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【社会】

私を見て 分け隔てしないで 障害ある女性 共生のために1票

介助者に支えてもらいながらバスを降りる川合千那未さん=東京都杉並区で

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 今月上旬、東京都杉並区の阿佐ケ谷駅前。路線バスを待つ十人ほどの列に、電動車いすの女性の姿があった。脳性まひで手足などが不自由な川合千那未(ちなみ)さん(27)だ。

 「どちらまで?」。バスの運転手が行き先を尋ねた相手は、川合さんではなく、付き添いの介助者だった。川合さんは「私が乗るんです、私に聞いて」と叫んだが、運転手はちらっと見ただけ。再び介助者に話しかけた。

 バスに乗り込む時、停留所の屋根の支柱が邪魔になりそうだったので、「バスを少し動かして」と頼んだら、無視された。案の定、車いすが鈍い音を立てて柱にぶつかった。

 「私に意見を聞こうとしない。見た目で判断能力がないと思われる」とため息をついた。

 川合さんは、ほぼ二十四時間の介助を受けながら区内の賃貸マンションで一人暮らしをしている。三年前まで埼玉県寄居町の実家住まいだった。十八歳の時、父親が他界したのを機に自分の将来を考えた。「施設ではなく地域で暮らしたい」。支援団体の助けを借り、三年がかりで準備した。

 自立は簡単ではなかった。まず、住む場所が見つからない。不動産業者に車いすのことを伝えると、「床が傷付く」などと難色を示された。

 一人では寝返りも打てず着替えもできない。日中と夜間の二交代で介助者を依頼するが、なかなか見つからない日もあり、綱渡りの毎日だ。人手不足感の強い介護業界の中でも、高齢者相手より障害者相手の方が単価が安く、より人が集まりにくいと聞いた。

 学生にアルバイトを頼もうと大学でビラを配り、障害者と接したことのない人の多さに驚いた。「障害者は、子どもの頃から一般の教室から消えてしまう。若い人たちは『自分と違う』と、かかわる気持ちにならないのでは」と思う。

 障害者差別解消法が昨年四月に施行されたが、多くの人にとって人ごとのままだった。三カ月後には、相模原市の知的障害者施設での大量殺傷事件が起きた。「いつかこういうことがあるのでは、と感じていた。人と人のつながりが希薄な中、異質な者はいじめや排除の標的になりやすい」

 障害者政策は進んでいるはずだし、衆院選では多くの政党や候補者が社会の改革を訴える。しかし、ますます社会から隔てられる雰囲気を感じる。「私たちの立場に立って、と要求するのはハードルが高いと思う。まずは関心を持って。ちゃんと見て」

 川合さんは、人と人を分断しない社会を目指す候補者を見極めて、一票を投じるつもりだという。

 ◇ 

 川合さんが乗った路線バスの運行会社は、本紙の取材に「乗りやすいよう、バスの位置を調整することは乗務員へ周知しているが、徹底されていなかった。障害者本人でなく、介助者に聞いてしまうケースは多いかもしれない。会社として認識し、研修などを通じて改善したい」と話した。(柏崎智子)

 <障害者差別解消法> 昨年4月に施行。国や地方自治体、民間事業者に対し、障害を理由にサービスの提供を拒否・制限することを禁じ、合理的な配慮の実施を求めている。内閣府は不当な差別の例として、学校の受験や入学を拒否することや、不動産物件を紹介しないこと、本人を無視し介助者へ話し掛けることなどを例示している。 

 

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