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終わりの無い校内暴力の話① - 警察官クビになってからブログ
終わりの無い校内暴力の話④ - 警察官クビになってからブログ
私とキムラ君は保健室で並んで座っていました。
キムラ君は何かの布で顔を抑えています。
いや・・・ヒドイ出血でした。
トマトケチャップ1本丸ごと床にブチまけたような・・
ドバドバ・・・・
こんな状態ですから、
もうケンカをしている場合ではありません!
すぐに彼を保健室へ強引に引っ張っていきました・・
どうやら空振りしたと思っていた私の拳は、
キムラ君の顔をカスッていたようなのです。
ここはマンガや映画の世界ではありません。
拳が顔をカスめれば・・・肉は裂け・・・・
大惨事となってしまうのです。
保健室の先生は、
キムラくんに血止めの布?を渡すと、
どこかへ走って行ってしまいました・・・・
さっきまでケンカしていた二人だけが、
保健室に残されたのです。
気まずい・・・・後ろめたい気持ちで一杯でした。
(キムラくんは・・・何を考えているだろうか?)
そこでハッと気づきました!
よく見ると自分のシャツが血まみれなのです。
(ああ・・・・ヒドイ事をしてしまったんだな)
改めてそう感じました。
キムラ君を殴る前に思い描いていた、
『不良を殴る事で得られる爽快感』
なんてモノはどこにも見当たりませんでした。
数分後・・・・・・
数名の先生が保健室に駆け込んできました。
キムラ君はそのまま病院へ・・・
私はそのまま家に帰るように言われました。
先生たちは一言もお叱りの言葉を発しませんでした。
しかし・・・・
血まみれの状態で帰るワケにもいかず・・・・
水道でシャツの血を洗いながら
『正義』について考えました・・・・
私は頭が悪いので難しい事はわかりません。
でも・・・・・・
『正しい事をした!』
・・・・・なんて事は思えませんでした。
胸の奥底に、
『黒くモヤモヤしたモノ』を感じたからです。
(・・・・・・・・・)
洗っても洗っても、
シャツについた血は流れ落ちませんでした・・・・
家に帰ると事情を聞いた母に、
バシッ!と殴られました。
「人を殴るのはよくない!」
そんな事を言いながら私を殴るのです。
・・・わけがわかりません。
しかしだからこそ・・・・・私は理解しました。
『殴っても何も伝わらない』
ただ痛いだけです。
私が持っていた手前勝手な正義感だって、
殴ったキムラ君にも、
学校の誰の心にも全く伝わっていないでしょう。
誰の何も変える事が出来ていない。
しょせん・・暴力は暴力でしか無いのです。
その日の夜・・・・
母がキムラ君の家に謝罪の電話をかけました・・・
「キムラ君の家は◯◯◯の家!」
と聞いていた私は内心ビクビクしておりました。
が・・・しかし・・・キムラ君のお母様は、
「子供どうしのケンカですから!」
と笑って返してそれで終わりだったそうです。
後日・・・私はキムラ君に会って、
「ごめんなさい」と謝罪しました。
キムラ君は照れくさそうに笑って、
お母様と同じように、
「いや・・ケンカだからなぁ?」
の一言を返してきて終わりでした。
・・・・キムラ君とは、
それから顔を合わせる度に、
何度か他愛もない世間話をしました。
とは言え私は一方的に話を聞くばかりで、
ずっとオドオドするばかりでしたが・・
キムラ君は高校を卒業したら、
「親父がやってる会社に入る」
そう言っていました。
彼の家が◯◯◯なのかはわかりませんでしたが・・
指の無い従業員の話を何度か聞かされたので、
家が◯◯◯と言う噂は本当だったのかもしれません。
彼はいまでも・・・・
『暴力』を生業にして暮らしているかもしれません。
・・・・・・・・・
キムラ君を殴ってから・・・・
私の中にある暴力への欲求はスッポリと抜け落ちました。
振るった暴力の中に、
強さや正義を感じなかったからです。
何かはわかりませんが・・・・
もっと違う強さや正義の形があるハズ・・・・・
だから私はこれまで10数年間・・・・
どんなに理不尽な事があっても、
誰にも暴力を振るう事無く生きてこれました。
・・・・当たり前の事ですが、
そんな自分を少し誇らしく思うのです。
社会に出てから・・・
沢山の正義を貫く強い人を目にしました。
懸命に仕事に取り組む先輩。
私の起こしたクレームの為に、
頭を下げてくれる上司。
・・・そんな人達を見ていると、
私の価値観も自然と変わっていきました。
これからも・・・・
きっとまた変わっていく事でしょう。
・・・格闘技ジムのインストラクターさんが、
『危険な技』を教えてくた時に、
こんな 妙な事を私に言ってきました。
「一生だれにも使うなよ?」
(使わない技を習う意味があるのか?)
当時の私はそう思いました。
しかし・・・・・
今の私には少し意味がわかる。
使えるけど使わない・・
そういう強さもあるのだと。
おしまい