イシグロ作品人気過熱 書店原書も完売 図書館5年待ち? 電子書籍大ヒット
今年のノーベル文学賞に決まった長崎市出身の英国人小説家、カズオ・イシグロ氏(62)。その作品に触れたくても書店では完売が相次ぎ、図書館でも貸し出しの予約に長い列ができている。出版社は急きょ増刷を決めたが「早く読みたい」という熱は、日に日に高まっているようだ。
5日夜のノーベル文学賞決定以降、福岡市内の書店からイシグロ作品がほぼ姿を消した。同市内の主要な大型書店では決定前に10~35冊程度あった在庫が6日には売り切れ。洋書を取り扱う店で原書まで完売した。原書20冊が1日で売り切れた丸善博多店(同市博多区)の徳永圭子さんは「英語の原典を読みたいという方と、翻訳版が入手できなかった方が買われたようです。大人向けの文学で原書が集中して売れるのは極めてまれです」と話す。
イシグロ作品を出版する早川書房(東京都千代田区)は10日、全8作品を計約73万5千部増刷することを決めた。九州の書店にも10月中旬以降には並ぶ見通しだが、「配本は予約分に回るため、店頭分が確保できるだろうか」(リブロ福岡天神店の土屋佳裕店長)との声もある。
紙の本が買えないのなら、電子書籍で読むという手がある。8作品を電子書籍化している早川書房によると、1日から10日までに、ネット通販・アマゾンの電子書籍サービス「キンドル」で代表作「日の名残り」が約1万ダウンロード、「わたしを離さないで」は約8千ダウンロードされた。9月のダウンロード数は「わたしを-」が100程度だったので、紙の本に負けず劣らずの大ヒットとなった。同社コンテンツ事業部の千田宏之部長は「是が非でもイシグロ作品を読みたいという、飢餓感の表れかもしれません」。
福岡市立の11図書館には合わせて24種類、77冊のイシグロ作品の蔵書があるが、11日現在で計約1600件の予約が入っている。
ちなみに1冊しかない中公文庫版「日の名残り」の予約数は83。同市総合図書館によると、1冊の本が貸し出されて次の予約者に渡るまで3週間強かかるという。ざっと計算すると、83番目の人が読めるのは5年近く先になる。
余計なお世話だろうが、イシグロブームはそんな先まで続くのか?
「ノーベル賞にかかわらず世界で読み継がれている作家。これを機に日本でもより広く、長く愛されてゆくでしょう」。丸善の徳永さんはきっぱりと言った。
=2017/10/12付 西日本新聞夕刊=