今回は、政治と選挙制度を考える上で読んでおきたい、おすすめの政治本を紹介していきます。
今週の日曜日(10/22)に第48回衆議院議員総選挙があります。
一人一人の政治参加は、民主主義を維持する上で必要不可欠なものです。
政治は確実に私達の生活を変えます。様々な矛盾はあるし、怒りや苛立ちや絶望を感じてしまう人もいるかもしれません。しかし、冷笑的になることは何も生み出しません。原理的には、私達の一票一票が確実に今の社会を形作っているのです。
池上彰の解説をテレビで聞くのもいいかもしれませんが、ある程度ちゃんとした見識のある人によって書かれたものに触れることで、本当に自分の頭で考えることができるようになるのです。
政治や選挙を考えるために読みたいおすすめの本をまとめてみたので、ぜひ参考にしてください!
日本の選挙―何を変えれば政治が変わるのか
- 作者: 加藤秀治郎
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2003/03/01
- メディア: 新書
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著者 | 加藤秀治郎 |
出版社 | 岩波書店 |
価格 | 約800円 |
とるに足りない些末な問題と見られがちな選挙制度だが、政治全般に及ぼす影響力は決して小さくない。「選挙制度が適切なら何もかもうまくいく」という哲学者オルテガの言をまつまでもなく、選挙は民主主義をいかなる形態にも変えうる力を秘めている。小選挙区制や比例代表制の思想的バックボーンをわかりやすく紹介し、「選挙制度のデパート」と揶揄される無原則な日本の現行システムを改善するための道筋を示す。
「選挙制度」について、誰にでもわかりやすく、一方で専門性をあまり損なわずに誠実に書かれた良書です。
選挙のやり方や集計方法は、民主主義の根幹というよりはあくまで「技術的な部分」なのですが、選挙の健全さはそこに大きく左右されます。
日本の民主政治は、基本的には「小選挙区・比例代表並立制」の選挙によって運営されています。このような選挙制度に対して、疑問や不満を持つ人は少なくないでしょう。
ただ、「小選挙区制」は一つの政党が大勝しやすく政権が安定しやすいが死票が多い、「比例代表」は死票が少ないが小党分立で政治がまとまらない、などそれぞれにメリットもあればデメリットもあります。
著者は、大統領制、二院制、立候補システムなど、様々な選挙制度を、国際的な様々な事例を取り上げながら、わかりやすく整理・解説していきます。
日本の選挙制度は行き当たりばったりで理念が無いと言われていますが、投票の仕方によって結果が大きく変わってくる以上、政治を考える上で「選挙制度」は絶対に無視できません。
一番重要なのが「理念」であることは確かなのですが、その是非を問う方法である「選挙制度」を蔑ろにすることはできないのです。
本書には、「選挙」や「投票」を考える上で不可欠な知識が詰まっています。堅実な内容でありながら、一般の人にわかりやすいよう丁寧に書かれているのが素晴らしいです。
多数決を疑う 社会的選択理論とは何か
- 作者: 坂井豊貴
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2015/04/22
- メディア: 新書
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著者 | 坂井豊貴 |
出版社 | 岩波書店 |
価格 | 約800円 |
選挙の正統性が保たれないとき,統治の根幹が揺らぎはじめる.選挙制度の欠陥と綻びが露呈する現在の日本.多数決は本当に国民の意思を適切に反映しているのか? 本書では社会的選択理論の視点から,人びとの意思をよりよく集約できる選び方について考える.多数決に代わるルールは,果たしてあるのだろうか.
