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女騎士に関する現実性の真面目な考察

○真面目な考察エッセイです。
○計算においては有効数字を考慮せず、小数点3位以下四捨五入の形を採っています。



 女騎士批判、ということで。
 「どうせ『女騎士なんて無理に決まってんだろwwwww』とでも言うのでしょ?」と予想された読者様。
 私がそんな男尊女卑に塗れたセリフを声高に叫ぶとお思いですか?ちょっと酷いですね。今回は真面目な考察回です。


 えー、まず。女騎士の、いや、騎士の出で立ちと云えばどのような格好でしょう?やっぱり中世ヨーロッパ風の全身を鋼板などの板金で身を包んだプレートアーマーですかね。
 戦場の花形です。
 まずはこの鎧兜の考察から入りましょう。


○騎士の装備

 命を守る防具において、まず欠かせないのが防御力でしょう。
 高い金を払って鎧を買い、いざ戦場へ。
 敵と(まみ)える。
 奴は袈裟懸けに剣を振り下ろし……

 ズばァ……。

 では意味が無いのです。防具なんですから、しっかり攻撃を防いでくれなきゃ困ります。
 とはいえ、この点に関してはそこまで憂慮する必要はないでしょう。
 理由としましては、主に使っている武器の仕様があります。
 我々日本人は『剣』といえば鋭利な刃物を想像することでしょう。これは日本刀に影響を受けているものと思われます。
 片刄で反りがあり、靭やかな芯金を覆う硬い刃金。極限まで研磨された刀身は紙が自重で切れるほど……
 そんなのプレートアーマーになんて使える訳ないじゃないですか勿体無い。切っているのは金属ですよ?
 確かに1人目は鎧もろとも真っ二つにできるかもしれませんが、刃毀(はこぼ)れや摩耗で2人目、3人目も…とはなりません。
 ここで武器の仕様に戻ります。プレートアーマー用の剣は(きっさき)三寸しか刃がありません。なぜなら切る必要が無いから。
 相手にしているのは鋼の板を身に纏った人間です。そいつを倒すにはどうするべきか。
 騎馬から引き摺り下ろすか、打撃でぶっ倒すか、目や関節の隙間から刃を差し込むくらいしか無いんですよね。だから態々刀身の先から根元まで研ぐ必要がありませんでした。
 しかもその剣は日本刀のような反りを持っておらず、直剣です。引き切る動作で切断、というのもそこまで考えられていませんでしたから、プレートアーマーは打撃に対する圧力の分散が主な役割だったと言えるでしょう。


 さて、その次に問題となるのは…重さですね。
 ここで要素となるのが体の表面積です。私は馬鹿ですから、そんな計算できません。
 コンピュータちゃんを頼りましょう。計算サイトは参考文献へ。
 身長178cm、体重90kgの人間は体表面積がおよそ2.08m²あるそうです。
 ちなみにこの数値はデデン・デン・デデンのハリウッド俳優から引っ張って来ています。ザ・筋肉質!って感じの体格ですね。人類最強のハンマー投げ選手(アテネ金)よりちょっと軽めです。
 このアンドロイドみたいな人間の体表面積が約2m²です。
 鋼は重く見積もって8050kg/m³または8.05g/cm³。
 しかしこのままでは板でなく直方体ですので、÷2をして削っていきます。現実味を帯びてくる厚さが大体4mm〜2mmのとき。64kg〜32kgです。さすがに64kgは重いですかね。
 え?じゃあ2mmでいいの!?となった方はホームセンターに行って1mmでも2mmでも良いです。鋼板を手にとってみてください。……硬ってぇ!ってなりますから。
 私は手元に家具を組み立てる時のオマケでついていたスパナがありましたので試してみました。丁度2mmです。
 幅1cmあるかどうかという小さなものなのに、曲げることすらできませんでした。金属切断用のハサミでぶっ叩いても傷すらつかぬ。
 おそらく工具鋼かステンレス鋼なのでクロムやらニッケルやらが入っているのでしょう。実際の炭素鋼はもう少し劣ると思われますが、丈夫さは実感できました。
 ではその2mmの鋼板32kgをどうしましょう。
 叩いて成形してください。え?表面積の分だけで足りるか、ですか?ほぼ足りるでしょう。
 ……何ですかその疑念の籠もった視線は。
 良いですか、動く鎧を作るんですよ。銅像を建てるんじゃありません。可動部位には板が張れませんからね?
 掌、肘の内側、(わき)鼠蹊部(そけいぶ)、脚裏、膝裏、足裏……ここら辺の余分を肩や首回りに寄せれば十分足りると思います。オプションで関節に鎖帷子(チェーンメイル)を取り付けてもプラス5kg以内には収められるでしょう。
 でも30kgは重すぎない?と思うあなた。
 米の袋3つを想像していませんか?確かに走る時や跳ぶ時はそれで間違ってはいません。でも防具は全身に着いているんですよ?
 計算行ってみましょう。

