有権者ではない日本社会の一員「外国人」のこと、どう見てる?-2017衆院選外国人関連公約・政策比較

各政党は、選挙権のない外国人についてどう扱っているのだろうか(写真:つのだよしお/アフロ)

2017年衆院選、各政党のマニフェストが出揃いました。憲法や消費税、安全保障など、大きな争点の影で日の当たりづらい分野や課題について、それぞれの党がどのような公約を掲げているのか、少しずつ様々な領域の専門家からのまとめが出始めています。

(Yahoo!ニュース個人では、カジノ専門研究者である木曽崇氏が「2017衆院選公約:観光施策比較」を記事として公開されています)

筆者も自身の専門領域である、日本に暮らす外国人の方々について各政党が、公約・政策の中でどのように扱っているのか、あるいは扱っていないのかについてをまとめました。現時点では、この先も選挙権を持つことのない、しかし238万人を超える”サイレント・マイノリティ”(声なき少数者)である外国籍の方々に対する視点は、各党の立場がよく表れ興味深い内容となっています。

有権者のみなさんにとって、一票を投じる際の参考になればと願っています。

*今回参照・引用した各党マニフェストURLは最下部にリンクをまとめています。以下、各項目で囲み部分はマニフェストからの引用です。

各政党マニフェスト内に、外国人関係のキーワードが登場し、言及があったかを表した
各政党マニフェスト内に、外国人関係のキーワードが登場し、言及があったかを表した

外国人労働者についての言及

【自由民主党】

・労働力人口が減少し、現行制度でも外国人労働者の大幅な増加が見込まれる中で、日本人だけでは労働力が不足し社会に深刻な悪影響が生じる分野について、外国人労働者が適切に働ける制度を整備します。

・わが国で生活する優秀な外国人材が、日本への帰化を希望する場合には、その許否について速やかに判断を行う取組を推進していきます。

【公明党】

・大学など高等教育機関について、グローバル化、地域再生・活性化への対応、イノベーション創出機能の強化、女性・若手・外国人研究者の活用拡大等に向けた改革を推進します。

【希望の党】

・地域社会の持続性を確保し、中小企業の人手不足を解消するため、国と職種を限定して外国人労働者の受入れを拡大する。

【共産党】

・日本共産党は、外国人労働者が、憲法と労働基準法をはじめとした労働法に認められた労働者としての権利が保障され、人間らしい営みができるよう労働条件を改善することを求めます。

・子どもの生活のためにも、外国人の賃金未払いや劣悪な労働条件の改善、福祉・医療を受けやすくするとともに、地域での共生をすすめます。(*外国人の子どもへの教育条件の整備についての項目の中で言及)

自民党と希望の党が「人手不足解消のための受け入れ拡大」を明示し、さらに自民党と公明党は「優秀な外国人材」等、いわゆる高度人材獲得推進の方向性を明らかにしています。一方で、共産党はすでに日本国内に暮らしている外国人労働者の直面する課題を取り上げ、その改善を訴えています。

外国人の子ども・日本語教育についての言及

【公明党】

・日本語能力が十分でない子ども等に対し、日本語指導や学校生活への適応、各教科等の学習や進路の相談、保護者との連絡・意思疎通なども含め、公立小中学校での受け入れ体制や教育委員会等による支援体制を強化します。

【共産党】

・日本に居住する外国人登録者は200万人を超え、新たに結婚する20組のうち1組は外国籍の人との結婚といわれています。内外人平等を保障した国際人権規約、子どもの権利条約にもとづき、公立学校への受け入れ体制の整備、外国人学校への支援、日本語教室設置、公立高校への入学資格の改善など在日外国人の子どもの教育を保障します。子どもの生活のためにも、外国人の賃金未払いや劣悪な労働条件の改善、福祉・医療を受けやすくするとともに、地域での共生をすすめます。(*後半の労働環境への言及は再掲部分)

・夜間中学は、戦争の混乱や経済的な理由により教育を受けられなかった多くの人、不登校の子ども、障がい者、中国帰国者・在日外国人らにとってかけがえのない義務教育の場となっています。ところが全国にわずか31校しかありません。16年12月に成立した教育機会確保法を生かし、全県での協議会設置と夜間中学開設を急ぎます。また、就学援助の年齢撤廃、夜間中学の教員配置と研修保障、バリアフリー化、自主夜間中学への公的支援の実施をすすめます。

【社民党】

・高校授業料は私立高校も含め直ちに無償化します。外国人学校等にも差別なく適用します。

公明党、共産党共に外国人の子どもの課題をよく把握していると言った印象です。公明党は「日本語能力が十分でない子ども」と表現することで、共産党は「外国籍の人との結婚」を冒頭に出すことで、日本国籍を持つ外国ルーツの子どもの存在を含めた言及となっています。共産党は子どもの課題の一部として、外国人の親(外国人労働者)の労働条件の悪さなどについても記載しています。

外国人技能実習生についての言及

【共産党】

・外国人技能実習制度―安易な受け入れ拡大に反対し、制度の廃止を含めた根本からの見直しを求めます

 ――低賃金と劣悪な労働条件を広げる、外国人研修制度の固定化・拡大に反対します。

 ――深刻な人権侵害を生み出しつづけ、低賃金・単純労働の受け入れという構造的矛盾を抱える現行制度は、廃止を含めて根本から見直しすることを求めます。

様々な問題が指摘されている外国人技能実習制度については、共産党のみが言及しています。技能実習生が多く働いている産業(農業など)における担い手不足については、ほとんどの政党が取り上げていますが、その文脈において技能実習生制度について語られることはありませんでした。(共産党は各分野別政策65項目の内の1つ「在日外国人」の枠組みの中に、具体的な現状や制度上の課題についても記載)

