Amazonの本の補充はなぜ遅いのか

Twitterのタイムラインで、本の著者になった人がAmazonへの自著の入荷状況に一喜一憂する姿を良くみかけるようになった。

Amazonで本が売り切れたあと、なかなか在庫ありのステータスにならない。補充されるまでのタイムラグに苛立つ著者は多い。

こういった間、出版社が何もしていないのかというとそうではなく、何もできないというのが実情に近い。私も編集者として苛立つ著者に説明しても、著者の勤務先や出版産業に対する不満をかえって大きくするだけだっだので、ここで説明しても同じ結果かもしれないけれど、書いてみる。

最大の理由は何と言っても、Amazonからのオーダーから本が納品されるまでに通る流通過程が複雑で時間がかかるためだ。

出版社がAmazonに本を納品するまでの流通過程のパターンは実際いろいろあるのだが、筆者の環境では以下のようになっている。

Amazonが本のオーダーデータを送信。

↓(即時)

Amazon専用倉庫と連動している取次のデータセンターがオーダー用の注文伝票を出力。

↓(即日もしくは翌日)

取次会社の発注部隊が出版社に発注伝票を送信。

↓(翌日)

出版社が発注伝票を受け取り、在庫照合の上発注処理を行い、契約倉庫会社へ発注を送信。

↓(翌日)

出版社が契約している倉庫会社が発注処理と伝票作成を行う。

↓(翌日)

倉庫会社で商品のピックアップ、送品のための仕分け・梱包。

↓(翌日)

取次のAmazon専用倉庫に納品。専用倉庫で受品処理と送信処理。

↓(翌日)

Amazonのフルフィルメントセンターセンターに納品。Amazonのステータス更新もしくはカスタマーへの発送作業開始。

これだけレイヤーが重なっていれば、動きが鈍くなるのは当然だ。加えて一つだけ言っておくと、何ともないような伝票処理の作業も、実はものすごく仕事量が多く、極めて退屈でかつ仔細であり、担当者の神経をすり減らしている。

Amazonや取次もこういった問題はもちろん認識していて、フルフィルメントセンターや専用倉庫にある程度の在庫を持っており、オーダー数が多くなければ、出版社を通さずに処理をしようと努力している。さらに、取次は専用倉庫以外にも埼玉と大阪にストック専用の倉庫を持って、冗長性をある程度確保している。

しかしながら、あるきっかけでスポット的に100冊単位の注文がAmazonに来たときなどは、Amazonや取次の在庫では対応しきれず、出版社経由の発注となる。その場合、商品がAmazonにつくまで、6日〜8日程度のタイムラグがあると想定した方がいい。

私は出版社で倉庫管理や取次営業の経験もあるので敢えて言うが、このタイムラグの遅さはどうしようもないと思っているところはある。

本はとにかく品目数が多い。書籍は知識の集合体で、古いものでもできるだけ生かそうとする。それは情報学的には好ましいけれど、在庫管理や流通の面で言うと極めて非効率だ。

取次を抜いてAmazonと出版社が直取引をしたらいいという提案もあると思うけれど、それはAmazonからお断りするケースが多い。Amazonは1000以上ある出版社との個別対応をできるだけ避け、取次を通しての一括処理を望んでいるのが現実だ。

このような流通の問題はもちろん改善していくべきだが、すぐにではできない。出版社内部でできる対策をやった方が現実的である。

品不足の深刻化を予防する最良の手段は、発売前に、なるべく早い期間からAmazonで予約をとることだ。

Amazonは出版社に対してベンダー・セントラルというインターフェースを用意しており、出版社はISBN番号さえ決めれば、任意のタイミングで予約ページを作成できる。本のタイトルと発売日が決まったら、編集者が予約ページ作成を営業部門にお願いすることが好ましい。早めにとった予約分は本を流通させる前に在庫を確保できるし、予約の母数が多いと取次やAmazonは発売時に予約数より割増ししての発注をかけてくれる。

ただ、営業サイドの都合で出版社が予約ページを作らないケースが多い。理由もいろいろだろうが、基本的には出版社の部門間連携ができていないためだ。

営業は編集側に(これ以上)振り回されたくないという意識が常にあり、自分の仕事を積極的に増やそうとはしない。予約管理と処理はそれなりに神経を使う仕事だから。

著者や編集者は自分の作った本だけに目を向け、その本にできるだけ力を入れようとするが、一方で出版社が持つ数百のタイトルを日々相手にする営業・在庫管理側の人間はある本だけに労力をとられないようする。彼らは毎日やってくる処理を円滑にすすめる義務を背負っている。この非対称性が部門間連携の根本的な妨げになっており、加えて編集者が常に頂点に立つ士農工商的なヒエラルキーに対する営業側の潜在的な感情も原因なのだが、ここでは深く触れられない。

欠品を避けるためもう一つ大切なポイントは、本が有力媒体・メディアに紹介されるとわかったらてきるだけ早くAmazonか取次に連絡して在庫を確保してもらうように依頼することだ。目安は50冊以上スポット的に売れるという確信がある場合だ。

Amazonと有力出版社間ではテレビでの紹介などパブリシティ情報を共有する体制がほぼ確立している。中小零細出版社ではAmazonに相手されていないという悲しいケースがあるため、担当者同士の緊密な連携ができないということも多いのだが、有力メディアでの紹介が確定していれば取次の担当者が対応してくれる。

