編集長の命を受け5日間ビットコインだけで生活することに…今回から創刊500号を記念して、週刊投資金融情報紙「日経ヴェリタス」編集部による「+(タス)ヴェリ」コーナーの連載を始めます。タスヴェリはNIKKEI STYLEでだけ読めるスペシャル企画です。ミレニアル世代と呼ばれる20~30代の価値観やライフスタイルを、同年代の記者が取材し幅広くご紹介します。更新は不定期です。
ビットコインが急騰している。10月10日時点で1ビットコイン=54万円前後と、昨年末から4倍以上に上昇した。投資対象として脚光を浴びる仮想通貨だが、決済手段としてはどうか。記者が1週間にわたってビットコイン「だけ」の生活に挑戦し、通貨としての実力を体感してみた。
20171010-nikkei-kikaku-1-2
5603497236001
large
Caption Settings Dialog
Beginning of dialog window. Escape will cancel and close the window.
せっぱつまった時に5回だけ出せる「タス・ヴェリカード」 【初日:10月2日】 ビットコイン生活がスタート。大手取引所「ビットフライヤー」のスマートフォン(スマホ)アプリが入ったiPhoneを手に、平日5日間を暮らしてみる。ビットコインで支払えずどうしても現金が必要になった場合は、ヘルプカードの「タス・ヴェリカード」を5回まで使って日本円で支払えるルールとした。1枚も使わず全部残るかどうか。
「さて、どうしたものか」
日本円が使えないので、自動販売機で飲み物すら買えない。記者は早速、ビットコインが使えるビックカメラへ向かうことにした。ところが現金が使えないため、電車に乗ることすらできない。普段、当たり前の電車移動だが、早速つまずいた。
やむを得ず、「タス・ヴェリカード」を1枚使用。パスモに1万円をチャージして、電車に乗った。日本経済新聞社の本社がある大手町から地下鉄で約5分。気を取り直して、いざビックカメラ有楽町店(東京・千代田)へ。
まず、水や菓子が並ぶ2階の酒販コーナーに向かった。ペットボトルの水に緑茶、ついでに就業後に備えてウイスキーとつまみの柿の種も買った。勤務中にアルコールを買うのは少し気が引けるが、買えるお店が限られるのでしょうがない。
「お支払いはどうしますか?」
店員の問いかけに、「ビットコイン決済で」と応じる。支払いは簡単だ。iPhoneで取引所の専用アプリを起動し、レジに表示されたQRコードをカメラで読みとるだけ。わずか数秒で決済が完了する。サインや暗証番号が必要なクレジットカードより手間が少なく、楽ちんだ。お茶や酒などの代金として支払ったのは計0.00523ビットコイン。日本円にして2566円相当だ。続いて3階で歯ブラシなど日用品を買った。こちらは0.00193ビットコイン(949円)だった。
「意外とビットコインだけで生活できそうだ」
そんな安堵もつかの間。急きょ、会社の先輩から「今夜、歓迎会を開く」と連絡が入った。10月はちょうど異動のシーズン。指定されたお店は、残念ながらビットコイン決済に対応していなかった。後輩の異動を祝う歓迎会で無銭飲食はあり得ない。惜しいが2枚目の「タス・ヴェリカード」使用となった。
【2日目】 仕事に追われ、昼食に出かける余裕がなかった。インターネットでビットコインが使える店を探したが、会社から遠い。面倒になって結局、ビックカメラで買った柿の種を食べて過ごした。
【3日目】 この日も仕事に追われ、昼食に出られなかった。買い込んだ柿の種がどんどん減っていく。空腹感が限界まで高まったところで夕方、東京・日本橋の焼肉店「赤身にくがとう」へと向かった。ビットコインでの支払いに対応し、個人投資家のあいだでよく知られたお店だ。
久しぶりのごちそうだ。赤身のかたまり肉にイチボの1枚焼き、そして生ビール。口の中に広がる肉のうまみと、ビールの苦み・炭酸が一気に喉を駆け抜ける。気づけば1人で0.01266ビットコイン(6102円)も注文していた。
一部の歯科医院でも使える。こちらでは「ビットコインでの支払いは100人に1人」とか 散々飲み食いした後は、「東京銀座シンタニ歯科口腔(こうくう)外科クリニック」(東京・中央)へ。歯石の除去など歯のクリーニングにビットコインが使える。診察台に座ると、超音波の器具で手際よく歯をクリーニングしてくれた。
「南さん、奥に乳歯が残っていますね」。これまで虫歯が無かったのを理由に、実は歯科医を訪ねたのは数年ぶり。ビットコイン決済の対応よりも、乳歯の存在を確認できた方が個人的には驚きだった。
【4日目】 どうしてもラーメンが食べたくなる。「タス・ヴェリカード」を使って、ラーメンチェーン「天下一品」へ。将来はビットコイン決済に対応してくれることを願いつつ、完食した。
【5日目】 ついに迎えた最終日。地下鉄ホームの水飲み場で喉の渇きを潤わせる生活ともおさらばだ。新宿・歌舞伎町にビットコイン対応のカレー店があると聞き、仕事の合間を縫って訪れた。
だが、店舗に到着するとまさかの閉店。営業している様子は感じられない。仕方がないので、ビックロビックカメラ新宿東口店(東京・新宿)に立ち寄り、お茶とビーフジャーキーを調達。焼き肉からビーフジャーキーまで食生活の落差が激しい1週間となった。
◇ ◇ ◇
ビットコイン決済に対応した店舗は着実に増えているが、現状では極めて一部だ。交通機関だけでなく、光熱費など生活に欠かせない支払いも対応していない。結局、なんだかんだでタス・ヴェリカードはすべて使い果たした。
ビットコインを色々なお店で使い続けて初めて気づいたこともある。店舗と取引所の組み合わせによっては、1回の支払いにつき送金手数料0.0005ビットコイン(200円強)が別途かかった。少額の買い物だと手数料負担が目立つ。買い物を繰り返すと、手数料だけで小さくない金額になる。
ビットコインの価格が上昇している分にはさほど気にならないが、1日で2割ほど急落することもある。次世代の通貨として期待も大きい半面、決済手段として本格的に普及するために乗り越えるべき課題も多いと感じた。
(南毅郎)
本コンテンツの無断転載、配信、共有利用を禁止します。