エンターテイメントは時間面積の陣取り合戦。
人間一人の持ち時間(1日=24時間)を増やすことはできないので、あとは、24時間×74億人をいかに奪うかの競争です。

加えて、スマートフォンの登場により、衣・食・住・その他全ての商品が同じ棚に並べられるようになり、売り場のアドバンテージは消滅。
努力を怠ればキチンと脱落する、極めて純粋な実力至上主義のステキな時代が幕を開けました。

時間面積の陣取り合戦ですから、当然、恋人からのLINEも、自分の作品のライバルです。
空き時間に"とりあえずLINEを開かれている間"に、
家に帰ったら"とりあえずテレビをつけられている間"に、
自分の作品が検索される時間がどんどん削られていくわけですから。

この戦いに挑むには、(自分の書籍を売ろうと考えている)僕の場合は、本屋さんに足を運んでもらったり、図書館に足を運んでもらったり、Amazonを開いてもらったり…まずは『本』というジャンルにコミットしてもらう時間を増やす必要があります。

『テレビ』よりも、『ラジオ』よりも、『ライブ』よりも、『カラオケ』よりも、『リアル脱出ゲーム』よりも、『LINE』よりも、まずは『本』というジャンルにコミットしてもらう時間を増やして、「とりあえず『本』を選ぶ」が習慣になる人を増やすと、自分の作品を手に取ってもらえる確率がグッと上がります。

『革命のファンファーレ』に書いた「自分の作品の売り上げを上げたければ、ライバル作家の売り上げを上げろ」というやつです。


自分の作品の売り上げを上げるには「本って、おもしれー」と思ってもらい、読者人口(分母)を増やすのが一番です。

そんな中。
文藝春秋社の松井清人社長が全国図書館大会で、図書館での文庫本の貸し出し中止を求める意見を表明されました。
松井社長は、文庫を積極的に貸し出す図書館が増えていることを挙げ、文庫の売り上げ減少に「少なからぬ影響がある。どうか文庫の貸し出しをやめてください」と訴えられました。
実は、2015年の同大会でも、新潮社の佐藤隆信社長が「図書館によるベストセラーの複数購入が出版不況の一因」と主張。

要するに、「無料で読めたら、本が買われなくなるだろ。『本はお金を払って買う』というクセをつけることが大切なんだよ」
といったところです。

 
僕は出版に関してはズブの素人で、憶測で発言できる身分でもありませんので、結果だけでお話しします。

絵本『えんとつ町のプペル』は「貸し出し」どころか、いつでもどこでも未来永劫無料で読める状態にして、さらに売り上げを伸ばし2017年上半期最大のヒットとなりました。

理由は単純、『えんとつ町のプペル』が時間面積を奪ったからです。
今年1月、数百万人が『えんとつ町のプペル』を無料で読みました。
テレビかラジオか、他の何かに使うハズだった時間を、多くの人が『えんとつ町のプペル』に使ったのです。

これにより、「無料で見れたから、『えんとつ町のプペル』は、もう要らないや」という【買わない人】も増えたと思います。しかし同時に、「これは買って、家に置いておこう」という【買う人】も増えました。

分母が増えたので、当然の話ですね。

そして、売り上げとしてカウントされるのは【買う人】の数です。
【買う人】の数を増やすのは簡単で、「買うor買わない」の選択に迫られる人を増やせば…つまり、分母を増やせばいいだけです。

買わない人に費やしたエネルギーは、まったく無駄になるのかというと、そうではなくて、「今、『えんとつ町のプペル』を無料公開してるよー」と口コミをしてくれて、また「買うor買わない」の選択に迫られる人を増やしてくれます。

もちろん、文藝春秋さんも、新潮社さんも、戦略や哲学があってのことですから、お好きにされればいいと思います。

ただ、僕は、
文藝春秋さんや新潮社さんとは考えが違って、図書館や「本の貸し出し」は、書籍の売り上げに圧倒的に貢献してくれていると考えています。
図書館で借りた本の感想をTwitterで呟く人もいれば、ブログで書評を書いて、最後にAmazonの購入ページを添付してくださる方もいます。
図書館の貸し出しは、書籍の売り上げに直結します。

しかし、このままだと「理想論だ!」「綺麗ごとだ!」と言われそうです。

というわけで、

図書館の「貸し出し」が書籍の売り上げに貢献してくれていることを証明する為に、『革命のファンファーレ ~現代のお金と広告~』を全国5500館の図書館に自腹で寄贈することに決めました。
(※対象は、コチラのサイトに掲載されている図書館=全5500館)

配送作業は17日12時から。
18日か19日には届くと思います。

『革命のファンファーレ ~現代のお金と広告~』は一応ベストセラーですので(発売6日で10万部突破)、そこそこ需要はあると思うのですが(偉そうにすみません!)、
ただ、
贈り物は、"贈り手の気持ち"ではなくて、"受け手の事情"が尊重されるべきだと僕は考えておりますので、
必要でなければ、誰かにプレゼントするか、ご返品ください。
返品にかかった費用と、人件費(気持ちばかりですが…)は、後程お支払いします。

僕は書籍の売り上げ減少は図書館のせいではないと考えます。
一部の出版関係者が本ばかりを読んで、時代を読まないことが原因だと。
出版不況でも、誰かのせいでも何でもなくて、サボった結果がキチンと反映されているだけです。


全国の図書館職員の皆様へ。

『革命のファンファーレ ~現代のお金と広告~』はガシガシ貸し出しちゃってください。
必ず売り上げを上げてみせます。
(※自腹分を絶対に取り返すぞコノヤロー!!)

そして、いつも素敵な本をたくさん提供してくださって本当にありがとうございます。
図書館で出会って、手元に置いておきたくて購入した本は、これまでたくさんあります。
子供の頃から、ずっとお世話になりっぱなしです。
恩は必ず返します。

これからも宜しくお願い致します。



西野亮廣


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