投資信託を利用して資産運用をされている方は少なくないと思います。しかし、ズバリお聞きしますが、投資信託で満足のいく成果を得られているという方はいないのではないでしょうか?全く資産が増えなかったという方もいらっしゃるでしょう。
私は、そのような方に、自分でETFに投資するということをお考え頂ければと思っています。
投資信託に運用を任せるのは、楽で良いかもしれません。ただし、ETFは少し勉強すれば自分でも運用することが出来て、自分でリスクを把握してコントロールできるという点で、実は投資信託に任せるよりも安全です。
またETFのことが詳しくなっていけば、自分で収益率が高い銘柄を探せるようになりますし、上手くポートフォリオを組むことでリスクヘッジもできるようになっていきます。
ここでは、その入門編として、初心者の方にまず興味を持って頂きたいETFをご紹介します。
1. ETFとは
まずは、ETFとは何かを正しく理解するところから始めましょう。ETFは日本語で「上場投資信託」といいます。
通常の投資信託は証券会社などの販売会社に申し込みをして購入しますが、ETFは株式と同じように、証券会社で口座を開いていれば、株式と同じように市場でリアルタイムで売買することができます。
ETFは、株式や債券など様々な投資対象でポートフォリオが組まれています。株式を中心に組まれているETFなら、その価格はポートフォリオ内の株式の価格に連動します。債券を中心に組まれているなら、それらの債券の価格に連動します。他にも、不動産価格と連動しているものもあれば、トウモロコシなどのコモディティに連動しているものもあります。
この「何に連動しているのか?」を知っておくというのがETFを扱う上で重要です。またこの記事内では、日本のETFではなく、アメリカのETFを紹介していきます。理由は二つあります。
一つ目は、アメリカでは日本と比べ物にならないくらい多くの魅力的なETFが取引されているからです。世界各国の株式や債券、金、原油などのコモディティ、不動産など、あらゆるETFに自由に投資をすることができます。そして、それぞれに非常に魅力的なパフォーマンスを誇るものがあり、それらに分散投資することでリスクを限定することもできます。日本のETFはこうはいきません。
二つ目は、圧倒的なコストの低さです。例えば、世界全体の株式を投資対象にするとしましょう。国内で販売されている、ある投資信託では年率0.648%のコスト(信託報酬)がかかります。これが、アメリカのVTというETFであれば年率0.11%で済みます。パーセンテージだけ見るとわずかな違いに感じられるかもしれませんが、運用金額が大きくなるほど、10年、20年の長期で見た場合大きな差となってきます。
この記事で低コストで安定して資産を増やすことができるETFを見つけてください。
2. 株価連動型ETF
株価連動型ETFはETFの中で最もメジャーなものだと言えます。数多くの種類がありますが、どのようなものか見てみましょう。
2.1. Vanguard Total World Stock ETF (VT)
VTは、2008年に上場された全世界の株式に連動しているETFです。つまり、全世界の経済がトータルで成長すれば、VTの価格も上がるということです。
右図のように、VTの構成銘柄の半分以上はアメリカの企業の株で占められており、日本、イギリス、カナダと続きます。
続いて、構成銘柄のトップ10を見てみるとアップル、マイクロソフト、アルファベット(Google)というアメリカを代表するテクノロジー系企業がトップ3で、続いて、アマゾンやフェイスブックなど誰もが知っている企業が名を連ねています。
VTは、このように、各国のトップ企業の株を、ポートフォリオに取り込んだETFです。
過去の市場の歴史を見ても、2~3年の短いスパンで見れば下落する時はありますが、10年以上の長期で見れば、経済は必ずと言ってよいほど成長しています。
そのため、将来必要になった時のために、長期で資産を増やしていきたい方にとても向いているETFです。
それでは、昔から1万ドル分のVTを保有していたとしたら今はどうなっているでしょうか?
それを表しているのが次のグラフです。
2009年から今までの9年間で、当初の1万ドルは、25,442ドルと2.5倍以上になっています。
もちろん、リーマンショックや戦争など世界恐慌の時は下がりますが、その時を過ぎると、また上がり始めています。私は、10年スパンの長期で見れば必ず大きなプラスになるものと見ています。
・配当利回り(執筆時点):1.99%
・信託報酬 :0.11%
2.2. Vanguard Total Stock Market (VTI)
VTIはアメリカ市場全体の株式に連動しているETFです。
VTは全世界の株式市場に連動したETFでしたが、VTIはあくまでもアメリカ国内の株式市場にのみ連動しています。
構成銘柄のトップ10を見ると、VTと変わりはありません。ただし、繰り返しとなりますがVTIは、アメリカの株式のみと連動しているので、価格がどれだけ上昇するかは、アメリカ経済がどれだけ発展するかにかかっています。
それでは、1万ドル分のVTIを過去10年間保有していたとしたら、どうなっていたでしょうか?
