左派・リベラル派候補がアピールすべき要点

今回の選挙では、日本の左派・リベラル派が、安倍自民党と小池新党の改憲・復古主義勢力の前に消滅同然に陥るか、それとも、暮らしの苦しみや不安を抱く多くの普通のひとびとのエネルギーを集めて大きく躍進するかの岐路に立っていると思います。それはひとえに、これらのひとびとの望みに答える経済政策を打ち出せるかどうかにかかっています。

 

私は今回、民進党が解体していく情勢の中で、「ひとびとの経済政策研究会」で経済政策のマニフェスト案を作り、まだ草稿の段階からあちこちツテを尽くして参考にしてもらえるように働きかけました。それがどのくらい伝わったのかはわかりませんが、もう公示もなされた今となっては、今さらこれ以上各党の掲げる経済政策を左右しようとしても無理でしょう。

 

ですから、せめて個々の候補者のみなさん、特に、政党に所属せずに、左派・リベラル系の野党統一候補などとして闘っているみなさんにお願いします。本稿にお示しするものの中に、今からでも採用していただける政策主張があるならば、ぜひ採用してください。私たちのマニフェスト案の中から、特に重要なものを取り出して、この場を借りて説明させていただきます。各陣営で活動をされているみなさんも、もしご賛同いただける項目がありましたら、ぜひ選挙公約・選挙戦術として採用するようお働きかけいただけますようお願い申し上げます。

 

 

「消費税を上げたら不況になります!」

 

まず、安倍首相が消費税の10%引き上げを打ち出していることは、明らかに敵失ですので、相手の一番のウィークポイントとして最大限とりあげる必要があります。

 

これまでなぜ安倍自民党が圧勝を続けたのか。なぜ野党が負け続けたのか。その理由は、多くの有権者、特にやっと職にありつけた若者が、安倍政権になってからの経済状況のいくぶんかの改善に安堵し、野党が勝ったらまたリストラや就職難が吹き荒れる不況時代に戻るのではないかと不安に思っていたからです。

 

これが見事に攻守逆転するわけです。チラシに、ポスターに、「消費税を10%に上げて、不況時代が戻ってきてもいいのですか」と大書きしましょう。「消費税が上がるとまたリストラの時代がきますよ」と駅前で繰り返しましょう。大学のキャンパスの前に街宣車をつけて「消費税が上がると就職ができなくなりますよ」と叫びましょう。

 

これまで安倍さん側の武器だった言い方が、そっくりこっち側の武器として使えるのです。実に痛快極まりないことです。ガンガンやれば必ず勝てます! これで、秘密保護法や共謀罪法を進め、マスコミを統制し、言いたいことも言えない世の中を作り、一部の日本会議系極右仲間だけで国を私物化しようとする企みが阻止できるのです。手を緩めてはいけません!

 

先方は消費税増税の悪影響がオリンピック特需で相殺されることを計算に入れていると思います。しかしそれは地方には及びません。ただ消費税の悪影響だけを受けます。地方のみなさんは、「ふざけるな! 地方はまだ不況だ。五輪は遠いぞ。」と消費税批判するべきです。

 

また、世界経済を見渡すと、中国はバブル崩壊するのではないかとか、トランプ通商政策は大丈夫なのかとか、北朝鮮がミサイルを撃ってまた円高になるかもしれないとか、景気に水を差すような不安要因がいっぱいです。こんな中で消費税を上げて、はたして大丈夫なのでしょうか。その不安感に訴えたら、安倍自民党の支持はかなり崩せるのではないかと思います。

 

安倍首相は、今度の増税分は教育無償化に使うと言っています。しかし、消費税引き上げで景気が挫折したら、せっかく低下した子どもの貧困率も元に戻り、結婚や出産をあきらめる人も増え、家計を支えるために進学をあきらめる青少年も増え、何のための教育無償化かわからなくなるぞと言いましょう。

 

もし可能ならば、消費税の5%への引き下げを主張することが効果的です。自民党が消費税を引き上げると言い、野党がみんな「上げません」とだけ言っている中では、「引き下げる」と言えば一気に票が集まります。「5%に下げて好況間違いなし!」とスローガンに掲げたらいいと思います。

 

 

「リストラも就職難もない時代を確実にします!」

 

