ずらりと並んだ『domaine tetta』と、そのデザインを手がけたアートディレクターの平林奈緒美氏。
domaine tetta
岡山県新見市
フランスのシャトーは目指していない。でも、フランス人に見せても恥ずかしくないデザインにしたかった。
『domaine tetta』のブランドを支える要素のひとつとして、大きな役割を担っているのがラベルを含めたデザインです。手がけるのは、国内外で活躍する日本を代表するアートディレクター・平林奈緒美氏です。
「もともとは、ワイナリーを手がけたインテリアデザイナーの片山さんが『domaine tetta』の代表の高橋さんに私を推薦してくださって。それが始まりです」。
当たり前ですが、ワインは飲まなければ味はわかりません。知らないワインを購入する時、国や品種などで味を想像することはできますが、それ以外に重要な判断基準になるのがラベルです。
「最初から、フランスの名だたるシャトー風のラベルデザインにすることは考えていませんでした。ですが、フランス人に見せても恥ずかしくないラベルにしたいという思いはありました」と平林氏は話します。
『domaine tetta』に限らず、世界中のワインのラベルには、様々な思いが込められています。哲学やメッセージ、色や装飾。とはいえ、表現できるスペースには限りがあり、あれもこれもということになれば、結局何が伝えたいのかわからなくなってしまいます。そういった意味で平林氏がラベルを通して伝えるデザインは、「個性」と「機能」のように思えます。
平林氏が起用したイラストレーターは、ポルトガル人クリエイターのウェイステッド・リタ氏。
domaine tetta
岡山県新見市
イラストを採用したラベルから生まれたのは、「個性」と「機能」。結果、それがオリジナリティーに。
「デザインするにあたり、岡山にも足を運び、現場を拝見し、携わる方々にもお会いしました。まず思ったのは、オートマチックな感じが全くなく、本当に“人”が造っているんだなあということでした」。
そこで表現の手法として選んだのがイラストです。今となっては、種類も豊富になってきた『domaine tetta』のワインですが、始まったばかりの当時を振り返れば、印象的だったラベルは4種。創業者である高橋竜太氏、畑の責任者の大福貴史氏、栽培兼醸造責任者の片寄宏明氏の3人とパンダをモチーフにしたデザインだったことは間違いないでしょう。
「わたしが初めて伺った時に強く印象に残ったものをイラストのモチーフにしたいと思いました。畑を掘り返したらから発掘!?されたというパンダを大切にしてエントランスに配しているのも彼らの人間味が溢れているストーリーだと思ったので、それも採用しました。だって、ワイナリーにパンダ?何で?って思いますよね(笑)」。
いずれも現場に行かなければ発見できなかったこと。「例えば、誰かに渡す時にパンダのエピソードもちょっと添えるだけで会話やコミュニケーションが生まれます。そして、その話を聞けば、グッとそのワインとの距離感は近くなると思います」。そして、イラストという手法をラベルに採用したもうひとつの理由をこう話します。
「ワインが好きでも中には品種を覚えるのが苦手な人もいると思います。イラストを採用することにより、"頭"で理解させるのではなく"目"で理解させるとによって、そういった人たちにも分かりやすい印やサインとしての“機能”も兼ねてくれると良いな、と」。
新たにリリースされた商品にもそのコンセプトは受け継がれています。
「例えば、ソーヴィニヨンブランのラベルにはボウタイのイラストが描かれています。高橋さんは、ワインの中でもソーヴィニヨンブランが一番好きな品種だとおっしゃっていました。であれば、何か彼をイメージさせるモチーフにしたいと思い、やりとりを重ねる中で、高橋さんは大切な人と会う時は必ずボウタイをドレスコードにしているということをお聞きして、これは良い!と思って」。
その他、さりげなく描かれた英語の意味も実は面白い内容が。「本当はもっと過激な意味にしたかったのですが(笑)」と平林氏が話す『domaine tetta』のラベルには、様々な遊び心が「さりげなく」散りばめられているのです。
