Oculus VRのスタンドアロン型VR HMD「Santa Cruz」を体験。プロトタイプでも仕上がりは上々で,製品版への期待が高まる
そのSanta Cruzを実際に体験することができたのだが,なんとデモルームの様子を含めて,写真撮影は一切禁止。せめて担当者との会話だけでも録音しようとしたのだが,それさえも禁じられるという厳しい条件だった。
そのため,ビジュアル素材は公式の写真や基調講演時の写真を使いつつ,筆者なりのインプレッションをレポートしたい。
Santa Cruzの存在が初めて明らかになったのは,2016年10月に行われた「Oculus Connect 3」でのこと。プロセッサやストレージ,さらにバッテリーまで内蔵することで,母艦となるPCや据え置き型ゲーム機との接続ケーブルや電源ケーブルの配線が必要というVR HMDにおける制約から解放され,ユーザーは体の周りにまとわりつくケーブル類を意識する必要がなくなるわけだ。部屋の壁に外付けセンサーを取り付けたり,PCに専用ソフトウェアをインストールするといった面倒なセットアップも必要なくなると,Oculus VRはアピールしていた。
視界外の現実世界を意識しないで済むプレゼンスの高さは,VR体験の向上にはなくてはならないものだろう。
優れたフィット感を実現したエルゴノミカルなデザイン
この“付け足された部分”の四隅には,Oculus VRが「Inside-out Tracking」(インサイドアウトトラッキング)と呼ぶ方式の,広角カメラによるセンサーが露出している。これらのカメラは,前方というよりも,四隅それぞれを捉える方向に向いており,手に持ったモーションコントローラが,体よりやや後ろに行ったとしても,トラッキングしやすい配置になっているようだった。
PCやゲーム機に当たるコンポーネントが,すべて前面のゴーグル内部に集約されているのだから,さぞ重量のバランスが悪いだろうと筆者は思っていた。ところが,Santa Cruzを装着してビックリしたのは,その15分ほど前まで新作ゲームのデモをテストしていたRiftよりも軽く感じられたことだ。
もちろん,バッテリーのようにそれなりの重量があるコンポーネントが入っている以上,「2016年モデルより800gほど軽量化した」(Oculus VR)とはいえ,Riftよりも軽いはずない。
Santa Cruzのフィット感は,ゴム製ヘッドバンドやゴーグル輪郭部分の微妙な形状によって達成されているそうで,ゴーグル内部は横長の眼鏡をかけた状態でもしっかりと装着できるほど。明らかに,Riftをベースとしてデザインを改良していったもののようだ。
ヘッドバンドは,筆者の短髪にもまとわりついて,引っ張られるような痛みを多少感じたものの,今後1年~1年半ほどかけて改良が続けられていくことを考えると,すでにかなりの完成度に達しているのではないかと,好感触を抱いた。
Santa Cruz専用モーションコントローラ
今回,Santa Cruzのデモに使われたスペースは,おおよそ8×4mほどの広さがあった。これだけのスペースを確保できる家庭がどれほどあるのかは分からないが,それだけ広いルームスケールのVRコンテンツでも,Santa Cruzは動かせますよ,ということを示したかったのだろう。
そんなデモルームで体験できたのは,マスコットキャラクター「Bogo」を使って,シアトルをベースにする開発チーム「Oculus Rex」が制作したペットゲームと,西部劇をテーマにしたガンシューティング「Dead & Buried」を使った専用のゲームモードの2種類。デモ自体は,どちらも5分程度の内容だった。
Santa Cruzの専用モーションコントローラは,Rift用のモーションコントローラ「Touch」で拳を包み込んでいた赤外線LED内蔵のリングを,上部に配置換えしたような形状となっている。この配置によって,ゴーグル側のカメラでLEDの位置を捉えやすくしたようだ。
操作系は,Touchにあったジョイスティックと[A/B/X/Y]ボタンがなくなり,その場所に円形のタッチパッドが取り付けられているのが大きな違いと言える。
