あれ?このフランジって何て名前だっけ?
(エラストマーシール仕様のフランジ編: )
In the name
of unknown vacuum flange.
こちらも参照ヨロシク。
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A型 |
B1型 |
B2型 |
D型 |
茨城県つくば市にお住まいのKさんより:
「NW63フランジ付きの4方クロス」を電話で注文したら、B2のフランジがついたチャンバーが送られてきた。なんで!? 私がほしかったのはAのフランジがついたやつだったのに!!」
(こみあげる涙をこらえながら)
兵庫県佐用郡にお勤めのMさんより:
「ISOブランクフランジ」を電話で注文したら、B2フランジのブランク型が来た。普通
にISOフランジって言ったらB1に決まってるじゃん!!B2が欲しかったら「ボルトで留めるやつ」って言うよ!!
(ハンカチを噛みつつ)
例えそれが仕事のためだったとしても、また、それが取るに足らない真空部品であっても、モノを買うという行為は多少の喜びを伴います。あれこれ悩んで品目を選び、ワクワクしながら品物の到着を待つ。面倒なプロセスではありますが、その中に僅かながらも楽しみを感じる人は多いのではないでしょうか。それだけに、到着した品物が期待外れだったときのガッカリ感は筆舌に尽くしがたいものがあります。まして、梱包を開けた瞬間、自分が注文したはずのモノとは全く違う品物とコンニチワしてしまったら・・・・・。
しかし、このようなミスコミュニケーションに起因する悲劇は、本当に避けられないものなのでしょうか。人類は21世紀を迎えてもなお、悪意なき誤解から生じる度し難い惨禍から逃れられないのでしょうか。
間違いを寄せ付けないコミュニケーションの基本は、自分が伝えたい事柄をしっかり心に刻んで、それを伝えるための言葉を慎重に選ぶこと。一人で悩まず、一緒に考えましょう。あなたの大切な想いを確実に伝えるための方法を。A、B1、B2、そしてD型。この4種類のフランジを、今、世間様はどう呼び分けているのでしょうか? あなたは、今あなたが必要としているフランジを間違いなく言い当てるための、適切な呼び方を知っていますか?
A型:生まれはドイツ、呼び口径50mmサイズまでを担当。
まず、Aのような型式のフランジがどのように呼ばれているか、国内外のメーカーのカタログをみて調べてみました。
メーカー名(仮) |
国・地域 |
フランジ型式についての呼称 |
呼び口径表記 |
イ |
日本 |
クイックカップリングNWフランジ |
|
ロ |
NW Standard flanges |
|
ハ |
NW-KFフランジ |
|
ニ |
ISO-KFフランジ |
NWxx |
ホ |
KF-Type flanges |
NWxx |
ヘ |
KFフランジ |
NWxx |
ト |
USA |
KF flanges |
NWxx |
チ |
ISO-KF flanges |
NWxx |
リ |
NW flanges |
|
ヌ |
ISO-KF flanges |
NWxx |
ル |
ISO-KF flanges |
NWxx |
ヲ |
欧州 |
Klein flanges |
NWxxKF |
ワ |
ISO-KF flanges |
DN xx ISO-KF |
カ |
ISO-KF flanges |
DN xx ISO-KF |
ヨ |
ISO-KF flanges |
DNxx |
この型式のフランジは、元々ドイツのメーカーが開発し、"Kleinflansch(小口径フランジ)"という製品名称をつけて販売を始めたもので、多くのメーカーが使っている"KF"という表記は、この"Kleinflansch"を縮めたものです。A型フランジは元々、下の図に示すような、中央から2つに分かれる格好で開く形のクランプを使って締結するように設計されたフランジであり、開発元のメーカーから販売された当初から大口径化には不向きと考えられていました。実際に、A型フランジの型式を規定しているISO
2861の中でも、A型フランジの呼び径の上限は、約50mmの外径を持つ配管が溶接されるサイズ(NW50)となっています。
"KF"の前に"ISO"をつけるメーカーも多くみられますが、これは、この型式のフランジの形状と寸法が、前述したISO規格(ISO
2861)で決められていることによるものと思われます。このISO 2861の表題は"Vacuum
Technology - Dimensions of clamped-type quick-release couplings"となっていて、このことから「クイックカップリング型」と呼ばれることも多いようです。
「NW型」という呼び方は日本のメーカーに多く見受けられますが、この呼び方にはちょっと注意が必要です。というのも、この"NW"というのは特定のフランジ型式を指すための記号ではなく、元々、配管の呼び径を表すためにヨーロッパの空圧機器業界規格の中で使われた記号であって、他の型式のフランジのサイズを表すのにも使われるからです。
