アニメ「マシンロボ ぶっちぎりバトルハッカーズ」が今年でテレビ放送30周年に当たり、この記念すべき年に主人公アールジェタンがEX合金で発売されます。
バトルハッカーズは筆者も大好きなアニメなので現代の技術で再現されたアールジェタンの発売には大きな関心を抱いていました。
そんな折、EX合金アールジェタンの企画元である銀十字社のジンサンから「マシンロボシリーズのメカデザイナーであるやまだたかひろさんにインタビューに行くけどついて来る?」という夢のようなお話をいただきました。以下インタビューのレポートです。
高田馬場駅でジンサンと待ち合わせ、「名刺忘れたから自著で代用する」と書店で中国嫁日記の1巻を買うジンサン、さらに上井草駅と下井草駅を間違えるハプニングもありましたが、待ち合わせ場所のガンダム像前に定刻前に着くことが出来ました。
しばらくすると「井上さん(ジンサン)ですか?」とやまだたかひろさんが到着。
喫茶店に移動し、筆者はやまだたかひろさんに初めてお会いさせて頂いたのでしっかりとご挨拶をさせて頂き、いざインタビューが始まりました!
バトルハッカーズ関連はほとんど情報が出回っていないので、今日は知られざるその世界観やデザイン秘話をお聞きしたいと思います!
やまだたかひろさんのプロフィール
9月12日生誕 愛知県出身
葦プロ入社後、「超獣機神ダンクーガ」動画原画を経て「マシンロボ クロノスの大逆襲」のメカニックデザインでデビュー
その後エルドランシリーズで名を馳せる
主にアニメ・メカデザインの仕事が多く、近年はマックスファクトリー製ダグラムプラモデルの商品開発協力など多彩な分野で活躍中
玩具に囲まれた少年期、そして上京
井上「アニメ業界にはどのような切欠で入られたのですか?」やまだ「実家が町工場で金型製造をやっておりましたので立体の感覚や興味は年少期の頃から自然と身についていました。金型を使用しているスペクトルマンやマジンガーZなどヒーローやロボットの玩具やプラモデルをよく父に買ってもらえたので、今思いますと恵まれた環境にあったと思います。
高校になると玩具やプラモデル、本やLPレコード代など欲しいものが多かった為、お小遣い稼ぎとして図面をイラストに起こすアルバイトを父親からもらっていました。
大学の工学部を出て実家の工場を継ぐのだろうと漠然と考えていましたが【今しかできないことをやりたい】と思い立ち、メカデザイナーとなるべく上京しアニメスタジオに就職しました。」
井上「最初からアニメのメカデザインを目指していたのですか?」
やまだ「はい、年少期からオリジナル設定でマジンガーZやゲッターロボの2号機を落書きしては夢を膨らませていまして、これを仕事にしたい願望・野望が、年々大きくなりました。」
アニメスタジオに就職、「強殖装甲ガイバー」高屋良樹先生の元でアシスタント経験
井上「そのアニメスタジオでメカ関連のお仕事は?」やまだ「上京し、紹介でアニメスタジオに就職しました。そこではメカ物ではない作品の動画をしていました。
そのスタジオを退社した後、高屋良樹先生の【強殖装甲ガイバー】のアシスタントをしました。
実は1巻に登場するガイバーユニットの一つは僕が描いています。あと階段。階段の描き方は高屋先生から教わりました。
その頃、高屋先生がある怪獣のソフビを探してらしたことがあって、僕が売っているお店を知っていたので買ってきてお渡ししたところ、大変喜んで頂いたことがありました。その後、マックスファクトリーさんを通じてお聞きした話では高屋先生も今でもそのことをよく覚えていてくださってるみたいで、それを聞いた時は嬉しかったですね。
その後、若いアニメーターでもメカデザインの仕事のチャンスがあると聞いた葦プロの門を叩きました。」
葦プロに入社 、羽原信義さんや大張正己さんと出会う
井上「そこでロボットもので有名な葦プロに入られるわけですね、当時のようすをお聞かせください」やまだ「面接で『うちはキツいので止めたほうがいい』と言われましたけど、メカデザインの夢を実現させるために入社させて頂き、すでに時の人だった羽原信義さんや大張正己さんに師事しました。
お二人とも人格者でよくアドバイスを頂けたのでとても感謝しています。
その時の葦プロはダンクーガをやっていたのですが、お二人の執筆には目を見張るものがありました。
ちなみにブラックウイングの変形や最終回のムゲ空間を行くダンクーガの動画は僕の仕事です。
そして最初のチャンスがやってきました、新番組【マシンロボ】のメカデザインをやる気があるかと。」
【マシンロボ クロノスの大逆襲】主に既存の商品をアニメ用デザインに起こす作業
井上「先に玩具が発売されているマシンロボでメカデザインとはどのようなお仕事だったのでしょうか?」やまだ「既存の商品であるジェットロボやドリルロボをクロノス用のキャラ設定であるブルージェットやロッドドリルとして起こしました。
その際にケンリュウ用に『狼のマークや、それが付いた剣が欲しい』と言われたのでデザインしたのが剣狼です。コンペにまわすと思ったらそのまま決定稿になったので、実は僕の初商品化デザインは剣狼なんです。
バイカンフーは正面を羽原さんが描かれて後ろからの設定を僕が描いています。その他のマシンロボのアニメ用設定も沢山描きました。
印象に残っているのがサイドランサーですね、僕はバイク好きなので3日かけて気合いれて描いたのですが、わずか3カットしか使われなかったんです。15分で仕上げた救急車ロボはいつも出番があるんですけどね(笑)」
【マシンロボ クロノスの大逆襲】が大ヒット!玩具は売れに売れ、ロムとレイナのストール兄妹は男女問わずアニメファンの話題の中心に!