このように、10年間で22,332ドルになっています。VTよりは劣る数字ですが、これはVTは2008年の中頃にできたETFのため計測期間が異なることによります。
資産推移を見ると、リーマンショックが起こった2008年から2009年にかけては大きく減少しています。
ただし、その後、リーマンショックを乗り越えて米国経済は力強く回復し、資産も大きく増加していることがわかります。
・配当利回り(執筆時点):1.69%
・信託報酬 : 0.04%
2.3. Vanguard High Dividend Yield ETF(VYM)
VYMは日本語ではバンガード米国高配当銘柄と言います。その名の通り、アメリカ企業のうち配当利回りの高い銘柄に連動したETFです。
構成銘柄トップ10を見てみると、VYM自体の安定性を高めるために、安定的に利益を出している巨大企業の比率を高くしていることが分かります。
なお、それぞれの企業の配当利回りは以下の通りです。
- マイクロソフト:2.29%
- エクソンモービル:3.81%
- ジョンソン・エンド・ジョンソン:2.57%
- JPモルガン:2.39%
- ウェルスファーゴ:2.9%
- GE :3.85%
- AT&T: 5.06%
- P&G :2.98%
- ファイザー:3.63%
- シェブロン:3.68%
上位銘柄の配当利回りは必ずしも高いというわけではありませんが、VTIと比べると、アップルやアルファベット、アマゾン、フェイスブックが抜けて、多めの配当を出している銘柄が増えています。
そして、VYM自体は2.94%の配当利回りを出しています。VTとVTIは、それぞれ1.99%と1.69%なので、比較すると大幅に高いですね。
VYMに1万ドル投資した場合の資産推移が下図です。
10年前に1万ドル分保有していたとすれば、今では21,181ドルになっています。
超長期運用を考えているならVTやVTI、超長期運用にプラスして配当を望むならVYMという感じですね。
・配当利回り(執筆時点):2.94%
・信託報酬:0.08%
2.4. Vanguard Small-Cap ETF(VB)
VBは、時価総額が小さいアメリカの小型株を対象としたETFです。
構成銘柄を見てみると、馴染みのあるものはないと思います。
株式には小型株効果といって、大型株よりも小型株の方が収益率が高いというアノマリー(経験則)があります。
だからといって、馴染みのないアメリカの小型株の個別銘柄の分析を自力で行うのは労力がかかり過ぎます。
そこで、このVBのようなETFを利用することで、簡単に小型株効果を享受することができます。
それではVBを1万ドルで10年間運用するとどうなっているのでしょうか?
1万ドルの投資資金が10年間で23,284ドルに増加しています。
VTIは10年間運用後の資産額が22,332ドルですので、VBのほうが上回っています。
小型株効果の影響もあってか、大型株が多く含まれるVTIよりもVBの方が収益率は上回ります。
ただし、大型株よりも小型株の方が不況の影響を受けやすいのも事実です。そのため10年間での資産の最大下落率はVTIが-50.84%なのに対して、VBは-53.72%となっています。
つまりVBは利回りが高い分、リスクも高いということですね。
・配当利回り(執筆時点):1.50%
・信託報酬:0.06%
PFFはアメリカ企業の優先株を対象としたETFです。
優先株は、通常の株式と比べて、配当金や解散時の財産分配を優先的に受けられる株式です。一方で、議決権などの会社経営に関わる権利は制限されています。
構成銘柄を見てみると、金融系の会社が多くを占めていることが分かります。
そのためか、当記事の執筆時点では配当利回りは5.48%と比較的高い数字になっています。
こちらはPFFに1万ドルを投資した場合の資産推移です。
10年間で1万ドルが17,913ドルに増加しています。優先株も株式の一種なのでリーマンショック時には大きく下落しています。
また、信託報酬が0.47%と高めなのが難点です。
・配当利回り(執筆時点):5.48%
・信託報酬:0.47%
3. 債券連動型ETF
債券は株式と並んで代表的なETFです。基本は、株式連動型と債券連動型のETFを軸に据えて運用すると良いでしょう。
3.1. Vanguard Total Bond Market ETF(BND)
BNDはアメリカ国内の債券に連動したETFです。