民主主義の選挙は、一人一票を投票する、多数決の形式で行われます。中学や高校の学級委員会で代表を決めるときなども、選挙の練習のようにして多数決を採りますよね。
みなさんはそのような「多数決」を疑ったことはありますか? 「全体の意見」とか「民意」といったものを集約する上で、本当に多数決がベストな方法なのか疑問に思ったことのある人は多いのではないかと思われます。
本書は、「多数決」というものが、集計のルール次第で大幅に結果が変わってしまうものであることを示します。どういう多数決の方法を採用するかによって、誰が当選するかが変わってしまう場合があるのです。
一人一票の多数決以外にも、「1位に3点、2位に2点、3位に1点」のように点を振り分けて票割れを防ぐ「ボルダルール」といった投票方法もあり、実際にそれで選挙が行われる国もあります。他にも「ペア勝者ルール」など、民意を集約する様々な方法と、その利点と欠点を述べていきます。
日本の代表民主制は、まったくダメな制度というわけではないけど、無視できない欠陥を抱えてもいるのです。
高校生くらいでも読めるように読みやすく書かれた本ですが、数学的に厳密に記述されていてで、ある程度勉強している人にとっても読んで損する内容では決して無いでしょう。
代議制民主主義 - 「民意」と「政治家」を問い直す
代議制民主主義 - 「民意」と「政治家」を問い直す (中公新書)
- 作者: 待鳥聡史
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2015/11/21
- メディア: 新書
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著者 | 待鳥聡史 |
出版社 | 中央公論新社 |
価格 | 約900円 |
有権者が選挙を通じて政治家を選び、政治家が政策決定を行う。
これが代議制民主主義の仕組みである。
議会の発展、大統領制と議院内閣制の確立、選挙権の拡大を経て定着したこのシステムは、
第二次世界大戦後に黄金期を迎えた。
しかし、経済成長の鈍化やグローバル化の影響を受け、今や世界各国で機能不全に陥っている。
代議制民主主義はもはや過去の政治制度なのか。
民意と政治家の緊張関係から、その本質を問い直す。
今の日本は、「代議制民主主義」というやり方を採用しています。
民主主義を提案したルソーが想定していたものと、現在の代議制民主主義はかけ離れています。
現在の政治においても最も重要なコンセプトである「民主主義」が、一体どのような歴史的変遷を経て、現在のような「代議制民主主義」へと変わっていったのかを、国際比較も踏まえながら詳細に説明しています。
同時期の様々な国の成り行きを比較しながら綴られていくので、多面的な視点が身につき、政治制度についての教養は確実に磨かれるでしょう。
丁寧に事実を整理しながらも、民主主義に自由主義的なものが結合する形で代議制民主主義が生まれたという視点が提示されているのもとても面白いです。
「民主主義」とは、「民意」とは、「政治家」とは何か……なんとなく概念として捉えているものを、原点に遡って理解し整理しておくことには意味があります。
現在の政治制度の根本的なところを、腑に落ちる形で理解している人は少数派でしょう。政治についてしっかり理解して考えたい人は、読んでおくべき一冊だと思います。
人々の声が響き合うとき : 熟議空間と民主主義
- 作者: ジェイムズ・S.フィシュキン,曽根泰教,James S. Fishkin,岩木貴子
- 出版社/メーカー: 早川書房
- 発売日: 2011/04/21
- メディア: 単行本
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著者 | ジェイムズ・S. フィシュキン |
出版社 | 早川書房 |
価格 | 約2,800円 |
「合理的無知」「説得産業による印象操作」に支配された現行の世論調査では真の民意は諮れない。本書は、熟議にもとづく民主主義理論を展開し、また熟議の質を高める条件を提起する。著者は世論調査と熟議に基づく討論フォーラムを結びつけた「討論型世論調査=DP」のシステムを考案。アメリカ、EU、中国を含む世界の15以上の国・地域で、40回以上の実証実験をおこなった。理論と実践が結びついたDPの実際をあますところなく紹介する一冊。
名著ですね。タイトルも素敵です。「討論型民主主義(デリバティブ・ポール)」を学ぶためにまず読む本です。
熟議の上での政策決定と、一般市民の政治参加は、両立しないところがあります。
「ちゃんと勉強しないやつが政治を語るな!」と言いつつも「全員が責任を持って政治に参加しろ」というのは、現実的に考えて無理があるということです。
そのために民主主義は愚衆政治に陥ってしまいがちです。そうならない「熟議型民主主義」のために具体的な方法として「討論型世論調査=DP」が注目されていて、実例を示しながらその是非を論じているのが本書です。
著者は熟議型民主主義の権威で、様々な国で実証実験を行い、その結果を本書にまとめています。
「とりあえず投票率を上げれば良い選挙になる」というわけではなく、例えば義務投票制を採用しているオーストラリアの実験でも、強制されたからといって投票者の政治関与や知識が向上するわけではないのです。
どこかで「熟慮」が担保されていなければ、民主主義が壊滅的な失敗を国民にもたらしてしまう可能性もあります。
