アレもコレも人工知能
10月上旬、千葉市の幕張メッセで開かれたアジア最大級の電子機器などの展示会、「CEATEC JAPAN」。最も注目を集めたのは、AI=人工知能に関する展示です。
パナソニックが発表したのは、開発中の「子育てロボット」。およそ1万語の単語を学習済みで、子どものことばを認識し、会話ができます。知らないことばに出くわした場合は、意味を尋ねて学習することで、語彙を増やしていくこともできます。開発中のロボットには、親がスマートフォンで操作することで、子どもに歯磨きや片づけを促す機能も備えています。将来的に、こうした“しつけ”の機能もみずから行えるように進化していくのか、想像が膨らみます。
三菱電機は、AIで人の声を聞き分ける技術を発表。複数の人が同時に発したことばから、一人一人の声を識別でき、家電製品やカーナビゲーション、エレベーターの音声操作などに活用できるとしています。世界中の企業が開発やアイデアを競い、AIの進化は、まさに日進月歩です。
“自治体のAI元年”
このAI、実はいま、各地の地方自治体で活躍しはじめています。ことし2月には千葉市が試験的に導入。来年3月には大阪市も導入する計画で、今が地方自治体にとってのAI元年だったと、あとから振り返ることになるのかもしれません。
「30人で50時間」が数秒で!
さいたま市で行われたのは、AIが「保育施設の割りふり」を決める実験。
さいたま市では、毎年、保育施設への入所を希望する子どもたちが8000人近くに上ります。入所できる子どもと、300を超える保育施設への割りふりを決めるのは、難しい作業です。
「祖父母が同居しているか」「母親の勤務時間は」「世帯の収入は」…さまざまな条件を突き合わせ、「きょうだいで同じ施設にしたい」とか「通勤経路にある施設がよい」といった希望も考慮して、入所できる子どもや施設の割りふりを決める作業は、30人の職員が50時間かけて行うとても手間のかかる作業でした。
この作業を、富士通研究所が開発したAIで行ってみたところ、わずか数秒で終了。結果は、人間が手作業で行った割りふりとほぼ同じだったということです。
さいたま市保育課の担当者は「長い時間をかけて行っていた作業が数秒でできることに驚いた。ただ、AIの判断だけで決めてしまっていいのか不安は残るので、最終的に人が確認することは続けないといけないと思う。性能に信頼がおけるようになったら、本格的に導入を検討したい」と話していました。
富士通は、今年度中にもこのシステムを実用化し、同じ悩みを抱える自治体に売り込んでいく計画です。
住民の疑問 AIが解決!
自治体のサービスが細分化し、より複雑になっている住民からの問い合わせに“会話型”のAIが応じる試みも始まっています。三菱総合研究所が開発したAIは、川崎市と静岡県掛川市で実証実験が行われました。
このうち、川崎市が「AI職員」に任せてみたのは、子育てに関する行政サービスの問い合わせへの応対。利用者は、インターネット上にある専用サイトで、質問を文書の形で送ります。すると、AIが文章を解析し、瞬時に回答します。
例えば、「休みの日に子どもを預けたい」というメッセージを送ると、AIがすぐさま「時間外保育サービスについて知りたいの?」と、さらに詳しく尋ねます。利用者が「どこで利用できるの?」などと尋ね、会話を重ねることで、知りたい情報が掲載されたページを案内してくれます。あいまいな質問にも、AIが機転を利かせて、必要な情報にたどりつけるよう導いてくれます。
この間、職員は別の業務をできるので、住民の利便性だけでなく、業務の効率化や労働時間の短縮にもつながることが期待されています。
どこまで広がる?
自治体がAIに求めるニーズは何か?三菱総合研究所は、ことし7月、全国46の地方自治体と「行政情報標準化・AI活用研究会」という組織を立ち上げました。自治体からの要望を吸い上げ、今後の開発に生かすことが狙いです。
三菱総合研究所の村上文洋さんは、「AIが多くの人間の仕事を奪うのではといわれますが、人口減少で人手不足がより深刻化する中、AIができるものはAIに任せ、人は人でしかできないことをやっていく時代になるのではないか」と話しています。
知らず知らずのうちに、AIは、私たちの身近な場所までやってきました。地元の自治体に問い合わせをしたら、相手はAIだったという時代がすぐそこまで迫っているのかもしれません。人間に役立つ存在として、AIをどう活用していくことができるのか。進化のスピードに負けないように、注意深くみていきたいと思います。
- 経済部記者
- 茂木里美
- フリーペーパー編集者をへて
NHKに入局
現在 電機業界担当