難民についての言及

【公明党】

・急増する難民申請者問題に対応するため難民認定制度を適正化するとともに、認定難民及び人道的配慮等で保護された外国人への日本語支援等、公的支援を強化します。

【共産党】

・難民認定者には、国際救援センターで日本語教育、社会生活への適応のための指導、就職あっせんなどの定住支援が6カ月間実施されます。退所後も、生活面でのアフターケアなどを改善する必要があります。

 ――「難民」の定義を極端に狭くしている認定を改善します。

 ――入管行政と難民審査行政が一体となっているような難民審査体制の改正を含めた法制度の整備を急ぎます。

 ――難民申請者の生活保障と難民認定者への支援を拡充します。

【社民党】

・迫害をのがれ、支援を必要とする難民を、温かく迎える社会をつくります。難民認定のあり方を見直すとともに、自立した生活を安心して送れるよう難民支援を強化します。

上記3政党共に、国内における難民認定制度の改善、見直しと支援の拡充を訴える中、共産党は難民発生の根本原因を一掃するために日本の貢献と外交的役割、シリアやアフガン難民などが滞在する周辺国への支援強化についても言及がありました(ここには記載していません)。

ヘイトスピーチについての言及

【公明党】

・ヘイトスピーチなど、本邦の域外にある国または地域の出身であることを理由として行われる不当な差別的言動を解消するため、人権教育及び人権啓発等の取り組みを強化します。

【希望の党】

・LGBTの差別禁止法の制定、ヘイトスピーチを含む人種など差別基本法の制定、DV防止法・ストーカー規制法の強化などに取り組む。

【共産党】

・日本共産党は、ヘイトスピーチを一掃するためにも、政権与党幹部ら一部政治家が極右勢力や反動勢力との関係を反省し、きっぱりと関係を断ち切ることを求めます。また、日本政府に対し、憲法と人種差別撤廃条約の精神にのっとって、ヘイトスピーチの根絶へ、真剣な努力を行うことを求めます。

【社民党】

・差別や敵意を煽る「ヘイトスピーチ」の根絶に向けて全力で取り組みます。

上記4政党の他、立憲民主党マニフェスト内において多様性は強さである、とした上で「あらゆる差別に反対し、社会の分断を許しません」との記載があり、人種差別を含むものと見られますが、「ヘイトスピーチ」という単語を使用しておらず、具体的な言及がなかったためここからは外してあります。

国籍/人種/民族ついての言及

【希望の党】

・性別、性的志向、年齢、人種、障害の有無等に関わらず、すべての人が輝ける社会を目指します。

【立憲民主党】

・人種や性などによる違いを尊重し、社会を彩る多様性こそが、その社会を豊かで、活力あるものにするのです。多様性は、強さです。あらゆる差別に反対し、社会の分断を許しません。LGBT差別解消、選択的夫婦別姓やクオータ制の実現などよによって、互いに支え合う、社会的な包摂を実現します。

【日本維新の会】

・国の行政機関の職員に係る二重国籍禁止法案

・公職に係る二重国籍禁止法案(公職選挙法改正法案)

(*維新が提出した「108本法案」維新が政権をとったらすべて実現します!に掲載)

【社民党】

・地方公務員採用の国籍条項を撤廃し、外国人の地方選挙権を実現します。

この項目では日本維新の会が初登場しました。維新では、この「108本法案」に「日系4世の入国容易化法案」との記載もありました。社民党による、外国人の地方選挙権の実現という一文が目立つ一方で、入党条件として外国人参政権反対を盛り込んだ希望の党は、この点についての記述はありませんでした。立憲民主党は直接的に外国人に対する言及は少ないものの「多様性こそが社会の活力の源である」という一文を盛り込んだことに特徴が表れています。

その他

自由民主党は、インバウンドおよび地方創生の文脈において外国人対応のための「多言語音声翻訳の普及」について記載があり、「2020年訪日外国人旅行者数4000万人」受入を公明党と共に掲載しています。外国人旅行者受入体制の推進や整備は、多言語化に結び付くものが多く、定住外国人にとっても一定の恩恵があるものです。

一方、共産党は与党のこれまでの訪日外国人誘致は大企業の利益を優先していると批判。住民、地域、観光客を優先する政策への転換を訴えています。

そしてここまで、一度も登場することのなかった「日本のこころ」のマニフェストにはこんな一文がありましたので、ご紹介します。

【日本のこころ】

・我が党は、日本各地で、国際文化交流の祭典を催し、日本が、世界の文化が輝き、溢れ、交流する場となることを目指す。

各政党マニフェスト参照・引用元一覧

【自由民主党】

 (政策パンフレット)https://jimin.ncss.nifty.com/pdf/pamphlet/20171003_pamphlet.pdf

 (政策BANK)https://jimin.ncss.nifty.com/pdf/pamphlet/20171003_bank.pdf

【公明党】https://www.komei.or.jp/campaign/shuin2017/manifesto/manifesto2017.pdf

【希望の党】https://kibounotou.jp/pdf/policy.pdf

【立憲民主党】http://cdp-japan.jp/teaser/pdf/pamphlet.pdf

【共産党】http://www.jcp.or.jp/web_policy/2017senkyo-seisaku.html

【日本維新の会】https://o-ishin.jp/news/2017/images/34abb701ec249f03d4fb599a6570b24a6c1bc977.pdf

【社民党】http://www5.sdp.or.jp/policy/policy/election/2017/commitment.htm

【日本のこころ】https://nippon-kokoro.jp/news/policies/policy290930.php