ここまで読まれて「あれ?おかしくない?この型式のフランジって確か60mmサイズより大きいのもあるよね?」という疑問を持たれた方には、ここで残酷な真実を認識していただかねばなりません。呼び口径10-50mmサイズと63mm以上のサイズの間には越えられない壁があり、壁のこっちと向こうは全く別物です。呼び径10-50mmについてはメーカー間の互換性があり、事実上の標準化がなされているのですが、63mm以上のサイズはメーカー間の互換性に不備があるという事例が少なからず確認されており、複数のメーカーから供給される製品を一つの「型式」として括るのは無理があります。具体的に言いますと、呼び径10-50mmのサイズでしたら別々のメーカーのクランプとセンターリングとフランジを組み合わせても大概は問題はなく使えるのですが、63mm以上のサイズだと、別々のメーカーから供給されるパーツを組み合わせた場合には真空シールどころか接続することすらできない、という事態に陥る可能性があるのです。(このページの冒頭で「NW63付きの4方クロス」を所望された茨城県のKさんは「A型によく似てるけど実はA型じゃない63mmサイズのフランジ」を希望していたんですね。)
この「A型のそっくりさんフランジ」について、もう少し詳しくお知りになりたい方は取りあえずこちらのページを参考になさって下さい。
A型: で、どう呼ぶ?
「クイックカップリングのフランジ」:
この呼び方を聞いてB1型やB2型を思い浮かべる人は、まずいません。その点では紛らわしさが非常に少ない呼び方なのですが、この「クイックカップリング」という呼び方そのものを知らない人も結構います。ですので、話し相手から「クイックカップリングって何ですか?」と聞き返されたら、別の呼びかたを慎重に探しつつ、相手がA型フランジそのものを知っているかどうかについても確かめる必要があります。
「KF型フランジ」:
これも大概の場合は確実にA型を言い当てられると思うのですが、欧州のメーカーが使っている"K"や"F"の表記と混同される恐れがあることも否定できません。
「NWフランジ」:
前述した通り、元々"NW"は口径を表記する記号であり、フランジの型式を表すものではありません。使わないほうが無難でしょう。
「クラインフランジ (Klein Flange)」:
今、この呼び方をする人は殆どいません。たとえ開発元であるヲ社の中でも、わからない人がいると思います。
「ISO 2861準拠型のフランジ」:
この言い方なら間違えようがないのですが、たぶん、電話、切られます。
B1型:名無しの「ISO」フランジ。
呼び口径63mmサイズ以上を担当。
続いて、B1のような型式のフランジがどのように呼ばれているか見てみましょう。
メーカー名(仮) |
国・地域 |
フランジ型式についての呼称 |
呼び口径表記 |
イ |
日本 |
ISO-MFフランジ |
|
ニ |
ISO-MFフランジ |
KFxx |
ヘ |
ISOフランジ |
NWxx |
ト |
USA |
ISO-MF flanges |
NWxx |
チ |
ISO-MF flanges |
NWxx |
リ |
ISO flanges |
|
ヌ |
ISO-MF flanges |
NWxx |
ル |
ISO-LF flanges |
NWxx |
ワ |
欧州 |
ISO-K flanges |
DN xx ISO-K |
カ |
ISO-K flanges |
DN xx ISO-K |
ヨ |
ISO-K flanges |
DNxx |
呼称は各社それぞれ細かく違うものの、その呼称の先頭に"ISO"がつく、という点は共通しています。お察しの通り、このB1型式のフランジもA型式と同じくISO規格で寸法と形状が決められており、そのことがもとで多くのメーカーが「ISO型」と呼んでいるのです。「ISO規格化されているから"ISOフランジ"って、安易すぎやしませんか。なぜ個性を認めてあげようとしないのですか」と、抑え難き義憤の念に駆られた方も多いことと存じます。ISO規格化されている真空用途フランジは、このB1型フランジだけではないのに。それに、このフランジ型式を規定するISO
1609が制定されたのは、今から20年以上も前の1986年のこと。いい加減、わかりやすい通称が出てきてもいいはずです。なぜ、このフランジは、未だに多くの人から「ISOフランジ」などという紛らわしい呼ばれ方をされるのでしょうか。
その理由は、このB1型フランジの出自に関わっています。何をかくそう、このB1型フランジは通称の元となるべき「本来の名称」を持たない、いわば「名無し」のフランジなのです。B1型フランジは、前述したA型フランジのように特定のメーカーが開発したものではなく、従って、ISO規格化される以前の「製品名」を持ちません。その上、B1型フランジの型式を規定したISO
