「金正恩はベッドの上で死にたいと願っている」
3 Lines Summary
- ・彼は「とても合理的」(very rational)
- ・「真っ向から戦う気などない」(no interest in going toe to toe)
- ・中国の本心は「分断維持」(to maintain a permanent division of the Korean peninsula)
確実に負ける戦いに挑む指導者はいない
さもありなん…というのが正直な感想であった。
今月初めにワシントンで開催されたシンポジウムで、アメリカの北朝鮮問題の専門家達の口から飛び出した発言の数々は、きわめて合理的(very rational )で、筆者がこれまでの取材で接してきた多くの専門家の見方と同じであった。
だからと言って誤解しないで欲しいのだが、朝鮮半島で戦争は起きないと断言するつもりは毛頭無い。誤算は常にあり得る。
だが、良く考えて欲しい。
確実に自分の命を失う負ける戦いに、そうなることを知りながら突き進む政治指導者はいないのである。
以前にも書いたが、だからこそ北朝鮮が「勝てるかもしれない」あるいは「悪くても引き分けに持ち込めるかもしれない」と勘違いするのが一番危険なのである。様々な圧力を掛け続けることの意味はここにある。
「戦争が起きることを最も望んでいないのは金正恩だ」
このシンポジウムは、ジョージ・ワシントン大学とCIAが事実上共催したもので、当日は、ポンペオCIA長官の基調講演に続き、北東アジア専門家達によるパネル・ディスカッションも行われた。
「金正恩は正気ではないという見方があるがどう思うか?」という司会者からの問いに対し、参加した専門家の一人、CIAの“朝鮮ミッション・センター”のヨン・スク・リー氏は次のように応えた。
「彼は正気でとても合理的( very rational )な人間だ。朝鮮半島で戦争が起きることを最も望んでいないのは金正恩氏だ。」「彼が望んでいるのは、シリアのアサド大統領ら他の独裁者が望んでいるのと同じように、(自分の国を)長く支配・統治し続け、自分のベッドの上で静かに死ぬことだ。( to die peacefully in his own bed )」「アメリカ軍と韓国軍の統合軍と真っ向から戦う気など無い。( no interest in going toe to toe )」「彼らの長期的目標は、アメリカから何らかの合意を取り付け、在韓米軍を撤収させることだ。」
もちろん、“目的は在韓米軍の撤収“という部分を除き、
金正恩氏や北朝鮮政府が「リー氏の見解は正しい。」と認めることは無いだろうし、彼らの本心がどこにあるかを他人が証明することはできない。
しかし、さもありなんと膝を打つところがあった。
「北朝鮮は自殺行為はしない」
万が一戦争になったら、北朝鮮は万に一つも勝てないし、金正恩氏や指導者層はただでは済まない。全面戦争になれば、北朝鮮のミサイルや長距離砲で韓国を中心に数十万人とも推定される膨大な犠牲者が出る恐れがあるというのがアメリカ側の試算で、これは多分正しい試算だろうが、北朝鮮が勝つというシミュレーション結果は(幸い)存在しない。
核・ミサイル開発は、北朝鮮にとってアメリカからの侵攻を抑止するためであって、彼らの激しいレトリックとは裏腹に、基本的に先制攻撃の為では無い。
リー氏も「予想外の(対米先制)攻撃は…彼と彼の政権の存続にとって利益にならない。…北朝鮮がアメリカを威嚇するのは、手を出すな!という意味だと思う。」と述べている。
同席した、ブッシュ政権下のアメリカの六者協議代表・デトラニ氏も「北朝鮮は(核を)使用すると思うか?」との問いに「ノー。彼らは自殺行為をしない。」「彼らは、核さえ持てば自分達に手を出す者はいなくなると考えているのだ。」と断言している。
アメリカと韓国は、このところ頻繁に合同軍事演習を行っているが、こちらも北朝鮮に対し一義的には「手を出したらただでは済まないぞ!」と警告を与えるという効果が期待されるからだろうと思われる。
このシンポジウムでは、北朝鮮に関して極めて重要なプレイヤーのひとり、中国の対応・役割についても主要なテーマとなった。
リー氏は、実に冷徹な見方を示したのだが、あいにく紙数が尽きかけている。
続きは次回お伝えしたい。
ちなみに、この稿で取りあげているシンポジウムは
https://www.c-span.org/video/?435116-2/national-security-conference-pompeo-keynote-panel-north-korea-china
でご覧いただける。英語のみだが、ご興味のある方は是非。