▼▽▼▽

腕周りを30cm、上腕の長さを20cmとする
この時、腕を完全な円柱と仮定すると半径は4.78cm
ここに2mmの鋼板をぴったりと沿わせるとき、腕の断面積は
4.78²×3.14=71.74cm²
鋼板を足して
4.98²×3.14=77.87cm²
中身(腕の断面積)を抜いて
6.13cm²
が鎧の断面積となる
鋼の円筒は長さ20cmとあるから、円筒の体積は
6.13×20=122.60cm³
鋼の比重は8.05g/cm³なので
122.60×8.05=986.93g

▲△▲△

 上腕でプラス1kgにも満たない負荷です。肘から先は細いですが、ギミックも多いので同じくらいの重さになるかもしれません。
 それでも2kg以内には抑えられます。
 この程度の負荷で剣が振れないなんてことありますか?
 はいまた。
 2Lのペットボトルを想像したでしょう?そりゃあ腕を一直線に伸ばして上下にブンブン振るなら間違ってはいません。
 が、そんな『ろいつま』を歌う『はちゅね』さんじゃないんですから。
 梃子の原理で肩に近い部分は先端よりも負荷が小さくなりますし、腕を曲げれば遠心力も小さくなります。
 それに、腕の太さは直径9.56cmですよ。アスリート並みの筋力があります。10kgのバーベルで筋トレするような人間が2kgの負荷でどれだけ消耗するというのでしょう。
 動作に疑念の残る方はネットに動画が沢山上がっていますので是非見てください。当時の鎧を着て機敏に動いている検証動画なんかもありますから(URL貼っときます)。
 そんな感じで、腕周りの重さは解決されました。
 足周りに関しては上の通り、32kgを背負っていますから大変っちゃ大変です。
 歩く時は足に体重の1.2倍、走ると3倍の重さが掛かると言われていますから。
 では本当に走れないのかと聞かれますと、否。走れます。
 フィンランドに『奥様運び』という祭があります。夫が妻を背負って障害物競走をする祭です。ここではルール上、49kg以上の荷物(妻が指定の重さに達しない場合は錘が足される)を持って走らなければなりません。
 コースは253.5m。優勝タイムは若干のブレがあるものの、毎年およそ1分。時速にして約15km。
 当然、歩く速さではありませんね。それも池に入ったり、柵を越えたりしてこのタイムですから、実際にはもう少し速いでしょう。


 たった250m走れたから鎧も大丈夫?ふざけるな。
 と仰る読者様。忘れていませんか。鎧を着るのは『騎』士ですよ?
 普段、騎馬に乗っている人間が何故地面に足を着いて何百mも走らなくちゃならないんです?
 甲冑歩兵ならまた変わるでしょうが、それでも250mを全力疾走しなければならない事態ってかなり稀ですよ。開戦の時と敗走くらいしか無いんじゃないですか?


 ……じゃあ、馬が耐えられないんじゃない?
 馬をナめないでください。大人2人乗っても走れるんですよ?鎧は前述の通り32kgです。多く見積もっても40kgに満たない。人間にすると少女程度の重さです。軍馬がそれでヘコたれるとでも仰りたいのでしょうか。


 こんな感じで、重さに関してもクリアです。
 お待たせしました。本編に入りましょう。


○女騎士

 実際のところ女騎士ってどうなの?
 と聞かれると、まぁ可能でしょう。ただ、ちょっと不利かなぁと思います。
 またまた計算行きましょう。

▼▽▼▽

腕周りを40cm、腕の長さを20cmとする。
腕の半径は6.37cmで、断面積は127.41cm²
鋼の断面積は8.13cm²で、円筒の体積は162.60cm³
重さは1308.93g

