ことし8月、京都市の交差点で、2人乗りのオートバイに車を接触させて転倒させそのまま逃げたとして、過失運転傷害などの疑いで逮捕された男について、京都地方検察庁は、男がしつこくクラクションを鳴らしてあおった末、強引に前に割り込んで事故を起こしたとして、より刑が重い危険運転傷害などの罪で起訴しました。
警察によりますと、ことし8月、京都市中京区の交差点で上京区の調理師、橋本雅治被告(56)が乗用車を運転中、前を走っていた男女2人が乗ったオートバイに接触しました。オートバイは転倒して、女性が足に全治2か月の大けがをし、警察は、橋本被告を過失運転傷害とひき逃げの疑いで逮捕しました。
その後、警察が事故の状況をさらに調べたところ、目撃者の証言や近くを走っていたタクシーのドライブレコーダーの映像などから、被告が、およそ150メートルにわたって、しつこくクラクションを鳴らした末、オートバイの前に強引に割り込んで事故を起こしたことがわかったということです。
このため京都地検は、悪質なあおり運転だとして、より刑が重い危険運転傷害などの罪で起訴しました。
警察の調べに対し「オートバイのスピードが遅くていらいらした。嫌がらせをしようと思って割り込んだ」などと供述しているということです。
タクシー運転手が証言
被告の車が、オートバイに、いわゆる「あおり運転」をしている様子は、当時、近くを走っていたタクシーのドライブレコーダーに記録されていました。
タクシーを運転していた大久保憲男さん(49)は当時、客を乗せて被告の車の横を走っていたということで、17日、現場の交差点の近くで取材に応じました。
大久保さんは「車がオートバイに向かって何度もクラクションを鳴らし続けながら車間距離を急に詰めていった。危険も危険だし、なぜ夜のすいている道路でそういう運転をする必要があったのか分からない」と話していました。
半数のドライバー あおられた経験あり
JAF=日本自動車連盟のアンケート調査では、アンケートに答えたドライバーのうち半数以上が、運転中にうしろからほかのドライバーにあおられた経験があると答えています。
JAFは、去年6月、全国の自動車ユーザーを対象に、インターネットを通じて交通マナーに関するアンケート調査を実施し、6万4677人から回答を得ました。
この中で、運転中にうしろからほかのドライバーにあおられた経験があるかどうか聞いたところ、「よくある」と答えた人は7.9%、「時々ある」と答えた人は46.6%で、合わせて半数以上の人がうしろからあおられた経験があることがわかったということです。
トラブルの時は
東名高速道路を管理する中日本高速道路は、ほかの車の行動によってトラブルに巻き込まれそうになった場合の対処方法について、幅寄せやあおりなど危険な運転をする車が走っていたら、隣の車線に移るなどして危険を回避してほしいと呼びかけています。
また、前方や横を走る車に止められそうになった場合、必ず路肩に停車し、自分だけで対応せず、警察などに連絡を取るべきだと話しています。
運転中の怒り 抑える方法は
怒りの感情と上手に向き合うための心理トレーニングの普及を行う東京・港区の日本アンガーマネジメント協会は、運送業者の団体やタクシー会社などの依頼を受けて、運転中のドライバーなどの怒りの感情をコントロールする方法を指導しています。
日本アンガーマネジメント協会の安藤俊介代表理事は、運転中に怒りの感情が高まりやすくなる理由について、「車を運転している状態はいわば大きなよろいを着ているようなもので、自分が守られた気持ちになり、非常に大きな力をもったと錯覚しやすくなる。このため、後ろの車からあおられたり、前方に割り込まれたりすると、ドライバーはばかにされたり、攻撃されたりしたという気持ちになり、それが怒りとして増幅されやすくなる」と指摘します。
そのうえで、運転中に怒りやすくなるのは自分の運転技術がうまいと思い込んでいる人や、比較的若い世代の人が陥りやすい傾向だと指摘します。
そして、怒りを抑える方法について、安藤代表理事は「割り込まれた時などに反射的に行動せず、まずは6秒間待ってみることが大切だ。その際に、気持ちを落ちつかせるための言葉を自分自身に投げかけたり、温度計をイメージして自分がどれぐらい怒っているかを客観化したりして、感情をコントロールすることが望ましい」と話しています。
また、トラブルに巻き込まれそうになった時に取るべき行動については、「危険を感じたら、まずはできるだけ逃げて、危害を加えようとする相手から離れることが大切だ。それができない場合には車の外に出ずに、車内で警察などに連絡することを考えるべきだ」と指摘します。
専門家「怒りを行動に移すの避けるべき」
交通心理学が専門の実践女子大学の松浦常夫教授は、怒りの感情が高まって交通トラブルが犯罪行為に発展する現象は「ロードレイジ」と呼ばれていると指摘したうえで、「高速道路を運転する時は、スピードを出して移動することで脈拍や血圧が上がるなど神経が高ぶり、より感情的になりやすい。これを心理学では、『覚醒水準が高い状態』と言い、この状態で、ほかの車が割り込んできたり、進路を邪魔されたりすると怒りの感情が出やすくなる」と指摘します。
また、高速道路の場面に限らず、走行中は、ほかの車と意思疎通を図るのが難しいため、威嚇されたなどと誤解しやすくなると言います。例えば、軽く注意を促すつもりでパッシングされたとしても、「挑発された」などと感じたり、前の車が無意識に車線変更してきた時に「邪魔をされた」と思ったりするというのです。
そのうえで松浦教授は、「もともと運転中は自分の部屋にいるような錯覚に陥りやすく、好きなようにふるまうことができると思いやすくなる。こうした状況の中でほかの車から自分の意図に反する行動をとられると、攻撃的な意図がなくても、被害を受けたという錯覚が生まれ、そのことが怒りを増幅させることになる」と指摘します。
また、怒りを抑える方法について、松浦教授は「ほかの車の運転でいらだつこともあると思うが、怒りを行動に移すのはもっとも避けるべきことだ。怒りが高まった時は、自分の感情を言葉にしてはき出して怒りを静めることが望ましい」と話しています。
そして、トラブルに巻き込まれそうになった時にとるべき行動については、「危険を感じたらまずは逃げることが大事で、自分の車を路肩に寄せて先に危険な車を行かせるなどして接触を避けるようにしてほしい。それができない場合には車の外に出ずに、車内で警察などに連絡するべきだ」と指摘します。