井上「当時、クロノスは大きな話題になりましたね!」やまだ「クロノスでマシンロボの玩具がさらに売り上げを伸ばしたようです。玩具自体は旧玩具シリーズの再販なのですが、ダイキャスト入りで重量感があるにも関わらず、600円と買い易い値段だったので、低年齢層に魅力的だったようです。
特にジェットやドリルのメインキャラは人気で喜んで頂いていたと思います。
また羽原信義さんがキャラデザインをした主役のロムとヒロインであるレイナのストール兄妹はアニメファンに好評で、特にレイナの人気は凄まじかったですね。
玩具を買う子供にもキャラ萌えのアニメファンにもウケて順風満帆と思えたクロノスだったのですが、裏がスケバン刑事だったこともあり視聴率的には少々苦戦していたみたいです。
このことが新マシンロボとも言えるバトルハッカーズを生む切欠になります。」
次のマシンロボはヤンキーで行く!
井上「バトルハッカーズの構想は初めから決定されていたのでしょうか?」やまだ「早い段階でクロノスは続編が決定していましたが、内容についてはかなり難航しました。世界観を残しそのまま発展させる所謂クロノス2期的な作品を模索していました。
なかなか突破口が見出だせない中、村上克司氏が『流行を敏感に取り入れて、ヤンキーもので行こう』という方向性を打ち出しました。」
井上「当時はビーバップハイスクールや湘南爆走族などのヤンキーものが当たってた、とは言っても兄妹萌えからヤンキーへの方向転換は随分思い切った決断ですね」
やまだ「一同唖然とし困惑しました(大笑い) 、しかしコンセプトが出たらあとは早かったです。こうしてバトルハッカーズの企画はスタートしました。」
ヒット要素は全部取り入れる!新主人公・アールジェタン誕生
井上「アールジェタンが生まれた経緯を教えて頂けないでしょうか?」やまだ「前主力メカ・バイカンフーのモチーフがゴーディアンだったのですが、新主人公・アールジェタンはあらゆる要素を盛り込む『全部盛り』で行こうと決まりました。
そしてコンペで明貴さん(明貴美加氏)が出した原型が採用されました。」
井上「オーガスの四段変形など当時のカッコいい要素が集まっているのがアールジェタンの魅力ですね。」
やまだ「ライバル作品のトランスフォーマーを参考にしている部分もあったと思います。
胴体は明貴さんですが、首から上は村上さんのデザインです。アールジェタンは長ランを羽織った番長のイメージなのでよく見ると学帽を被って校章も付けているでしょう?」
何故こんな色に?ショッキングな赤紫をしているアールジェタンの謎
井上「アールジェタンは赤紫の派手派手しい色ですが、なぜあんな色になったんですか?」やまだ「バンダイさんが持ってきた色のサンプルがああなっていたんです、びっくりしました」
井上「何か意図があったのでしょうか?」
やまだ「バトルハッカーズは当初海外展開も視野に入れていたそうなので、その為かと思います。」
「マシンロボ ぶっちぎりバトルハッカーズ」スタート!流行りものを投入し狙い通り前作クロノスより高い視聴率を獲得
やまだ「バトルハッカーズは時間帯を変更し放送を開始しました。そして視聴率は常に二桁をキープし大成功しました。」井上「常に視聴率二桁はすごいですね。」
やまだ「序盤から敵であるグレンドス軍の強大さとハードな世界観をじっくり説明した上で、戦いに巻き込まれた地球人アキラたちの心理描写に数話かけていたので、視聴者にとって非常に親しみやすい作りだったんじゃないでしょうか」
「マシンロボ ぶっちぎりバトルハッカーズ」にバイカンフー登場の謎
井上「物語的には関係ないはずのバイカンフーがイメージとして出るのは何故なんですか?」やまだ「バイカンフーはまだ販促対象でしたし、バイカンフーを好きな子供たちへのサービスの意味合いもありました。」
OVA・レイナ剣狼伝説2で客演するアールジェタン、気になる本編の世界設定との差
筆者「OVA・レイナ剣狼伝説2でロムとアールジェタンが握手するんですが10倍ぐらい身長に差があるのにどうなっているんですか?」やまだ「僕は東映まんがまつりの世代で、全高の違う他作品のロボットたちが共演して握手するのをずっと見ていました。あのノリです。細かい設定は気にしませんでした」
井上「惑星B-1のデザインが違うのもロム側の設定がかみ合わないのも?」
やまだ「剣狼伝説ではイメージ優先で統合性は基本的にそんなに気にしませんでした(笑)」
最後に
井上「EX合金アールジェタンが発売されますが、何か一言頂けますか?」やまだ「なかなか日が当たらないですが、メカデサイナーに成り立ての頃にとても勉強をさせて頂いた作品がバトルハッカーズです。
その30周年の年にアールジェタンの新規商品が発売される事を大変喜んでます。関係各位の皆さん、本当にありがとうございますっ!
多くの方々が手にされてアールジェタンの奥深さを堪能して自由に向かって突っ走っていただけますと嬉しいですっ!」
やまだ先生、本日はありがとうございました。
次回は明貴美加先生にインタビューです。
ー都内某所喫茶店にて