腕周り30cmのとき、円筒を含む円柱の体積は1557.47cm³
体の比重を水と同じ1.00とすると、重さは
4.78²×3.14×20×1.00+986.93=2421.81g
1cm³当たりの中身に掛かる負荷は
2421.81÷1434.88=1.69g
同様に、腕周り40cmのとき、1cm³当たりに掛かる負荷は1.51g

▲△▲△

 お分りでしょうか。
 腕周りが増えれば1cm³当たりに掛かる負荷は小さくなっていくのです。では逆は?
 そうです大きくなります。
 極端な話、腕周りが20cmの人は1cm³当たりの負荷が2.04gとなります。
 筋肉量が少ない上に、負担が増えるので腕が細い人は不利となります。
 ここに筋肉量の性差が係ってくる訳です。女性は男性より腕が細い傾向にありますから。


 また、全身の筋肉量を計る際、 Lean Body Mass (LBM)という概念が存在します。除脂肪体重とも呼ばれ、体重から脂肪量を抜いた骨格と筋肉の重さを表します。
 男性は変わらずデデン・デン・デデンの体格を用いましょう。
 体重が90kgです。骨格の重さは大体、体重の5分の1とされていますので、18kg。体脂肪率はアスリートを参考にして5%と仮定します。
 そうするとLBMは85.50kgで、骨格を抜いても67.50kg残ります。これには内臓などの不随意筋も含まれますので実質の値はもう少し減ります。
 では女性は。
 レスリング選手を例に出しましょう。霊長類最強の彼女は小柄過ぎるので、一番重い階級である72kg級の金メダリストを参考にします。身長176cmです。
 体重72kgの時点でかなり不利ですが、加えて体脂肪率にも制限が掛かります。体脂肪率を17%以下に落とすと女性はホルモンバランスに影響が出ると言われています。よって下限を17%とします。
 骨格の重さは14.40kg。
 LBMは59.76kgなので筋肉量は45.36kgです。
 体格差も含め、筋肉量は男性の3分の2(67.20%)しかありません。
 これで男騎士と戦うとなるとかなり厳しいことが分かるかと思います。
 因みに筋肉の質は性差が無いと言われていますので、筋肉量が近くなれば公平(フェア)に近づきます。


 ホルモン、といえば、筋肉の生成に関わる物質でテストステロンがあります。筋肉が増えるのはこのホルモンが大きく関わっていて、主に睾丸で生成……
 女性に睾丸は無いんですね……。このテストステロンは男性ホルモンの一種で、腎臓などでも分泌されますが、少量です。
 ただでさえ性差が大きいのに、トレーニングの効果も男性の方が勝る……。

 しかし、歴史上では女性の騎士、プレートアーマーは存在しました。代表的なのは巴御前(ともえごぜん)とジャンヌ・ダルクでしょう。
 ジャンヌ・ダルクはともかく巴御前って?という方に軽く説明すると、平安時代末期に活躍した木曾義仲(旭将軍)の妾で一騎当千の女傑です。
 粟津の戦いという、義仲が最終的に討ち死にする戦においても最後までその強さを発揮し、敵将を馬から引き摺り下ろして首を捻じ切った後、彼の(めい)によって落ち延びたと伝わっています。脚色もあるでしょうが、規格外の強さが見て取れます。


 まぁ、性差の問題と個体差によるイレギュラーは他のスポーツにも言えることなので今更ですかね。
 次、戦い方。入りましょう。


○戦い方

 騎馬での戦いは馬、騎士、甲冑を合わせた質量と、馬特有の速度がモノを言います。
 並の歩兵では突進してくる騎兵を止めることは不可能でしょう。
 現代戦で、戦車の相手は戦車(または対戦車ヘリ)であるように、騎兵の相手は騎兵となるのが自然な流れです。
 そしてそこには一定のルールが。
 乱戦だと生死が関わってきますが、ある程度秩序のある戦、或いは決闘においてはお互い示し合わせてぶつかる一騎打ちがとられました。
 槍を構えて突進し、槍を突き合い、落馬した方が負けです。故に体重が重い方が有利ではあります。
 90kgの男性と72kgの女性。女性が勝てる見込みは薄いと考えられます。甲冑の分も軽くなりますし(同様の計算をすると4kgほど軽くなる)。
 スピードは出ても相対速度的には(例として)40km/h+35km/h=75km/hで同じですから。
 運動エネルギーにすると、

