栃木県那須町で登山の訓練中の高校生らが雪崩に巻き込まれて8人が死亡した事故で、事故の検証委員会は「訓練を主催した県の高校体育連盟の危機管理意識の欠如が最大の要因だ」と指摘する最終報告をまとめました。

ことし3月、栃木県那須町の茶臼岳で登山の訓練中だった7つの高校の山岳部の生徒らが雪崩に巻き込まれ、生徒ら8人が死亡し、40人がけがをしました。
県の教育委員会が設置した専門家などによる検証委員会は、生徒らへの聞き取りをもとに事故の問題点などを指摘する最終報告書をまとめ、宇田貞夫教育長に提出しました。
それによりますと、7年前の訓練でも雪崩が起き、頭まで雪に埋もれる重大事故だったのに、県の高校体育連盟に報告されず、文書としても引き継がれなかったとしています。
また、悪天候の際の訓練の代替案が事前に準備されず、当日の朝、雪をかき分けて進む内容に訓練を変更した際に、教員や生徒に行動してもよい範囲などが具体的に示されなかったのは問題だとしています。
さらに、訓練内容の変更は、気象データや専門家の助言に基づいたものではなく、危険性の十分な認識を欠いた状態だったとしました。
そして「訓練を主催した県の高校体育連盟の危機管理意識の欠如が事故の根源的かつ最大の要因」だと指摘し、県の教育委員会のチェック体制が整備されていなかったことも要因の1つだとしました。
また、生徒を引率した教員については「斜面を進むに従って雪崩が起きる危険性を認識できたはずで、適切な状況判断に欠けるところがあった」と指摘しました。
そのうえで再発防止に向けた提言として、教員への研修を専門家の協力を得て登山の技術だけでなく、気象の知識も含めてきめ細かく行うことや、県の教育委員会が各高校の登山計画を厳しくチェックすることなど、7項目を盛り込みました。
県教育委員会は、来年1月をめどに再発防止策をまとめることにしています。
遺族代表「本気で反省・改善を」
最終報告が提出された後、亡くなった大田原高校の1年生、高瀬淳生さん(16)の母親の晶子さんが遺族の思いをまとめたコメントを読み上げました。
この中で「雪崩事故から半年がすぎましたが、私たちの心の傷が癒えることはありません。検証委員会が行ったことは、あくまでも事故の検証にすぎません。本当の意味での反省・改善とは関係者全員が各自の心で責任を感じて、各自の頭で考えて行動することだと思います」と話しました。
そのうえで「8人の命がなぜ奪われることになったのか本気で反省・改善して下さい。8人の死をむだにしないと心に誓ってください」と述べました。
遺族「これで終わりではない」
雪崩事故で亡くなった大田原高校の1年生、奥公輝さん(16)は、高校では応援団と山岳部に入り、どちらも一生懸命に活動する生徒だったといいます。自然が大好きなやさしい子で、父親の勝さんと一緒にジョギングをするなど仲のよい親子だったということです。
事故から半年余りたってまとめられた最終報告について、父親の勝さんは「今でも信じられない思いで、なぜうちの子がいなくなったのかと、毎日、考えます。何があったのかどのような状況だったのかを明確にしていただいたが、なぜそうなったのか疑問が尽きないところがあり、これからも問い続けていきたい」と話しています。
そのうえで「これで終わりではないと思います。提言が出ただけなので、どう生かすのか見守っていきたいです。『ちゃんと大人たちは反省してもうこのようなことを起こさないと誓ってくれたんだよ』と、息子に報告したいです」として、検証委員会の提言をもとに、再発防止に向けた具体的な仕組み作りを求めました。
栃木県教育長「責任を痛感 再発防止に全力」
最終報告を受け取った栃木県教育委員会の宇田貞夫教育長は「県の高校体育連盟や登山専門部の運営や危機管理意識の低さ、それに教育委員会のチェック体制が整っていなかったことの責任を痛感し、申し訳ない気持ちでいっぱいです。最終報告の内容を詳しく検討し再発防止に全力で取り組みたい」と述べました。
検証委員会委員長「不断の取り組みを」
検証委員会の委員長を務めた東京女子体育大学の戸田芳雄教授は最終報告の提出後、取材に応じ、「報告書では組織的に準備や運営が行われていたのかを中心に検証と提言を行った。今後は再発防止や事故の風化防止などに県内だけでなく、全国の関係者が切れ目なく不断の取り組みを進めることを望む」と述べました。
最終報告書の詳細
栃木県教育委員会が設置した外部の専門家による検証委員会が取りまとめた最終報告は、およそ200ページに上り、ことし6月の中間報告以降、遺族からの要望で行った再調査で新たに判明した事実のほか、再発防止に向けた提言も盛り込まれました。
最終報告では、7年前の同じ訓練でも生徒たちが雪崩に巻き込まれたことについて、再調査を行った結果、生徒らが頭まで雪に埋もれる重大な事故だったことが明らかになったとしています。
しかし、けが人がいなかったことから、県の高校体育連盟に報告されず、文書としても引き継がれなかったとしています。
訓練の内容を当日の朝に変更したことについては、悪天候の際の訓練の代替案が事前に準備されず、当日の朝、雪をかき分けて進む内容に訓練を変更した際に教員や生徒に具体的な訓練の内容や行動してもよい範囲などが示されなかったのは問題だとしています。
訓練内容の変更は、客観的な気象データや専門家の助言に基づいたものではなく、危険性の十分な認識を欠いた状態だったとしました。
また、教員の1人は出発前に学校の教頭に対し「悪天候であれば訓練は中止する」と話していたことも新たにわかりました。
生徒を引率した教員については、隊列の先頭付近にいて、常に雪崩などの危険に細心の注意を払うべきだったと指摘したうえで、「上に行きたい」という生徒の意向に従って訓練を続けたことは、安全配慮に欠けていたと指摘しました。
さらに別の高校の教員が引率していた班もあり、生徒の名前もわからず、十分な指導・監督が行えない可能性があったとしています。
事故の発生後の対応については、訓練の本部となっていた旅館にいた教員が無線機から離れたため、現場から連絡がとれずに救助の要請が遅れ、安全への配慮が希薄だったとしています。
そして「訓練を主催した県の高校体育連盟の危機管理意識の欠如が事故の根源的かつ最大の要因」だと指摘し、県の教育委員会のチェック体制が整備されていなかったことも要因の1つだとしました。
また、生徒を引率した教員については「斜面を進むに従って雪崩が起きる危険性を認識できたはずで、適切な状況判断に欠けるところがあった」と指摘しました。
これらを踏まえて再発防止に向けた提言として、教員への研修を専門家の協力を得て登山の技術だけでなく気象の知識も含めてきめ細かく行うことや、県の教育委員会が各高校の登山計画を厳しくチェックすること、それに県内の教員や今回の事故経験者、専門家によって指導者と生徒向けのハンドブックを作成することなど、7つの提言を盛り込みました。