『憲法は世界を広げてくれる』
元AKB48 内山奈月さんインタビュー

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「日々の暮らしの中で、私たちが憲法を意識することは、それほど多くはないかもしれません。それでも「憲法を知ること」には、どんな意味があるのでしょうか。
このサイトを開設するにあたって、インタビューに応じてくれたのが、人気アイドルグループ、AKB48のメンバーだった当時、“憲法アイドル”として知られた内山奈月さんです。
「憲法の暗唱」という特技を披露したことをきっかけに、憲法に関する本を出版。その後も、憲法にまつわる仕事をする機会が増えたという内山さんは、憲法とは何かを考え続けているといいます。
憲法の施行から70年目を迎えたいま、“憲法アイドル”からのメッセージをお伝えします。

ー憲法との出会いから聞かせて下さい。

憲法に出会ったのは、小学校5、6年生の時です。社会の授業で、憲法の暗唱をしたのがきっかけでした。面白いなと思って、その頃から趣味で、いくつかの条文を覚えるようになりました。母の教育方針で、「きれいな日本語に触れなさい」とよく言われてきたので、幼いころから、歴史の名文を暗唱する習慣があって、「方丈記」や「奥の細道」など、たくさん覚えました。
憲法の暗唱は、父と母が大学では法学部の出身で、家に六法全書があったのが大きかったと思います。私が授業で習った憲法の条文を暗唱していたのを見て、母が押し入れから六法全書を出してくれました。それがきっかけで、条文を覚えてみよう、覚えて披露すると楽しいなと思うようになりました。当時は意味も分からず、興味本位で暗唱していました。

ーいまも、暗唱はできますか?

はい、いくつかなら言えると思います。一番最初に覚えたのが、確か憲法9条なので、言わせていただきます。合ってるかどうか、わからないのですが。
『日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇または武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては永久にこれを放棄する』。合ってますかね(笑)。

ー合っています。ほかには?

AKBのコンサートでは初めて暗唱させていただいたのが48条です。やってみます。
『何人も、同時に両議院の議員たることはできない』。こんな感じです。
条文の意味は全然わからなくて、ただ親戚や友達に、「ねえ、ねえ、すごくない?」と自慢するためだけに、披露するためだけに覚えていました。

2013年、内山さんは日本武道館で行われたコンサートで、特技として「憲法の暗唱」を披露。大きな反響を呼んだ

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『口の中にしゃもじが入る』とか、『竹馬に乗れる』とか、いろんな特技をリストアップして提出したんですけど、その中に「憲法暗唱」が入っていて、その時、キャプテンだった峯岸みなみさんが、『憲法おもしろいじゃん、誰もやらないよ、そんなこと』と言ってくださったので、じゃあ、憲法やってみようと思って。
初めてやったのが研究生だけの武道館コンサートで、1人ひとつだけ特技を披露するというのも初めてだったので、本当に偶然が重なったと思います。

ーちなみに、しゃもじが口に入るんですか?

入ります(笑)。外から見ると、口は小さいと思われるかもしれませんが、いっぱい開くのが特技なんです。

ーファンの人たちの反応はどうでしたか?

ほかのメンバーたちは、『かわいい笑顔』とか、『ダンス』とか、『モデル歩き』とかアイドルっぽい特技が多くて。そういう特技が続く中での憲法暗唱だったので、「おー」っていう声がわきましたね。しかも、見ている人は、ほとんど正解がわからないので、合っているかどうかわからない条文をつらつらそらんじるというのが、良かったんじゃないでしょうか(笑)。
その後、別のコンサートでも、「おもしろかった特技ベスト3」に選んでいただいて、披露させていただいて、反響は大きかったなと思います。ファンの人たちからも、「はじめて憲法に興味をもった」と言ってもらうこともあって、うれしかったですね。

それがきっかけで、「内山さんが憲法学者の授業を受ける」というスタイルの本を出版“憲法アイドル”として広く知られるきっかけになった

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南野(森)先生っていう、九州大学の先生が、2日間まるまる講義をしてくださったんですけど、ものすごくおもしろい授業でした。私がいままで高校とかで習ってきた、どの憲法の授業とも違って、すごくおもしろかったので、貴重な経験をさせていただいたなと思っています。
憲法には一言一句に深い意味がある、いろいろな解釈があったり、ものすごく深い議論があったりしたうえで制定されたものなんだと知ることができたのが大きかったですね。そして、憲法は、そこから政治や、いま起きているいろいろな出来事につながっていく。必ず憲法が関連しているということを知ることができました。

ー講義の中で、特に印象に残っている憲法の条文はありますか?

