東京にあるデザイン性の高い定礎を巡ってきた
「定礎」と聞くと、どういうのを思い浮かべるだろうか。「あー、あの石板に筆文字で定礎って書かれたやつね」っていう人が大半だろう。たしかに、世にある定礎のほとんどはそうである。
しかし広い日本には、そんな我々の常識をくつがえす“変わり種”の定礎がいっぱいあることが分かってきた。
1983年徳島県生まれ。大阪在住。エアコン配管観察家、特殊コレクタ。日常的すぎて誰も気にしないようなコトについて考えたり、誰も目を向けないようなモノを集めたりします。
前の記事:「コインパーキングの「空」「満」表示を鑑賞する」 人気記事:「戦車! 戦艦! 知られざる「ミリタリー陶芸」の世界」 > 個人サイト NEKOPLA Tumblr デザイナーズ定礎めぐり、はじめました定礎は自由だ。その白いキャンバスには、こんな意味深な図を描くことだってできる
まだ夏も盛りのころ、私は東大駒場キャンパスにいた。ここに「デザイナーズ定礎」があるらしいという情報を入手したため、はるばる大阪から見にやってきたのだ。
赤門じゃない方の東大、東大駒場IIキャンパス
キャンパス内には、歴史的な建物がゴロゴロしていて見所が多い。それだけでなく、いい感じに木々が生い茂っていて雰囲気もある。こんな場所に、あの現代的な定礎があるとは……
ところで、いきなり登場した「デザイナーズ定礎」とは何なのか。それを説明するために、まずは普通の「定礎」の話から始めなければならない。
定礎とは、ビルの入口などに設置されているプレートである。建物の安寧を祈願するお守りだったり、記念碑のような使われ方をしたりと、いろんな意味を持つ習慣である。建築上の決まりは何もないのだが、ほとんどの定礎は示し合わせたみたいに同じような見た目をしている。 一般的な定礎はこんな感じ。石板は四角形で、大きく「定礎」と書いてあり、その下には日付が入っている
これらはいわば伝統的定礎であり、日本中どこに行っても同じようなものが見られる。普及型と言ってもいいかもしれない。でもここが定礎の面白いところなのだけど、普及型とは言いつつも、ひとつとして同じものはないのである。
基本的にはオーダーメイドであり、文字部分もフォントではなく建物のオーナーさんの直筆文字が使われていることが多い。つまり、定礎の数だけバリエーションがあるのだ
そのなかでも今回注目したのは、定礎を作った人の作家性が強く出すぎている、通称「デザイナーズ定礎」である。“通称”とは言ったものの、いままで誰もそんな分類はしていないので、私が勝手に付けた名前である。件の「東大 矢印定礎」を見れば、なんとなく雰囲気が分かってもらえるかと思う。
定礎界において異彩を放つ、作家性の強すぎる定礎、それがデザイナーズ定礎
今回は、Twitterで定礎情報を発信する「Web定礎公式」さんと、全国津々浦々の定礎ファンの方々(Web定礎公式さんが言うには「定礎フレンズ」)のご協力により、東京にあるデザイナーズ定礎をピックアップ。実際に巡って、その様子を確かめる旅に出たのであった。
と、そんな経緯で訪れたのが、この東大なのだ。それでは改めまして、東京デザイナーズ定礎めぐりのはじまり、はじまり。 あの矢印の謎を解くなんと言っても定礎は、現地に赴いて実物を鑑賞するのが至高である。写真では何度も見ていたあの定礎も、実際この目に収めるまでは、本当に存在しているのか半信半疑なのだ。
街にあるものは何でもストリートビューで見られてしまう昨今だけど、少し奥まった場所にある定礎はそのほとんどが確認不可能。そのうえ、ポストマップ(全国の郵便ポストをみんなでマッピングしていくサイト)のような集合知によるデータベース化も行われていない未開の領域なのである。 情報は頂いたものの、本当にこんなところに定礎があるのか? 期待と不安が入り交じった謎の高揚感を覚えながら散策を進める
こっちの方だろうか。あ、
あった!!
本当にあった。定礎は本当にあったんだ! 思わずパズーみたいな声を上げてしまう。それくらい、お目当ての定礎を発見したときの喜びは大きい
そんなこんなで、目指していた東大の定礎を発見したのであった。それにしても難解な定礎である。この矢印は一体なんなのか。
ここからはあくまで想像でしかないのだけれど……これが設置されている建物は、どうやら産官学が共同で研究を行う施設らしい。とすると、この矢印の意味するところも自然と見えてくる。 つまり、「疋」の部分は東大をあらわし、そこに「ウ」「木」「石」に例えられた国内外の研究機関が集まってきているのだ。そしてみんなの力が合わさったとき、ようやくひとつの「定礎」が完成するのである。 元気玉みたいな世界観が、この小さなプレートの上に表現されていたのだ(たぶん)。すごい、なんて壮大な定礎なんだ! 見た目のインパクト、そしてメッセージ性の強さ。これぞデザイナーズ定礎の神髄である。 今回はこんなのが10種類も出てくる盛りだくさんの内容のため、ここからは少しペースアップして紹介する。 飯田橋にある定礎の化石続いては飯田橋。ここに「定礎は平面だ」という常識をくつがえす定礎があるとの情報をいただいた。
飯田橋駅から徒歩約10分、特撮のロケにも使われたという格好いいビルの入口にいるのは……
いや、なにこれ
その様子は、まるで芋版。もしくは、定礎という生物だったものが、長い年月の果てに化石化した物体である。
後ろから見たときの存在感がすごくて、それが定礎であることを忘れてしまう。そのいびつさが妙に生々しく、本当に太古の昔に存在していた生物なのでは? と思わせる力がある。こういう化石、あるよね
こんな生物じみたものが、何の前触れもなく玄関脇に鎮座している。夜中にふらっと立ち寄ったら、「な、なんかいる!!」ってビックリしてしまう自信がある。圧倒的存在感
左手からのショットもどうぞ。絶妙な汚れ具合も素晴らしい
あまりのハイレベルさに頭がクラクラしてくる。東京はやはり定礎文化の最先端なのか。この街には、一体どれほどの名定礎が潜んでいるというのだろうか。東京砂漠に咲く一輪の花、それが定礎なのか!?
なにやら謎のテンションになってしまったが、興奮冷めやらぬ間に次行ってみましょう。
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