ただ,今回体験したデモは,どちらもタッチパッドを使うようにはなっておらず,トリガーとグリップ部のボタンだけでプレイできるもので,まだタッチパッド内部のセンサーは調整中であるようだ。Liu氏によると,「この新しいモーションコントローラでは,タッチパッドとトリガーの併用により,何かをつまみ上げるような動作もできる」ということだった。
筆者が最初に挑戦したのはBogoで,カエルと犬を合体させたようなクリーチャーのBogoに,周囲に垂れ下がるフルーツを食べさせて手懐け,頭をなでたり,棒を遠くに投げて遊んだりできるようになっていた。棒を投げるフリをすると,一瞬どこに飛んでいったのかを不思議そうに見渡すBogoの様子が,本当の犬のようで可愛らしい。
Santa Cruzを着用した状態で動き回りすぎると,移動可能な範囲を逸脱しそうになったことを警告する「Guardian System」が作動して,視界にブルーワイヤで描かれた壁が表示された。イベント会場などでRiftを使ったゲームデモを体験できる場には,ユーザーに動ける範囲を認識させるためのソフトパッドが敷かれているものだが,今回はそれもなし。おそらく,Santa Cruzにおける6軸自由度(6DoF)やプレゼンスの強化を体験させる意図があったのだろう。
もう1つのデモであるDead & Buriedは,すでにRift用の製品版がリリースされているゲームの「ホードモード」に,高さを加えた闘技場風のアリーナとして表現したものだった。プレイヤーを襲うゾンビたちは,周囲のトンネルから湧き出してくるだけでなく,2階や3階からライフルで銃撃もしてくる。
そんなゾンビどもを,両腰に差したピストルで迎え撃つだけでなく,周囲に置かれたショットガンで撃ったり,ダイナマイトを投げ付けたりできるのは従来と変わらないのだが,今回のデモでは,階上から筆者に向かってダイナマイトを投げ付けてくる敵もいた。当初は,どこから投げられているのか分からず,ダイナマイトが飛んでくる「ヒュー」という音が聞こえるたびに,ジャンプして逃げ回っていた筆者だったが,わりと複雑なマップであったにも関わらず,無理やり飛び跳ねたり,その場で一回転してみたりしても,映像の処理が追い付かないということはまずなかった。つまり,それを処理できるだけの性能が,Santa Cruzには備わっているということだ。
また,動き回りながらのプレイでも,途中でゴーグルの位置を再調整するようなことは一度もなかったのは,先述したフィット感の良さが表れたのであろう。
最後になるが,Santa Cruzのヘッドフォンについても言及しておきたい。
2016年モデルのプロトタイプは,ヘッドフォンがヘッドバンド側面に直接取り付けられるビルトイン型のシンプルなものだったが,Santa Cruzのヘッドフォンは,ヘッドバンドから独立したオープンエア型ヘッドフォンとなっていた。
部屋の隅で解説してくれるデモ担当者の声がしっかり聞こえつつ,ゲームの効果音やBGMの再生品質が低いと感じることはなく,どちらも非常にクリアに聞こえたのは特筆しておくべきだろう。
自前のヘッドセットを使いたい人のためのヘッドフォン端子がゴーグル本体にあったかどうかは確認し忘れたものの,ゲーム世界に没入しつつ,周囲の様子を音でも察知できると言う点では,Santa Cruzのヘッドフォンは優れたものとなりそうだ。
2種類のデモで使われていたゲームグラフィックスの品質は,現在,Rift向けにリリースされているトップレベルのシューティングゲームにかなうものではない。Rift+ハイエンドのゲームPCよりも,スペック的には低いなという印象だ。
もちろん,具体的なプロセッサのスペックやディスプレイの解像度といった細かい情報は,今後の開発状況や,コンポーネントのコスト変動次第で変わることもあるだろうから,正式にはアナウンスされていない。おそらく,それらが明らかになるのは,2018年の今頃になるのではないだろうか。
Santa Cruzの開発者向けキットは,2018年中にリリースの見込みとなっているので,おそらく一般向けの製品が発売されるのは,2019年初頭になるのではないだろうか。本格的なルームスケールVRを体現するスタンドアロン型のVR HMDとなるSanta Cruzは,Oculus VRの真価を問う製品になるかもしれない。
Oculus Connect 4 公式Webサイト(英語)
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