核のごみと最終処分とは
高レベル放射性廃棄物、いわゆる「核のごみ」は原発から出る使用済み核燃料を再処理し、プルトニウムなどを取り出したときに出る廃液をガラスで固めたものです。
高さ1メートル30センチ、直径40センチの「核のごみ」からは、初期の段階では人が近づくと10数秒で死に至る極めて強い放射線が出ています。放射線を出す能力は時間とともに弱まりますが、環境への影響が抑えられるまで数万年かかると言われ、国は金属製の容器に入れて、地下300メートルより深い場所に埋める「地層処分」を行う方針です。
全国の原発などには、使用済み核燃料がおよそ1万8000トン保管され、これを再処理した場合、すでに再処理され保管されている分もあわせて、およそ2万5000本の「核のごみ」が生じるとされています。今後、原発の再稼働が進み、青森県にある使用済み核燃料の再処理工場が本格運転すれば、「核のごみ」はさらに増えることになります。
「核のごみ」は、再処理工場にある一時貯蔵施設などで冷却のために貯蔵され、その後、処分場に搬出することになっていますが、処分場は、調査地の安全性の確認から完成まで少なくとも30年はかかるとされ、場所の選定はのんびりやればいいというわけではないのです。
科学的特性マップ公表で議論は進むか
こうした中、国はおととし(平成27年)科学的に有望な地域を示した上で複数の自治体に処分場の選定に向けた調査を申し入れるやり方に方針を転換。
その「最初の一歩」としてことし7月に公表したのが、「科学的特性マップ」と呼ばれる全国地図です。
マップは、処分場としての適性が地域ごとに色分けされていて、このうち、近くに火山や活断層がないなどの科学的な基準から処分場として「好ましい特性が確認できる可能性が相対的に高い地域」は薄い緑色と濃い緑色で示され、面積にして国土のおよそ3分の2にのぼっています。
中でも、海岸から20キロ以内を目安とした地域は、廃棄物の海上輸送に好ましいとして濃い緑で示され、一部でも含まれる市区町村はおよそ900に上ります。
マップの説明会では
このマップについて国と地層処分の実施主体となる「NUMO(にゅーも)=原子力発電環境整備機構」が今月17日から福島県を除く全国各地で一般市民に向けた説明会を始めました。
東京で行われた初回の説明会では、できるだけ市民の声を聞くことに重点が置かれ、参加者は、6人ほどのグループに分かれて、地層処分の安全性などについて国やNUMOの担当者と意見を交わしました。参加者からは、「技術的な内容の説明がわかりやすかった」と評価する意見も出た一方、「廃棄物を輸送する際のリスクなどの話がなく、言いにくいことは説明していない印象を持った」と批判的な意見も出ていました。
6人ほどのグループでも地層処分の安全性や地域振興の方法などについてさまざまな意見が出され、処分場を選定することの難しさを感じました。
説明会を傍聴した原子力と社会の関わりに詳しい東京電機大学の寿楽浩太准教授に取材すると、「この問題は原子力をどう利用するのかと不可分だ。原発について社会が何を望むのか、議論を深めるような場で話し合われることを期待したい」と指摘。国民の関心を高めるには、将来のエネルギーをどうするのかといった議論とともに考える機会が必要だとの考えを示しました。
処分場の選定進まなかった教訓を生かして
「核のごみ」の処分場の選定作業は平成14年、15年も前から始まりました。国は、応募した自治体や周辺の自治体に、最初の2年間だけでも最大20億円の交付金が支払われる仕組みを設けましたが、平成19年に高知県の東洋町が唯一応募しただけで、その東洋町も住民の反対などにより応募は撤回されました。
NUMOは、その頃から全国で「核のごみ」や地層処分について説明会を開いてきましたが選定作業は進展しませんでした。
国は今回のマップ公表をきっかけに、いっこうに進まない処分場選定の閉塞感を打破したい考えですが、何よりも、福島第一原発の事故で国民に根強くある原子力への不信感を払拭し、問題への関心を高めることができるかが大切です。
そのためには、この問題を「核のごみ」の処分場選定の問題だけにとどめず、電気を使う私たちにとって、身近で重要なものだと意識できるような仕掛けも必要かもしれません。将来のエネルギーをどうするのかといった議論とともに考える場を設けるなど国民の関心を高めるよりいっそうの取り組みが求められていると思います。
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高レベル放射性廃棄物 処分場選定へ マップ公表
高レベル放射性廃棄物の処分場の選定に向けた調査対象になる可能性がある地域を示した全国地図。「科学的特性マップ」の詳細です。
- 科学文化部記者
- 花田英尋