1609の題目も"Vacuum Technology - Flange Dimensions"という至って茫洋としたもので、何らB1型フランジを特徴づけるものではなく、ここから適当な通称が生まれるはずもありません。
表にリストした11社中5社は"ISO"の後に"MF"という表記を付けていますが、ヌ社のカタログによれば、これは"Multi
Fastener"の略で、複数個のクローを使ってフランジを締結することから付けた表記とのことです。また一方、欧州の各社では"K"という記号を付けていますが、このうち2社はドイツ語を主な公用語とする国のメーカーであり、そのことを考えると、この"K"は"Klampe(留め金具)"の略ではないかと推測できます。しかし、"MF"も"K"も、これら特定の数メーカーが独自に使用している呼称に過ぎず、一般的な呼び方とは言えません。
ル社が付けている"LF"という表記は、"Large Flange"の略だそうです。確かに、ル社のカタログにはNW63よりも小さな口径のB1型フランジは掲載されておらず、NW50以下の小口径サイズについてはA型のみのラインナップとなっています。つまりA型が"Klain(小口径)"だから、それ以上は"Large(大口径)"という理屈ですね。でも、この"LF"という表記も前述の"MF"や"K"と同様、特定のメーカーが使用している型式表示であって、やはり一般的なものではありません。
B1型: で、どう呼ぶ?
「ISOフランジのクロー留めタイプ」:
ほぼ間違いなくB1型式を言い当てられると思います。もし「クロー」を「2分割のクランプ」と取り違えて解釈されるのが心配でしたら、「この口径のフランジだと、クローは何本必要ですか?」とか何とか余計な質問をしてみましょう。「え・・・・? 一個で大丈夫ですよ?」なんて答えが返ってきたらアウトです。(ちなみに、この質問に対する模範回答は「最低でも同じサイズのボルト留めタイプのフランジに空けられているボルト穴数と同数」です)
「ISOフランジのクランプ留めタイプ」:
ちょっと危険な香りが漂います。確かに、B1型フランジを留めるクローは「クロークランプ」と呼ばれたりもしますが、A型フランジを留める「2分割のクランプ」と取り違えられないよう注意が必要です。
「ISOフランジのKFじゃないほう」:
「KFってなんですか?」と聞き返されたら、会話がドロ沼にはまりそうです。それから、
日本のニ社のように、B1型フランジの口径表示をするのに"KF"の記号を使うメーカーもありますので、要注意。
「ISO 1609準拠型フランジのクロー留めタイプ」:
「扱っておりません」とか、いきなり言われそう。
B2型:ないがしろにされがちな、B1型の二卵性双生児。
さて、B2型フランジの呼称はどのようになっているのでしょうか。
メーカー名(仮) |
国・地域 |
フランジ型式についての呼称 |
呼び口径表記 |
イ |
日本 |
ISO-BTフランジ |
|
ニ |
ISO-Boltedフランジ |
KFxx |
ヘ |
ISOフランジ |
NWxx |
ト |
USA |
ISO flanges |
NWxx |
チ |
ISO-Universal flanges |
NWxx |
リ |
ISO flanges |
|
ヌ |
ISO flanges |
NWxx |
ル |
ISO-LF flanges |
NWxx |
カ |
欧州 |
ISO-F flanges |
DN xx ISO-F |
ヨ |
ISO-F flanges |
DNxx |
このB2型フランジは、締結方法も形状もB1型フランジとは違います。従って、それぞれに別々の呼称を与えるのが自然のような気がしますが、両者を呼称の上で区別していないメーカーが多いのはなぜでしょう。ご存じの方も多いかと存じますが、この2種類のフランジは両方とも同じISO
1609で型式規定されています。つまり、B1型とB2型は、ISO規格の中では同型フランジの2つのバリエーションという位置づけをされているのです。カ社とヨ社だけが、B2型フランジを表す呼称として"ISO"の後に"F"を付けていますが、この"F"はドイツ語の"Flansch(フランジ)"か、もしくは"Flach(フラットな)"を意味しているものと思われます。
いずれにしても、B2型フランジに分かりやすい呼称を付けようという積極的な意図はどのメーカーからも感じられません。「ISOフランジのボルト止めタイプ。クローで留める型でもクランプを使うヤツでもない」と言えばコトが済んでしまうケースが多いのでしょうか。確かに、このB2型フランジと間違われやすいのは、同じ規格で規定されていても締結方法と形状が明らかに違うB1型ではなく、むしろ同じボルト締結型で形状も似ているアメリカのASA(ANSI)フランジや、国内で普及している旧JIS
2290規格のVF/VGフランジのほうかもしれません。
B2型: で、どう呼ぶ?