▼▽▼▽

馬の体重は軍用馬デストリアを参考に600kgとする

K[J](ジュール)=M[kg]×V²[m/s]

の公式に当てはめて、

♂: K=(600+90+34)×20.83²=314.14k[J]

♀: K=(600+72+30)×20.83²=304.59k[J]

差は9.55kJ

▲△▲△

 な感じです。では落馬した後、女騎士はどうなるのでしょうか?
 いきなり
 「くっ、殺せ!」
 とはなりません。勝った方が敢えて馬を降り、地上戦の機会を与える場合があります。


 槍から剣に持ち替えて第2ラウンドという訳です。
 ここで、剣を『振るう』シーンを想像した読者様。まだまだですね。数千字前を思い出してください。
 剣に刃は殆どついていないんですよ?鉄の棒振り回してプレートアーマー相手にどうするおつもりですか?
 ……そうです。刀身を持っちゃいけないなんて固定観念は捨てましょう。逆に持って(つば)で殴っても良いんです。柄頭(つかがしら)で相手を殴打しても良いんです。
 合気道と剣道の経験者である私からすると、格闘の様子は剣術(剣道)よりも棒術(合気道)に近い気がしました。
 柔道のような特定の国『らしさ』はありませんが、柔術としてかなり洗練されています。
 そして技術に加え、体格やパワーも重要になってきますので、ここでも筋肉量の差を思い知らされることでしょう。
 如何な女子柔道メダリストでもロシアやドイツの大柄な男子柔道家には勝てまいて。
 そういう相手を想定して訓練しているなら倒すコツは分かると思いますが、(こと)この女騎士に関してはその前の一騎打ちで落馬していますからね。
 身体的損傷や心理的な側面も鑑みるとどれだけ本来の実力が出せることやら。


 地上戦の勝ち負けは相手を組み伏せたら勝ちです。殺す必要はありません。
 くっころ展開はここでしょうね。だって勝っても殺さなくていいんですから。
 その時女騎士の脳内はどうなっているのでしょう。
 組み敷かれて、兜のスリットから覗くのは相手の凶悪な双眸。恐怖。
 或いは自分を殺さない紳士な益荒男(ますらお)に惚れて
 (負けたのに……何かを期待している私がいる……どうして……?)
 という葛藤、動揺を隠すために、又は、いっそのこと死んでしまいたいという願望が口から漏れて

 「くっ、殺せ!」

 となったのかもしれません。
 まぁ、私はオークとか他の騎士による凌辱より触手の方が好みなんですけどね。ははは。




 …………。冗談ですよ?


 今回の考察において、筋パワーの計算は単純計算としています。
 実際に起こり得る体の長さによる重さとのバランス(長さによる重さは3乗に比例するが、耐久性は断面積の2乗に比例する)といった考慮は為されていません。計算が非常にややこしくなる上に、人間の範疇から出なければ無視できる値だろうとの判断からです。
 仕事率=距離÷時間[W](ワット)
 や、
 筋パワー≒筋断面積×1.5+5[kg]
 なども登場させたかったのですが、参考にする論文が多すぎて私では力不足だったことを悔やみます。


 また、文中で鎧の重さを30kgとしました。
 参考までに日本の大鎧も同様の重量であることを追記しておきます。
 因みに鎖帷子は7〜10kgです。こちらはワンピースのような形状なので全重量が肩に掛かります。また、矢や刃を防ぐためには有効ですが、騎士がそれだけを着けて戦場に赴くとは考えられなかったため、今回詳しくは触れませんでした。


 女子も180cmの人いるじゃん、バレーボールとか。と思われた方に釈明すると、彼女らの体重は60〜70kgと非常に軽くなっています。また、格闘戦ということもあり、より形式の近いレスリングを選びました。


 全体的な論調として女騎士が不利となるようなことを述べてきましたが、これがそっくりそのまま戦場で当て嵌まるとは私も考えておりません。個人の実力以外にも勝敗の要素はたくさんあるので可能性の一つとして捉えて頂ければと存じます。


 長々とお読み頂きありがとうございました。

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