「憲法の歴史的意義問い直す」 ドキュメンタリー映画を特別上映へ
衆院選の最大のテーマとなる憲法改正を真正面から問うドキュメンタリー映画「憲法を武器として~恵庭(えにわ)事件 知られざる50年目の真実」の特別上映会が19日午後6時から、池袋HUMAXシネマズ(東京都豊島区東池袋)で開かれる。監督は、「二重被爆~語り部・山口彊(つとむ)の遺言」「フクシマ2011~被曝(ひばく)に晒(さら)された人々の記録」など社会派作品に定評のある稲塚秀孝さん。自民党は今回初めて公約で憲法改正を重点政策として掲げており、22日の投開票結果次第では、国会で改憲論議が加速する可能性がある。稲塚監督は「日本の将来を選択する選挙中だからこそ、ぜひ多くの人たちに見てほしい」と呼びかけている。【中澤雄大/統合デジタル取材センター】
「肩すかし判決」……自衛隊の憲法判断自体を回避
1962(昭和37)年12月、札幌市近郊の北海道恵庭町(現恵庭市)にある自衛隊島松演習場近くで酪農を営む野崎健美(たけよし)さん、美晴(よしはる)さん兄弟が、演習場内の通信線をペンチで切断した。射撃演習などの爆音被害で搾乳量が落ち、さらに家族が健康を損なっていた。再三の抗議もほごにされたことへのやむにやまれぬ実力行使だったが、兄弟は刑法の器物損壊罪より刑が重い自衛隊法121条違反(防衛供用物損壊)の罪で起訴された。
札幌地裁では3年半、計40回の公判が開かれた。野崎兄弟は裁判で「演習で生活権を脅かされた自分たちこそが被害者。自衛隊の存在そのものが、憲法9条と憲法前文に反するものである以上、自衛隊法は違憲無効な法であり、121条違反によって処罰されることはない」と無罪を一貫して主張した。
67年3月29日の判決公判で、辻三雄裁判長は「切断された通信線は『防衛の用に供する物』にあたらない」として無罪を言い渡した。同時に、自衛隊の憲法判断に関しては「121条の構成要件に該当しないとの結論に達した以上、弁護人ら指摘の憲法問題に関し、なんらの判断を行う必要がないのみならず、これを行うべきでもない」とした。自衛隊の憲法判断自体に踏み込まなかったことから「肩すかし判決」と呼ばれた。
核心迫る重大証言を発掘 時機を得た問題作
稲塚監督は北海道苫小牧市出身。中高生時代、恵庭裁判を通じて憲法・安全保障問題を考えるようになった。約3年前から野崎兄弟をはじめ、弁護団の内藤功弁護士、辻裁判長の遺族ら関係者を探しだし、地道にインタビューを重ねた。さらに公判記録や新聞記事などをつぶさに調べあげて、証言部分と再現ドラマで構成した迫真の法廷劇を作り上げた。
キャストは野崎兄弟を「無名塾」の松崎謙二さんと村上新悟さんが演じる。ナレーターを務める仲代達矢さんは「ドラマ部分のセリフのために全ての公判記録を調べ尽くし、膨大なインタビューの末、核心に迫る重大証言を得ている。『恵庭事件』という戦後の一場面の意味を今に問う力のある映画に仕上がった」とメッセージを寄せた。憲法学者で平和論を専門とする水島朝穂さん(早大教授)も「無罪判決なのに検察官は大喜びで、控訴もしない。半世紀の時を越えて日本国憲法の歴史的意義を問い直す映画が生まれた」と、時機を得た問題作を歓迎する。
衆院選では、安倍晋三首相(自民党総裁)は憲法に自衛隊の存在を明記する改憲案などを提起し、希望の党と日本維新の会も改憲の議論を進めることには前向きだ。これに対し、共産と社民両党は「9条改憲阻止」を強調し、立憲民主党は今の安保法制を前提とした9条改正に反対している。
日本の大きな岐路となる衆院選の真っただ中、この映画を通して憲法問題を改めて考えてみてはどうだろう。入場料1500円。上映時間110分。問い合わせは稲塚監督(090・3576・6644)、もしくは公式ホームページ(http://eniwahanketsu50.com/index.html)へ。