2017.10.13
美人広報伝説 Vol.1エリカ、29歳。
渋谷にある、ベンチャー企業の広報担当。
彼女の優れた広報手腕から、メディア記者の間では「伝説の広報」との呼び声が高い。
清潔感ある楚々とした佇まいで、多くの記者は彼女と話しただけで「虜になる」と話す。
しかしそんな彼女が歩んできた道は、決して平たんなものではない。これは彼女が“伝説の広報”と呼ばれるまでの物語である。
「あれ?これって・・・」
丸の内にある大手総合商社。しんと静まり返る昼休みのオフィスで、佳代子は思わず声をあげた。
『女のキャリアの分岐点』というネット記事に、昔からよく知っている顔を見つけたのだ。
―丸の内OLから華麗なる転身を遂げた、エリカさん(29)―
4年前まで同じ職場で一般職として働いていた、エリカだった。当時よりぐっと妖艶な表情で微笑む彼女は、転職したベンチャー企業で広報をしているという。
彼女とは大学から一緒だったのでよく遊んでいたが、転職してからは、すっかり会っていなかった。
佳代子は、夢中で次のページをクリックする。
彼女が転職すると聞いたとき、誰もがそれを引きとめた。美人で清楚な雰囲気のエリカは、男性からの絶大な人気があった。
誰にでも臆せず自分の意見をはっきり言うため、「生意気」という評判もあったが、部長や役員などのお偉方からは、大層可愛がられていた(当然女性たちからすると、あまり面白くない)。
そんなエリカを「かなりの野心家」と、佳代子は思っていた。だから会社を辞めると聞いたときも驚きはしなかったが、転職先がベンチャーというのは意外だった。
「やりがいのある仕事がしたい」と転職する子は、少なからずいる。しかしそれは“世間知らずの甘ったれ”だ。辞めた後、「辞めなきゃ良かった」と皆口を揃えて言うのだ。
だからエリカが辞めると聞いたとき、こんな意地悪心が働いた。
―あのエリカも、普通の女の子だったのね・・・。どうせ、後悔するわ。
だが、パソコンのモニター越しに微笑むエリカの顔は、会社にいた頃とは比べものにならないほど、輝いている。
思わずエリカの名前を検索すると、いくつかの記事が出てきた。そのうちの一つを、食い入るように見つめる。
それは「葉月 エリカが、“伝説の広報”と言われるまで」という記事だった。