(英フィナンシャル・タイムズ紙 2017年10月13日付)
米ニューヨークで、ドナルド・トランプ米大統領のお面をかぶって街を練り歩く人たち。(c)AFP/TIMOTHY A. CLARY〔AFPBB News〕
ちょっと想像してみてほしい。鏡をのぞき込むと、そこには自分ではなくドナルド・トランプ氏の顔が映っている。
あなたが顔を歪めれば、鏡の中のトランプ氏も同時に顔を歪める。あなたがにっこりすればトランプ氏もにっこりし、あなたがしかめ面をすればトランプ氏もしかめ面をする。米国大統領の表情をリアルタイムでコントロールしているのだ。
「フェース2フェース」という技術を使えば、こんな不気味なことができるようになる。米カリフォルニア州のスタンフォード大学で研究者らが開発した、自分の顔の動きを動画に映っている他人の顔に移し替える技術だ。
次は、この「顔面再演」の技術と、トランプ大統領が過去に公の場で語ったことを巧みに編集した音声ファイルとを合体させると、どんなことになるか想像してみてほしい。
ずばり、トランプ氏が北朝鮮に核戦争を布告する、説得力のある動画を合成することが可能になる。
熱に侵されたような今の環境で、そんな動画が表に出れば、ホワイトハウスが慌てて否定しても間に合わないほどのスピードで、あっという間に拡散するかもしれない。
まさに究極の偽ニュースが流布してしまうシナリオだが、あり得ない話ではない。
科学者たちはすでに、ユーチューブに上がっているジョージ・H・W・ブッシュ元大統領、バラク・オバマ前大統領、そしてロシアのウラジーミル・プーチン大統領の動画を作り変えることにより、この偽ニュースとはどんなものかを教えてくれている。
米国防高等研究計画庁局(DARPA)は、「MediFor(メディフォー、「メディア犯罪学(Media Forensics)」の略称)」と呼ばれる研究プロフラムを発足させた。
同局によれば、このプログラムでは「情報を操作する側が優位に立っている現状」を正すことを目指している。動画を偽造する目的がプロパガンダや誤った情報の流布にある場合、この邪悪な優位性は国家安全保障上の懸念になるからだ。