不正・事件・犯罪

「最悪の暴走運転」で息子を亡くした遺族が、いま知ってほしいこと

悪質ドライバーを野放しにしないで

なぜ「故意」ではなく「過失」なのか

東名高速下り線でワゴン車が大型トラックに追突され、萩山嘉久さん(45)、友香さん(39)夫妻が死亡した事故。4か月たった10月、ワゴン車の進路を塞いで停止させ、追突事故を引き起こしたなどとして、福岡県の建設作業員・石橋和歩容疑者(25)が、自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致死傷)などの疑いで逮捕された。

夜の高速道路、しかも追い越し車線に無理やり車を停止させ、被害者の胸ぐらをつかむという悪質な行為……。この身勝手で通り魔的な犯行が、「故意」ではなく「過失」として処理されようとしている現実に、怒りを覚えた人は多いだろう。

石橋容疑者はこの事故の1カ月前にも3台の車に対して、進路妨害、幅寄せ、接触、窓を叩くなどの行為を繰り返していた。また、日本テレビの報道(2017.10.16)によると、石橋容疑者の車に同乗したことのある知人女性(20)からは、「普段は普通の人なんですが……」と前置きしたうえで、以下のような驚くべき証言も出ている。

 

「(石橋容疑者は運転時)座席を倒して足伸ばしてハンドル操作していた。足でハンドル操作したり、今回(の事故)とちょっと似てて、あおったり(前の車が)遅かったり、自分の思い通りにいかない時に、相手の車に向かって窓を開けたりして暴言はいたり、窓を開けて『なんなのお前』みたいな。

『調子のんなよ』的なことは前にも言っていました。結構スピードも出していました。常にそういう運転しかしてなかったんで、それしか印象になかったです。いつかこういう事故・事件に遭うと想像していた」

ハロウィンの夜に、息子を失った

「足で運転? テレビのニュースでこの話を聞いたとき、なぜ周囲の人たちがその時点で運転をやめさせることができなかったのか……、本当に悔しくてなりません」

そう語るのは、愛知県名古屋市の眞野哲(さとし)さん(56)だ。

6年前のハロウィンの夜、眞野さんは極めて悪質なドライバーに、当時大学生だった息子の命を奪われた。眞野さんは語る。

「私も毎日のように仕事で車を運転します。絶対に事故を起こさないとは言いきれません。でも、これだけははっきり言えます。それは、私自身、 “足”で運転などしないということです。もちろん、飲酒運転や無免許運転も。こうした、運転をなめきった悪質ドライバーは、公道を走らせてはいけないのです」

長年にわたって交通事故を取材してきた私に、眞野さんから送られてきたメールを初めて受け取ったときの驚きを、私は今も鮮明に記憶している。

<初めまして、名古屋市に住む眞野哲と申します。昨年(2011年)の10月30日、自転車で横断歩行を走行中の長男・貴仁(19歳)が、飲酒、無免許、無車検、無保険、一方通行を無灯火で逆走していたブラジル人にひき逃げされ、亡くなりました。加害者は息子に衝突する直前、他の車と衝突事故を起こして逃走中に息子をはね、その後も、さらに民家に車をぶつけて逃げ続け、約1時間半後に逮捕されたのです>

これを「事故」と呼んでよいのか……。あまりにも悪質なその内容に、何と返信してよいのか戸惑うほどだった。

事故を起こしたM被告(当時47)は、ブラジルで生まれ、32歳のときに日本に入国。以降、派遣労働者として部品会社などを転々としていた。

●大きく変形した被害者の自転車と自車を付き合わせながら見分に立ち会うM被告

この夜はハロウィンということもあり、M被告は車を運転し、名古屋市中区のディスコへ出かけた。本人の供述によると、この店で友人数名とテキーラをショットグラスで6杯、ビールをジョッキで3杯くらい飲んだという。

午前0時45分頃、ディスコを出て、近くの店を数軒のぞくなどしていたが、次は名古屋市内から少し離れた小牧市内のナイトバーへ行こうということになり、午前3時半頃、再び車を運転して走り始めた。

前車に追突する事故を起こしたのは、その途中のことだった。

飲酒していたこともあり、警察に捕まるのが怖くなったM被告は、車のライトを消し、速度を上げてとっさに逃走。そして午前3時49分、名古屋市北区清水の交差点にさしかかったとき、一方通行を逆走し、今度は自転車に乗って横断歩道を横断していた貴仁さんに衝突したのだ。

しかし、M被告は倒れている貴仁さんを放置したままさらに走り、道路わきの民家に衝突する事故を起こして逃げたが、約1時間半後、逮捕された。

衝突の衝撃で36メートル先まで飛ばされた貴仁さんは、全身を強く打ち、病院に運ばれたが脳挫傷で間もなく死亡した。