『AKBの恋愛禁止って憲法違反?』というところがあるんですけど、その授業では、憲法は、国民が守らなきゃいけないものではなくて、国民を守ってくれているものだと、国家権力を縛って、国民がより幸せに暮らせるために制定されているのが憲法なんだということを教えていただいたんですけど、それが新発見だったというか、とても衝撃的でした。今まで、憲法は法律と同じで、守らなきゃいけないルールなのかなと思っていたので、私たちを守ってくれるものだったんだと教わってからは、憲法をより身近なものに感じましたし、学んでいて楽しいなと思うきっかけになりました。
そのほかには、9条も大きかったなと思います。それまでもニュースで集団的自衛権の話を見てはいたんですけど、私が思っていたよりも、とても深い話し合いが、憲法9条について行われているんだなっていうのを知ったきっかけでしたね。9条を改正する、しない、というだけじゃなくて、長い歴史の中で、70年間、平和な日本が続いてきて、でもそこで、大きな変化、集団的自衛権を認めるのか、個別的自衛権なのか、というのは、ものすごく大きな分岐点なんだなとか。すごくたくさんの思いや歴史が関わってくるんだなと感じました。憲法を知ることで、世の中の見方は変わる、と思いました。

ー日々の生活の中では、私たちに憲法が関わっていると感じることはありますか?

たくさんあります。一番感じるのは、やっぱり「表現の自由」じゃないかなと思いますね。いろんなメディアを見ていたり、もう辞めてしまいましたけど、アイドルとして歌う立場だったり、発信する立場だったりするうえで、今、自由に表現できるのは、憲法が「表現の自由」を守ってくれているからだなって、そういうところが一番身近に感じました。

ー“憲法アイドル”と呼ばれるようになって

AKBのアイドルという親しみやすい存在が、憲法について話をするっていうことで、まったく憲法に興味の無い人が憲法を知るきっかけというか、興味を持ってくれるようになればいいなと思って、活動してきました。自分でも新聞を読むようになりましたし、大学の授業でも意識的に政治学を学ぶようになって、勉強しなきゃいけないなって。
憲法って、すごくハードルが高いと思われているのですが、そのハードルを下げられたらいいなと思って、頑張っています。

その後、憲法にまつわる様々な現場を訪ねるラジオ番組に出演するなど、活動の幅を広げた内山さん。70年目を迎えた憲法に、いま、何を思うのでしょうか

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2つあって、1つは、憲法をこんなに学ばせていただいて、しかもアイドルという立場で、発信させていただけるという機会を得たので、もっともっとたくさんの人に憲法について知ってもらえたらいいなと思うようになりました。こういうお仕事や本の出版を通じて、まったく興味のない方達が少しでも憲法について考えてくれたらと思うようになりました。
もう1つは、憲法って、条文を読んだり、学んだりするだけじゃなくて、それについてもっともっと考えることが大切なんだなって感じるようになりました。
もちろん、条文に書いてあることや国の仕組みを知ることは大事だし、それが基本になると思うのですが、もっともっと私たちの生活に関わっていることだと思うので、自分がどう思うのかとか、これから日本をどうしていきたいのかとか、そういうことまで考えられるようになったらいいなと思いました。

ー今、大学生。同世代の憲法に対する関心をどう感じていますか?

関心は決して高くないと感じています。私たちにはもう選挙権があるので、選挙の前に学校で「どこに投票したい?」という話をすることもあるんですが、どういうことをポイントに投票するかという話になった時に、憲法というのはほとんど挙がらなくて、奨学金の話とか、経済の話とかは挙がるのですが、憲法について考えている学生って少ないなって、すごく感じます。でも、絶対に重要な論点のひとつではあると思っていますし、根っこにあることだと思うので、投票などの時に、1人ひとりがもっと、憲法のことを考えてくれたらいいなって思います。

ー憲法のあり方は、今、大きな注目を集めています。私たちに何が必要でしょうか?

うーん、難しいですね。でも、憲法は誰かが勝手に決めてくれて、誰かが勝手につくってくれるだろうって、思うのは間違いだって思います。「国会議員の人たちが勝手に作るだろう」とか、「放っておけばきっとプロの人たちがうまいことやってくれるんじゃないか」って考えるのは、間違いなんじゃないかと思うようになりました。
憲法は本来、国家権力を縛るものなんだし、私たちのことを守ってくれるのが憲法なんだから、私たち自身が学んで、一国民として、考えていけたらいいなって思うようになりました。
いま、私は21歳なんですけど、1年、2年先じゃなくて、40年、50年先だったり私の子どもの世代だったり、そういう長い目で見て、日本がどうなって欲しいかとか、今までの歴史を踏まえて、こういうふうになっていったらいいんじゃないかとか、そういう長期的な目で憲法のことを考えられたらいいなって、思います。
憲法について、自分の考えを持つ前に、まずは知らなきゃいけないし、何も知らなかったら考えも持てないじゃないですか。それから、世の中にあるたくさんの憲法に対する考えを知って、自分は「どのように考えたいのか」を考えていく必要があると思います。

ー最後に、このサイトを見てくださる方にメッセージをお願いします。

憲法を学ぶことは、世界が広がることだなって、感じています。憲法は今までまったく見えてこなかった世界とか、考え方とか、視点を私に与えてくれたので、ニュースを見るときだったり、政治について考えるときだったり、どんなときも、世界が広がるきっかけになるんじゃないかと思います。


-ーおわりに、

この日のインタビューの時も、内山さんは新聞を持ってきていました。
「父が仕事に行くときに持って行ってしまうので、自分でとるようになりました」。
「暗唱ができる」ことをきっかけに憲法を学ぶようになり、憲法のもとで暮らすということにまで広げて考えるようになった内山さん。
いま、私たちはどう憲法に向き合えばよいのか、21歳が発する言葉の1つひとつに、ヒントが込められている気がしました。