安倍晋三首相は11日夜に放映されたテレビ朝日系列の「報道ステーション」で、学校法人「森友学園」の問題に言及した際、前理事長籠池泰典被告(64)について「詐欺を働く人物」と話した。前理事長は補助金を巡る詐欺罪で起訴されたが、裁判で判決が確定していない。専門家は「無罪推定」の原則を軽視していると批判している。
番組は各党党首が出演し、討論形式で進められた。首相は籠池前理事長について「これから司法の場に移っていくんだろうと思う」とした上で「詐欺を働く人物のつくった学校で、妻が名誉校長を引き受けたことはやっぱり問題だった。こういう人だからだまされてしまったんだろう」と発言した。
前理事長は国や大阪府、大阪市から小学校建設などへの補助金をだまし取ったとして起訴されたが、公判はまだ始まっていない。関係者によると、起訴前の取り調べでは黙秘していたという。
元検事の郷原信郎弁護士は「勾留中で反論の機会がないのに『詐欺を働く』と一方的に断言しており、重大な人権侵害だ」と問題視。「首相は行政の最高責任者として決定的な影響力を持ち、発言は今後開かれる公判に影響を及ぼしかねない。絶対、口にしてはいけない言葉だった」と批判した。
元東京高裁部総括判事の木谷明弁護士は「司法手続きが終わっておらず、刑事責任が固まったわけではないのに、犯人と決め付けて発言するのは問題だ。自身を正当化するために他人をおとしめたと言われても仕方がない」と指摘した。
無罪推定は、刑事裁判で有罪が確定するまでは「罪を犯していない人」として扱わなければならないとする考え方。国際的にも刑事司法の大原則とされている。(共同)