ようは「政治参加の質を上げるためにはどうすればいいのか」という話で、日本では熟議型民主主義はあまり注目されているとは言い難いですが、だからこそ新鮮な視点が得られるのではないかと思います。
ちなみに、『重力波は歌う』で物理学賞、『行動経済学の逆襲』で経済学賞、カズオ・イシグロの主著の翻訳で文学賞と、ノーベル賞3冠を達成して注目を浴びた早川書房が出版しています。流石にお目が高いですね。
自民党―「一強」の実像
- 作者: 中北浩爾
- 出版社/メーカー: 中央公論新社
- 発売日: 2017/04/19
- メディア: 新書
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著者 | 中北浩爾 |
出版社 | 中央公論新社 |
価格 | 約950円 |
民党は結党以来38年間にわたり政権を担い、2度「下野」したが、2012年に政権に復帰。一強状態にある。その間、自民党は大きな変貌を遂げた。本書は、関係者へのインタビューや数量的なデータなどを駆使し、派閥、総裁選挙、ポスト配分、政策決定プロセス、国政選挙、友好団体、地方組織、個人後援会、理念といった多様な視角から、包括的に分析。政権復帰後の自民党の特異な強さと脆さを徹底的に明らかにする。
民主党政権が解散してから、自民党一強の時代が続いています。
ここ40年ほど、日本政治の舵取りのほとんどを担ってきたのが「自民党」であり、それはこれからも変わらないかもしれません。
そんな自民党の実像を、綿密に分析し、徹底的に解明しようとしているのが本書で、「自民党スゲー本」とは違ってちゃんとした仕事をしています。
やはり自民党は日本らしい政党といった感じがします。思想や信条による集まりではなく、なんとなく政権をとるために集まっている集団なのです。それ故の強さがあって、日本企業の強みなんかにも似ていますね。悪く言えば理念や専門性が無く、良く言えば柔軟なのです。
近年の政治の大部分を担ってきた自民党の政治を辿ることは、そのまま日本の政治を考えることにも繋がります。
自民党を支持する人にとってもしない人にとっても、本書の内容は為になると思います。
社会契約論
- 作者: J.J.ルソー,桑原武夫,前川貞次郎
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 1954/12/25
- メディア: 文庫
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著者 | J.J.ルソー |
出版社 | 岩波書店 |
価格 | 約840円 |
これはもっとも徹底的な人民主権論を説いた書物である。国家は個々人が互いに結合して、自由と平等を最大限に確保するために契約することによって成立する。ルソー(1712‐78)はこの立場から既成の国家観をくつがえし、革命的な民主主義の思想を提示した。フランス革命の導火線となった近代デモクラシーの先駆的宣言の書。
近代のデモクラシーを生み出した古典です。高校の公民の教科書を始め、様々な本で引用されていますが、一度原文を読んでみると面白いと思いますよ。
人によって様々な解釈がされる本なのですが、マルクスの『資本論』やマックス・ヴェーバーの『プロ倫』などの古典に比べて、ずっと読みやすいです。
岩波文庫のほうは翻訳も素晴らしいですね。
今の民主主義はルソーが主張した民主主義とは全然違うものに思えますけど、原点はここにあります。
ルソーが示した民主主義は、抽象的というか理想的というか、目指すべきイデアのようなものなのです。
「真の民主政はかつて存在したことはなかったし、これからも決して存在しないだろう」とルソー自身が言っちゃってるくらいですからね。
政治学の名著30
- 作者: 佐々木毅
- 出版社/メーカー: 筑摩書房
- 発売日: 2007/04/01
- メディア: 新書
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著者 | 佐々木毅 |
出版社 | 筑摩書房 |
価格 | 約840円 |
人間が集団の中で生活することのあり方や異なる集団同士のもつれ合いと闘争…。そこには一定の解はなく、その都度の考察を必要とする。政治学の名著が扱ってきたのはまさにそのことに他ならず、現実がますます混迷を深めているいまだからこそ、それらを繙くことは千鈞の重みを持つにちがいない。厳選された三〇冊の世界へ政治学の第一人者が案内する。
分野に精通した著者が、数ある古典の中から「政治学の名著」を30冊選び、紹介するといった企画になっています。
私は「ちくま新書」の『名著シリーズ』が大好きなのですが、「政治学」は特にクオリティが高いと思います。
東大総長も務めた、政治思想史研究の第一人者が担当しています。
要約というわけでもないのですが、だいたいどんな本なのかわかるので純粋に一つ一つが面白いし、全体を通して読めば政治思想の変遷みたいなものもなんとなく掴めてきます。
本物の大教授が作った"あんちょこ"みたいな感じで、「知性」ってやつを感じられるすごい書籍です。
とりあえず有名な本に体当たりしてみるのもいいですが、本書で「政治学」を概観してから、気になる本に挑戦してみるという勉強の仕方が良いと思います。
本の紹介は以上になります。
せっかくの選挙なのですから、「自分で考え抜いた上で投票する」という楽しさを求めたいですよね。
政治家は投票率を気にするので、選挙に行かなければ自分たちの世代はますます蔑ろにされてしまいます。若い人ほど投票に行くべきなのです。
せっかくの日曜日ですが、面倒くさがらずに選挙には行きましょうね!