長期不況と新自由主義に苦しめられてきたたくさんの人々を安心させ、グッと心を掴むために次に掲げるべきことは、「もう二度と不況時代には戻さない」という言葉です。福祉や医療や教育や子育て支援など、普通の人々の暮らしをよくするために思い切っておカネをかけて、たくさんの雇用を作り出すことを公約してください。「財政・金融・分配政策を総動員して、リストラも就職難もない時代を確実にします!」と力強く約束するのです。それが、人々が、とりわけ若者が今一番聞きたい言葉です。

 

もちろん、景気は循環するものですから、良くなった景気もまた悪くなることはあるとはみんな思っているでしょう。世界でまた経済危機が起こった時、日本だけ無縁でいられるわけはありません。でも、そんなときにも大丈夫だという安心が必要です。「万一景気が後退しても、直ちに大規模な景気対策を打ち、あの長期不況時代が再現されることは絶対にないようにします」と、一番目立つところに堂々と書いておきましょう。

 

このかん、中国の株の暴落や、ブレグジット投票などで世界経済が荒れるたびに、日本では株価が下がり、景気に黄色信号が灯りました。そのとき、野党はいつも「アベノミクス破綻」と煽っていたものですが、煽れば煽るほど、危機感を覚えた有権者は自民党に入れていたのです。それは、世界経済がこんな大変なときに野党に任せられないという気持ちが働いたからです。そんなふうに思わせないよう、我々こそが、そんな危機の時に雇用と暮らしを守ることができるのだと信頼してもらう必要があります。

 

特に、リーマンショックのときの円高放置でひどい目にあった下請け関係の人たちや、円高時代にしぶしぶ海外移転を余儀なくされた業者や、それで雇用を失った人々がたくさんいます。「景気がよくない時に円高が進んだら、躊躇なく為替介入して円高を抑えます」と言って安心してもらいましょう。工場町でそう訴えて、安倍内閣は、中国の株暴落やブレグジット投票のあとの円高進行に、何も手を打たなかったじゃないかと攻撃しましょう。

 

 

「ユリノミクスで小泉政権初期の経済が戻ってきます!」

 

小池百合子さんたちの「ユリノミクス」は、歳出削減を掲げています。景気拡大効果は政府支出の規模で決まります。支出規模を増やさなければそれは決して景気対策とはなりません。

 

安倍さんはいまだにプライマリーバランスにこだわっていることが叩きどころなのに、小池さんのブレーン(安東泰志さん)は、逆に安倍さんがプライマリーバランス実現を先送りしたことを批判しています。しかし、プライマリーバランスは世界的には財政健全化の指標とはみなされていません。財政健全化の国際標準指標は債務残高の対GDP比です。まだ十分景気がよくなっていないのに、プライマリーバランスの黒字化を目指す(こちら)なんて、とても重い負担を経済にかけることを唱えています。

 

しかも小池さんのブレーンは、これまで円売り介入をして買ってきた外債の含み益を利用することを唱えています(こちら)。これは外貨を円に換えることですから、円高に向けた圧力をかけることになります。また景気の足が引っ張られてしまいます。

 

小池さんたちの一番の叩きどころは、やっぱり小泉さんゆずりの緊縮新自由主義者だということです。緊縮ではとうてい景気はよくなりません。小泉さんはまだ金融緩和には頼りましたが、小池さんたちは「金融政策に過度に依存せず」と報道されています(こちら)。それで、いわゆる成長戦略ばかり唱えていますが、これは生産能力を拡大する政策ですので、総需要が増えなければ現実の成長はもたらされません。かえって人手が要らなくなって失業が増えます。

 

特に、小池さんたちの公約は、「アベノミクスは、民間活力を引き出す規制改革が不十分でした」として、規制緩和を安倍内閣よりも熱心に唱えています。まだ景気が十分熱していないときに規制緩和をして競争を激しくすると、値崩れして倒産や失業が増える一方、人々が値下がりで浮いた所得を支出にまわすことはしないので、デフレがひどくなります。

 

一言で言えば、小池さんたちが唱えていることは、まだ量的金融緩和が本格的でなかった小泉政権初期の、財政削減、規制緩和政策をまたやろうということです。あのとき日本経済はどうなりましたか。失業急増、正社員大幅削減、就職氷河期、年間3万人の自殺者…。小池さんと小泉さんが手をとって並んだ写真を掲げ、「あの時代を思い出して下さい」「また就職氷河期がきてもいいのですか」とガンガン宣伝してください。「希望の党」は若者ほど支持率が低いです(こちら)。この傾向をさらに徹底させ、他の世代にも広げましょう。【次ページにつづく】

 

 

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