「図書館の文庫貸し出し中止を」
13日都内で開かれた、全国の公共図書館などの関係者が集まる大会で、文庫本を出している出版社の社長が「図書館で文庫本の貸し出しをやめてほしい」と呼びかけました。
本の売り上げ減少という課題がある一方で、さまざまな本を提供する図書館の役割もあり議論を呼びそうです。
13日東京・渋谷区で、全国の公共図書館などの関係者が集まって開かれた「全国図書館大会東京大会」では、図書館と出版文化のあり方を考える分科会が開かれ、文藝春秋の松井清人社長が講演しました。
この中で松井社長は、文庫本の売り上げについて3年前から毎年、金額ベースで6%程度減り続けていると指摘しました。
その上で「会社にとって文庫本は、収益全体の30%を占める大きな柱になっているだけでなく、良書を発行し続け作家を守るためにあるといっても過言ではない。できれば図書館で文庫本の貸し出しはやめていただきたい。それが議論の出発点になればいい」と呼びかけました。
一方、会場では出版と図書館の現状に詳しい慶応大学文学部の根本彰教授も講演しました。
この中で根本教授は図書館の貸し出しによって本が売れなくなっていることを示すデータはないと指摘した上で「本の新たな提供システムを考えるときに、出版社や図書館、作家などすべてが文化を継承する担い手になるという意識を持ち共同で作業を行っていくことが必要だ」と訴えました。
出版業界と図書館を巡っては、おととしの大会でも、新潮社の社長が「人気の最新本は図書館で1年間貸し出さないでほしい」と呼びかけています。
本の売り上げ減少という課題がある一方で、さまざまな本を提供する図書館の役割もあり議論を呼びそうです。
日本図書館協会は1954年に「図書館の自由に関する宣言」を採択し、国民の知る権利に応える図書館の役割について定めています。
それによりますとすべての国民はいつでも必要とする資料を入手し利用する権利があり、図書館はこのことに責任を負う機関だとしています。
そして図書館は、権力の介入や社会的圧力に左右されることはなく、資料の収集や提供の自由を有しているとうたっています。
一方で文庫本の売り上げは年々、落ち込んでいます。
出版科学研究所の調べによりますと、文庫本の売り上げはこの10年間部数、金額ともに減少傾向で去年の販売部数は1億6000万冊あまりで、10年前に比べ30%近く減ったほか、販売金額は1069億円で20%以上落ち込んでいます。
原因について出版科学研究所は「SNSやゲームなどスマートフォンを中心とした娯楽が普及したことに加え、若い世代の人口減少や身近な町の書店が減っていることが考えられる」と分析した上で、「収益の柱である文庫本の売れ行きの不振は出版業界に与える影響が非常に大きく深刻な状況だ」と指摘しています。
大手出版社の社長が文庫本の売り上げ減少を理由に「図書館での文庫本の貸し出しをやめてほしい」と発言したことについて、ツイッター上には批判的な意見を中心にさまざまな声が寄せられています。
多かったのは「文庫が売れない理由はスマホとの競合に負けているからだ」とか、「隙間時間を埋めるものが文庫や雑誌からSNSやゲーム、動画に変わっている」などと、売り上げ減少の理由がほかにあるという指摘でした。
また「図書館で借りた文庫本を気に入って購入するパターンもある。図書館は本に興味を持ちやすくする場でもあります」などと、本と出会う機会が失われることへの懸念もありました。
さらに、「一度文庫化した本は絶対に絶版にしないとか出版社もそういう配慮をしてほしい」、「手元に置きたいと読者が感じる作品作りを楽しみにしています」など出版社にも努力を求める声もありました。
一方で、「図書館で調べたら話題の本の文庫版の予約数が200近い。これじゃ出版社が図書館は文庫購入しないでって言いたくなるよ」と出版社に理解を示す書き込みもありました。
「図書館で文庫本の貸し出しをやめてほしい」という出版社の発言について、図書館の利用者からはさまざまな意見が聞かれました。
東京品川区にある区立品川図書館では、国内外の小説や古典、教養に関するものなど3万7000冊以上の文庫本を所蔵していて、若い世代を中心に人気が高いということです。
この図書館で文庫本を選んでいた女性は「単行本は重いので、いつも文庫本を持ち歩いて電車の中などで読んでいます。図書館は気軽にいろいろな本を読めるのが魅力なので、図書館に文庫本がないと困ります」と話していました。
一方、文庫本を読んでいた男性は「新しく出た本で読みたいものは自分で買うようにしています。図書館は新刊は置かずにしばらく経ってから入れるなど、工夫できればいいと思います」と話していました。