ラベル以外に付随するアイテムのデザインも平林氏が手がける。細かいところにもこだわる。
ラベルデザインに起用した色は、黒と白のみ。モノトーンの配色もまた、平林氏らしい世界観。
ボトル自体は既製品だが、「普通の形」をコンセプトに選び抜き、究極のスタンダードにこだわった。
domaine tetta
岡山県新見市
シーンも想定したデザイン。ワインを渡す時は、ぜひ袋から出して! それが「エチケット」。
「私、実は年間で400本くらいはワイン飲むんです(笑)」という平林氏だからこそ!?のデザインは、ラベルだけに止まりません。ケースや包み紙などはもちろん、何より「時間」までをデザインしているのが大きな特徴です。
「ワインの袋(箱)は、個人的にあまり好きではありません。例えば、誰かの家に食事に呼ばれてワインを持って行った時、袋のまま渡してしまうと、“ありがとうございます!”って、そのまま袋ごとキッチンに持っていってしまう人も多いですよね。それって寂しいと思うんです。せっかく選んだワインを見てもらいたいですし、そこで弾む会話だってあるかもしれませんし。私は、“袋から出して渡す”タイプなのですが、本当は袋なんかいらないと思っています。かといってそのままボトルだけ渡すのもどうかと思ったので、包み紙を作りました。ぜひ『domaine tetta』のワインは、この包み紙で渡して欲しいです」。
包み紙を採用することにより、その見た目にもこだわったのがワックスキャップ(キャップ部分をロウで封印すること)です。
「高橋さんも、最初からロウの封印にしたいとおっしゃっていたのですが、なかなか難しいこともあり、最近になってようやく実現しました。包み紙でワインを包んだ時に、上からチラッと見えるキャップ部分がワックスキャップの方がより見た目や全体のバランスが美しいと思って。ロウの長さにもこだわりました」。
平林氏がデザインしているのは、一見平面の世界のように見えますが、実は、渡した時の「シーン」やそこで育まれる「時間」までを想定してデザインしているのです。「包み紙を剥がす行為もワクワクしませんか?」と話すとおり、そんな時間もまたワインへの高揚感を助長させるでしょう。ラベルやキャップなど、ワインとして最低限必要なミニマルな要素から生まれたデザインの方程式は、実に緻密なデザインを通した「ホスピタリティー」のもと、クリエイションされているのです。ワインの世界の場合、ラベルはエチケットともいいます。エチケットには、身だしなみや礼儀、マナーという意味も含まれています。渡す時の「エチケット」にもこだわってワインを楽しめば、よりいっそう、その会は盛り上がるでしょう。
こうして見ると、『domaine tetta』と言えばパンダ。
domaine tetta
岡山県新見市
キッチンドランカーもといホームドランカー!? 年間約400本飲む、平林奈緒美氏とワインの関係。
「『domaine tetta』のワインは、全種類飲みました。中でも一番好きなのは、シャルドネです。赤ワインも飲みますが、ここのは常温でゆったり飲むというよりは少し冷やし気味でカジュアルに飲むのが私好みです」。
年間約400本飲むワインのほとんどの場所は、自宅だと言います。
「仕事から帰ってきて家であれこれしている時に飲むことが多いです。例えば、調べ物をしたり、テレビでスポーツ観戦をしたりなど、何かをしながら飲んでいます。日常の延長です。なので、家の中をうろちょろ動きながら片手にワインというスタイルです」。
とはいえ、ワインの消費量はなかなかのもの。平林氏は酒豪か!?はたまた嗜む程度か!?いや、この飲み方は一線を画しています……。そこで最後に「酔うんですか?」の問いに、「それなりに(笑)」との応え。
にっこりと笑ったその表情は、ワインが本当に好きなことは容易にうかがえます。「平林氏とワイン」の関係は、「デザインと美味しい」の関係で結ばれているのです。
ラベルから選ぶワイン選び。『domaine tetta』のワインは、そんな直感や感覚に委ねた楽しみ方もお勧めです。
ラベルに描かれた英語のメッセージもユニークな内容が。そんな遊び心も楽しんで飲んでほしい。

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