構成割合を見ると、政府機関が発行している債券を多く含めていますね。
債券には株式と比べて収益率が低いのですが、その分、不況時の影響も少ないという特徴があります。
そのため、バリュー投資の父と言われるベンジャミン・グレアムは、「株式の割合は25%から75%の範囲内に、債券の割合は75%から25%の範囲内にするべきである。」と言っています。
それではBNDを10年間運用した場合を見てみましょう。
10年間で14,492ドルに資産が増加しています。
VTIやVYMなどの株式型ETFに比べてパフォーマンスは良くありませんが、チャートを見ると分かる通り、非常に安定しています。特に2008年から2009年にかけてのリーマンショック時でもほとんど資産を減らしていないのは特筆すべき点ですね。
ベンジャミン・グレアムの言葉を借りるなら、投資ポートフォリオの25-75%は、このような債券で組むと心理面でも安心できますね。
・配当利回り(執筆時点):2.47%
・信託報酬:0.05%
HYGは、ハイイールド債(高利回り債券)で構成されているETFです。
ハイイールド債は利回りが高い代わりに、発行体の信用力が低いため、国債などと比べるとデフォルトリスク(債務不履行リスク)が高くなります。
発行体を見てみると、日本では馴染みのない企業が名を連ねています。
しかし、配当利回りはVYMよりも高く4.95%あります。これは債権としてはかなり高い利回りです。
それではHYGに1万ドルを投資して10年保有していればどうなっているでしょうか?
10年間で17,212ドルに増加しています。
債権連動型ETFなので、ご覧の通り株価連動型ETFよりは恐慌時の下落リスクが低く、資産の増加率も低いです。しかしBNDよりはリスクも収益率も高いです。このような特性を理解した上で、債権ポートフォリオに含めるかどうか検討すると良いでしょう。
・配当利回り(執筆時点):4.95%
・信託報酬:0.49%
4. 不動産連動型ETF
不動産連動型ETFは、各国の経済や人口の成長に大きく左右されます。株式や債券以外に投資対象のETFを検討したい場合は、有効な選択肢となるでしょう。
IYRはアメリカのREIT(不動産投資信託)や不動産会社を対象としたETFです。
不動産は実物資産であり、災害などで建物が焼失したり土地が使えなくなったりしない限り価値がゼロになることがないので、投資対象として安心感があります。
ただし、IYRについては、REITや不動産会社を投資対象とするので、不動産そのものへの投資ではないことに注意してください。
以下がIYRに1万ドルを投資して10年間保有した場合の増加率です。
10年間で1万ドルが15,195ドルに増加しています。
サブプライムローンの焦げ付きが問題となったリーマンショック時にはやはり大きく下落していますが、その後目覚ましい回復を見せています。
・配当利回り(執筆時点):4.95%
・信託報酬:0.44%
5. コモディティ連動型ETF
コモディティ連動型は、麦やトウモロコシなどの商品に連動しているETFです。値動きに決まった規則性が見られにくく、個人的には扱うのが難しいのですが、こういうものもあるということを知っておくと良いでしょう。
5.1. Summary for SPDR Gold Trust(GLD)
GLDは、金の国際価格に連動したETFです。
金そのものは付加価値を生み出さないので、GLDには配当金はありません。それではどのような目的で使えるのかというと資産保全です。
「有事の金」と言われるように、リーマンショックのような経済危機の時でも、金の価格の下落率は限定的です。過去の傾向を見ても一定の範囲をキープしています。
6. まとめ
これらのETFを組み合わせることで、安いコストでオリジナルのポートフォリオを作ることができます。
また、これらのETFのオプションを利用したりレバレッジをかけることで、さらに利回りを高めることも可能です。オプションを使って利回りを上げる方法については、『オプション初心者がLEAPSで簡単に利益をあげるための4つの手順』や、『カバードコールを使ってオプション取引の中でも最も安全に利益を上げる方法』でご紹介していますので、参考にしてください。
また、ETFのオプションを取引きするためには現状では海外口座が必要です。日本人でも開ける海外証券口座については、『海外投資に必須のインタラクティブ・ブローカーズ証券の使い方』を参考にしてください。