禁煙すれば寿命は延びるか


 もう一つ、タバコの害として言われているのが「寿命を縮める」という観点です。がんは死因の約半分を占めますが、がんだけではなく、全ての原因での死亡者をみても、喫煙者は非喫煙者よりも短命だと言われています。

「たばこを止めれば医療費を削減できる」と、まことしやかに言う人がいますが、いったいどうやって計算したのか、僕は疑問でした。

 喫煙者と非喫煙者の死亡率を比較すると、たとえば健康な男性の場合、一年間の死亡率は非喫煙者が10万人あたり962人であるのに対して、喫煙者は10万人あたり1559人というデータがあります。これは1991年に英国の医学雑誌に発表されたものですが、全員が非喫煙者なら、単純計算で一年間に10万人あたり597人の死亡が減ることになります。どうも、この辺が、たばこを止めれば医療費を削減できるという論理の根拠になっているようです。

 しかし、ことはそう単純ではありません。たばこを止めた人、元喫煙者と分類されますが、元喫煙者の死亡率やがんの発症率は喫煙者と有意差がなく、たばこを止めても非喫煙者と同じにはなりません。現実に、死亡率を比較したデータは元喫煙者を喫煙者に分類して集計していて、つまり、1991年の時点で、たばこを止めても吸い続けても同じであることは研究者の間では常識だったわけです。喫煙者と非喫煙者では遺伝的資質や生活環境に違いがあって、その違いが、非喫煙者として生活するか、喫煙者になるかの分かれ目のようです。

 たばこ排斥の機運が高まったのは1950年代の米国と言われていますが、その頃から世界中で熱心に研究が始められたようです。しかし、60年以上たった現在でも、疫学調査の結果だけが頼りの「疑わしい」というレベルで、はっきりした証拠は何一つ出てきません。これは裏を返せば、喫煙の安全性を証明したとも言えます。たばこを吸うか吸わないかは、遺伝的資質や生活環境の違いを示すバロメーターでしかないということです。ついでに言えば、喫煙が自分の体質に合っていて生活環境が良ければ、たばこを吸っても大丈夫です。

 考えてみれば、日本でさえも450年以上の喫煙の歴史があるといいます。15世代以上に渡って愛され普及してきたものですから、いまさら、「悪い」というのは論理に無理があります。

 最近でも喫煙の害を堂々と発言する医者がいますが、彼らは喫煙に関する研究の原著論文を読んでいないとしか思えません。世間の風潮に後押しされて受け売りの意見を述べているだけで、無知というか怠慢というか、可愛いものです。しかし、医学者を名乗る以上、それは罪です。