政府が推進する成年後見制度を巡るトラブルが全国各地で続発する中、行政の申し立てで後見人をつけられた母親と、その娘2人が2017年10月中にも、地方自治体を相手取り、国家賠償請求訴訟を起こすことになった。成年後見制度に関する自治体相手の国賠訴訟は全国で初めてだ。
訴えたのは三重県在住の母娘で、被告は桑名市(三重県・伊藤徳宇市長)ほか。
原告の一人(次女)が提訴までの経緯を語ってくれた。
「母と私は、実家で2人で暮らしていました。母には軽い認知症がありましたが、後見人をつけるほどではありませんでした。父は病気の治療の関係で、姉夫婦の家で暮らしています。
母は、軽い認知症だと言っても、会話は普通にできるし、足腰も丈夫でした。もともと散歩をしたり、身体を動かすのが好きな人なので、私はできるだけ家の中では自由にさせていました」
だが、足腰が丈夫とはいえ、高齢者に転倒はつきものだ。24時間ずっと付き切りでいるわけにもいかない。母親は、次女が目を離したすきに転んで、顔を打ったり手足に軽い打撲をしたり、擦り傷を負ったことがあった。
また、重篤な寝たきり症状などではなかったが、次女が母親の世話に疲れてイライラしているときなどには、口喧嘩することもあったという。
だが、高齢者を介護する家庭では、子供たちが「かつては自分の世話をしてくれる存在だった親が、高齢になって次第に自らの身の回りのこともできなくなる」という事態に接して、戸惑ったり、いらついたりして、つい口調が強くなるというのは、よく見られる光景だ。そこに認知症の症状が加われば、なおさらである。
「ところが、桑名市の出先機関である包括支援センターの担当者らは、私が母を虐待したと決めつけたんです。そして、母がデイケア施設を訪問中に『一時保護』の名目で、私や姉、父に無断で、母をどこかに連れ去ってしまいました。
その後、桑名市は、私たちが同意してないのに、津家庭裁判所の四日市支部に対して後見開始審判の申し立てをしてしまったのです」
後見開始の申し立てについては、制度上たしかに、本人、家族などのほか、市町村長もこれを行うこともできる。ただし、後見を受ける本人(被後見人)が65歳以上で、本人の「福祉を図るため特に必要があると認められる」場合に限られている(老人福祉法第32条)。
だが、同居している次女はもちろん、その他の家族にも何の断りもなく、母親の身柄を勝手に移して、後見開始審判を申し立てるというのは、ただならぬことだ。
では、こうした市町村長からの後見開始審判の申し立てを受けると、家裁はどう対応するのか。家事事件手続法では第119条で、下記のように定めている。
つまり、本人の能力の程度について、精神鑑定や医師の診断書をもとに調査し、審判を下すことになっている。だが、これについては以前から問題点が指摘されている。
家裁の審判に際しては、本人能力の調査が入念に行われる必要があるはずなのだが、現状では、非専門医の診断書だけで審判が下されるケースが多々あり、精神鑑定が行われないことが多いのである。
いったい、どういうことなのか。