Amazonは在庫ステータスを厳しめに表示するようになっており、3.11後の流通混乱後さらにその傾向が強くなっている。

”この本は現在お取り扱いできません”
と太字で購入画面にドーンと表示されてびっくりする著者も多いが、これはAmazonが在庫不足で注文を捌けずに、カスタマーのウエイト期間をできるだけ減らすために新規注文をシャットアウトする予防的措置だ。

このような事態を避けるためにも、編集者は予約ページの早めの開設、パブリシティの事前の仕込みという段取りが必要になってくる。何よりも営業部門との円満な関係も必要かもしれない。

そして、できれば著者や読者の方には書籍流通の複雑さ(古さ)や現場の人間の大変さに想像力を働かせてもらえたらと思う。

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iidabashiueno について

文章の練習のためにブログを書いています。IT関係と音楽の話題が多いです。

Amazonの本の補充はなぜ遅いのか」への7件のフィードバック

  1. thayabuchi

    ご説明ありがとうございます。おおよそ納得ですが、営業畑の人間として見苦しく、責任転嫁を試みます。

    まず、私の職場では取次から受注即日倉庫へ転送→翌日ピックアップ→翌日搬入 です。そちらより2日早いですね。とはいえ、搬入翌日に在庫ステータスが変更されることはありません。経験則からすると3営業日くらいかかります。

    その手前の取次からの受注転送にも時間がかかっています。ベンダーセントラルで「発注数」に入ってから3日待たされるのはザラですし、今日届いた市川・堺・芳野台・鳥栖の発注短冊には4月9日と表記されています、この短冊は3日間どこで寝てたのでしょう。

    • コメントありがとうございます。

      tayabauchiさんのご職場は私のところよりも情報投資がすすんでいらっしゃると思います。翌日搬入とは、倉庫会社さんも優秀ですね。

      出版社側もベンダーセントラルで注文残数をリアルタイムで確認できるから、取次内の処理でタイムラグがあるのは感じます。

      iBCの内情を関係者に詳しくきいているわけではないのですが、出版社―取次間の情報整備がされていないとどうしても人手を介して遅くなるということなのだと思います。

      取次の指導どおり出版VAN系のシステムを完備すればだいぶ違うとは思うのですが、投資額と維持費が勤務先の体力では負担できず、二の足を踏んでいるのが現状です。

  2. thayabuchi

    > ”この本は現在お取り扱いできません”〜これはAmazonが〜予防的措置

    管見の限りではこういった気の利いた措置はAmazonはしていません。
    在庫表示は機械的に自社と取次のステータスが引き当てられます。
    自社フルフィルの在庫があれば即日or翌日出荷、iBCなら2〜3日、TBCまたはKBCなら5〜7日(このへんの日付は曜日や繁忙期などで変動)、版元在庫があれば10日〜5週間、在庫の不確定なときは「一時的に在庫切れ」です。
    ここのところは、Amazonの人も取次の人も同じお答えです。

    で、「お取り扱いできません」になっているのなら、取次と版元の在庫ステータス交換がうまくいってません。そもそも交換をおこなっていないか、なんらかの手違いで品切れ認識されています。
    補充ができてステータスが回復しても油断してはいけません。中間在庫が切れた途端に同じ表記に舞い戻りますし、その後の補充発注がなされない危険もあります。

    > 著者や編集者は自分の作った本だけに目を向け、その本にできるだけ力を入れようとするが、
    JPO近刊情報センター http://www.kinkan.info/ 立ち上げのさいに流通関係者が集まり、出版社は「なぜ事前情報を出さないのか」と弾劾されたわけですが、出版社から理由として出てきたのは、営業部門はそれがほしくてしかたがないが、「編集者が書名・目次・発売日を決めない」「決めたものもあてにならない」です。
    近刊情報センターでは「あてにならない」のは前提として、とにかく情報を出させて変更は更新していく、という方針でスタートしました。
    発売時期や書名や価格が確定しない情報を出すことに各所から抵抗がありましたが、ようやっと普及し始めた感があります。

    ブログ主さんは営業部門と折衝して、VCのアカウントへのアクセス権を入手されるとよろしいかとおもいます。
    あと、できれば近刊情報センターへの社での対応も。

    • ご指摘のとおり、原則Amazonのステータス表示は取次ステータスを反映していると私も認識しています。出版社側が取次と円滑に在庫ステータスの更新・共有ができていれば、Amazonでの品切れ表示をかなり減らせると思います。

      ただ、私の記憶では2010年後半にベンダー・セントラルに掲載されたステータス表示の見解を読んだ記憶があります。そこには、オーダーの混乱を避けるために、一時的に品切れ表示を行う場合があると記載されていたと思います。文面を保管したはずですので、それが見つかったらまたご報告したいと思います。

  3. Kow

    誤字です。

    誤:筆者に環境では以下のようになっている。
    正:筆者の環境では以下のようになっている。

  4. Uchikanda

    『取次を抜いてAmazonと出版社が直取引をしたらいいという提案もあると思うけれど、それはAmazonからお断りするケースが多い』この大前提のようですが、この事実はありますか? うちは弱小だが、Amazonからのお誘いメールがしつこい。勿論、寡占と弱小が直取引することは考えられないが!

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