神戸製鋼所が製品の強度などの検査データの改ざんを繰り返していた問題。日本を代表するものづくりの企業の現場で、一体、何が起きているのでしょうか?わからないことだらけです。
(経済部記者 影圭太)
Q1:神戸製鋼の不正。何が問題なのか?
A1:取引先の注文どおりの強度やサイズをきっちり守って製品を出荷する。ビジネスの当たり前のルールです。しかし神戸製鋼は、約束どおりの強度を満たしていない製品を、基準を満たしているように出荷前の検査のデータを改ざんしていたのです。少なくとも10年ほど前から不正が続いていたことが確認された製品すらあります。
さらに問題なのは、不正が、あらゆる現場で当たり前のように行われていたことです。
Q2:先週は、連日のように、神戸製鋼の社長が謝罪していた。
A2:先週一週間を振り返ると、不正のまん延、といわざるをえない実態が見えてきます。
10月8日に神戸製鋼は不正を初めて公表しました。不正は、アルミと銅製品をつくる国内4工場で行われていました。栃木県の真岡製造所、山口県の長府製造所、三重県の大安工場、それに、子会社の神奈川県の秦野工場の4か所です。製品は、およそ200社に出荷されていました。
10月11日、兵庫県の高砂製作所で製造していた自動車部品などの材料になる「鉄粉」。子会社が製造したDVDなどの材料になる金属製品でも不正が判明しました。DVDの金属製品では、事前に約束していた検査を行わずに出荷していたことや、データのねつ造も行われていたことも明らかになりました。
10月13日、9つのグループ会社が製造していた銅やアルミ、特殊鋼でもデータ改ざんが判明。国内だけでなく、タイや中国、マレーシアの工場にも不正が広がっていました。
問題のあった製品の出荷先は、およそ500社に拡大。しかも、グループ9社のうち4社のデータ改ざんを神戸製鋼の取締役会は知っていました。しかし、取引先と個別に話し合って、問題は解決したと、公表していなかったことも明らかになりました。
Q3:どんな製品に使われている? 安全性は大丈夫なのか?
A3:自動車のボンネットや、新幹線の部品。身近なものではエアコンや録画用のブルーレイディスク、アルミ缶。さらには、H2Aロケットや開発中の国産旅客機MRJにも使われていました。
これまでのところ安全性に問題があると確認された製品はありません。神戸製鋼は出荷先のメーカーとともに安全性の検証を最優先に進めています。経済産業省は、今月12日、2週間をめどに、結果を公表するよう求めています。
Q4:なぜこんなに不正が広がった?
A4:神戸製鋼は記者会見で、「約束した納期に間にあわせようという意識が現場にあり、データの改ざんを黙認してしまったのではないか」「基準に満たない不良品を減らそうという意識もあったのではないか」と説明しています。また、「契約の内容を軽視する意識もあったのではないか」とも説明しています。
高い品質で世界と競争してきた日本を代表するものづくり企業の説明とは、にわかには思えません。なぜグループに品質を軽視するような不正が広がったのか、理解できません。
しかし、ではどうして、これほどまでにあちこちの工場で同じような不正が行われていたのか。工場ぐるみ、あるいは会社ぐるみで、組織だって不正が行われていたのではないかー。記者会見では、その点に質問が集中しました。各工場の品質管理の部門で、データの改ざんを長年にわたって引き継ぐような「マニュアル」は見つかっていないといいます。
経営陣から現場に対して指示や要求があったのではないかー。それも、会社側は記者会見で明確に否定しています。
経済産業省は今月12日、1か月以内をめどに原因と再発防止策を公表するよう求めています。どんな実態が明らかになるか注目です。
Q5:今後の焦点は?
A5:1つは、不正がさらに広がるかどうかです。神戸製鋼と外部の弁護士が社内調査を進めています。もう1つは、神戸製鋼の経営への影響です。神戸製鋼と取り引きをやめる取引先が出てくる可能性があります。また、損害賠償を求められるおそれもあります。自動車などで安全性に問題があるとなれば、リコールのおそれもあります。神戸製鋼の川崎博也社長は記者会見で、「費用を負担する」意向を示しています。
不正のまん延に対する経営責任も焦点の1つです。川崎社長は「まずは安全性の検証と原因を徹底して分析するのが使命であり、進退はその後、慎重に考える」と述べています。神戸製鋼は1か月以内に公表する再発防止策とともに、決める見通しです。
おわりに
神戸製鋼の製品のデータ改ざんやねつ造。ものづくりの根幹を軽視するような不正が、長年にわたって続いていました。どうしてこんなことが起きたのでしょうか? あなたが所属する工場や、組織でも似たようなことが起きていないでしょうか? 不正の原因や背景、まだ明らかになっていない別の問題。NHKでは、実態を深く理解するため、情報を求めています。
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- 経済部記者
- 影圭太
- 山形局 仙台局をへて経済部
自動車や金融業界を担当
現在 日用品や素材メーカーを取材