「ISOフランジのボルト留めタイプ」:
まず確実にB2型式を言い当てられるでしょう。口径とキリ穴/タップ穴の要求もきっちり伝えましょう。
「ISO 1609準拠型フランジのボルト留めタイプ」:
「・・・・ええと、図面FAXしてください」って言われそうな気がします。
D型: JIS規格の規定フランジを現役引退した今でも、
事実上の国内最大手。
もうご紹介申し上げるまでもございません。例えB1・B2型や、もしかするとA型をご存じない方でもD型は知っているというくらい日本国内では高い普及度と確固とした存在感を誇る、いわゆる「VF/VGフランジ」フランジです。呼び方についても大きな混乱はないようですので、フランジの出自なども含めてこちらのページにまとめておきました。ご参照のほどお願いいたします。
[重要]
悲しい誤解から世界を救うために、いまぼくたちができること。
最後に、言うまでもないことではありますが、一応念のため。
問い合わせや発注をしようとする相手先のカタログが手許にあるのでしたら、そのカタログを開いて自分の欲しいフランジを探し、型番で指定するのが最も確実です。多少面倒ではありますが、手間を惜しんでトラブルの種を蒔くのは是非とも避けたいところです。
なんだかスッキリしない。
フランジの呼称って規格でどうにかできないの?
別のページにもくどくど書きましたが、実は、この「技術開発室だより」担当者=つまり私ですが、真空業界団体の会合 -- その中でもJIS規格やISO規格の制改定に関係する作業委員会 -- に顔を出しております。で、その席で時々「ISO規格やJIS規格で真空用フランジの呼称をもっと整理して、わかりやすくしたらどうか」というご意見(というより率直なご感想)をいただくことがあります。そのお気持ちは強烈に理解できるのですが、フランジ型式の呼称は、いわゆる「通称」が定着する傾向が強く、その型式が普及した後から公的な工業規格で規定しても、その通りにならない、と私は見ています。通称は、その型式のフランジが広範に普及してゆく過程において「普通」であった呼び方であり、先に取り上げたA型のような特定のメーカー発のものは製品名称や商標、もしくはそれらの略称が決定的になりますので、普及がほぼ終盤となってから公的規格によって呼称を規定しても実際には誰も関知せず、通称を変えたり整理・統一する目的での実効性はほぼ皆無と言えます。
ここで、悲しい実例をご紹介いたしましょう。
A型の仕様を規定しているJIS B 8365の呼称規定によれば:
"部品の呼び方 クランプ型継手(つまりA型)の部品の呼び方は、次の例のとおりとする。
例:呼び径40の場合
クランプ型継手カップリング40
クランプ型継手Oリング40
クランプ型継手センターリング40"
となっています。
しかし残念ながら、この呼称規定、全く知られていないんですよね。この先も浸透することはないでしょう。
(ちなみにISO規格では呼び方を規定していません。)
「普及する過程での通称」が一般的な呼称として定着するというパターンは、D型やB型のような、公的規格の制定を起点にして普及が始まった型式についても同じで、D型はJIS B 2290の初版に規定された呼称「溝無しはVF・有りはVG」がフランジ実体の普及と並行して広まった好例ですし、逆にB1・B2型は、その仕様と型式を規定したISO 1609の中で適当な呼称を提示しなかったために、国際的に"ISO type"と呼ばれるようになってしまいました。もう今から規格で呼称を規定しても、どうにもならないでしょう。
一方、普及途上にある型式をISOやJISで規格化する場合には、その規格による型式呼称の規定や、その規格の表題が「通称」となる可能性が高く、よほど真剣に「ヘンな型式呼称や規格表題を付けない」ように気をつけないと、非常にまずいことになると思います。
いや、名前だけ知っててもしょうがない。特長とか規格とか、もっと情報を。
どうせだから他のページも見てみる。
もういい。まともなページに戻りたい。
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