が参加した。そして高江の今回の事故。米海兵隊は十分な説明がないまま一週間で同型機の飛行を再開し、翁長雄志知事は「暴挙だ」と怒る。 衆院選では、辺野古移設反対を訴える翁長知事を支える「オール沖縄」が支援する候補と、自民党の候補が県内四つの小選挙区で争う。前回の衆院選で全員が敗れた自民候補は今回、雇用と所得の増加などを訴え、巻き返しを図る。 「移設されれば航空機は確実に落ちる。事件は確実に起きる」。ゲート前で座り込みをしていた金城(きんじょう)武政さん(60)は心配する。基地近くの辺野古社交街に住む金城さんは高校生だった一九七四年、米軍向けのバーを営んでいた母を強盗に入った米兵に殺された。「基地があって良いことは何一つない」。一方、辺野古では基地関連で生計を立てている人も多い。社交街にある米軍向けタトゥー店の女性従業員(29)は「(危険は)生活には代えられない」と吐露する。 政府は移設に反対する名護市を通さず、予定地に隣接する三つの行政区(自治会)に補助金を直接交付し始めた。名護市漁協は予定地の埋め立てを容認、組合員は漁業権放棄に対する補償を受けた。政府は容認派を増やそうと懸命だが、地域に分断をもたらす。 浜辺の監視テントで座り込む同市の田仲宏之さん(45)は「沖縄の人同士をいがみ合わせておけばいいと思っているのだろう」と憤慨する。 「周辺国との競争で、近海漁業は壊滅状態。海人(うみんちゅ)(漁師)も苦しい」と語るのは、名護市のヘリ基地反対協議会共同代表の安次富(あしとみ)浩さん(71)。しかし軍に依存する生き方はやはり違うと思う。「基地があると、沖縄戦と同じように巻き込まれる。基地依存経済を脱却しないと、未来はない」 (荘加卓嗣、写真も) 関連記事ピックアップ Recommended by
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