山本一郎(個人投資家・作家)
今回の衆議院選挙では公示までの道のりの中でどうしても民進党代表・前原誠司さんの大決断からの小池百合子女史の「希望の党合流」のすったもんだと、枝野幸男さんや辻元清美女史が結成した立憲民主党に話題が集まりがちです。
大きな野党再編のおかげで、「自民党+公明党」による安倍晋三政権に対する是非だけでなく、野党も非自民の保守系である「維新の会+希望の党」と、革新系の流れをくむ「立憲民主党+共産党+諸派」の3極に日本の政治が移り変わっていくことが見て取れます。二大政党制を目指して日本の政治が動いてきたところ、自民対非自民の構造が非自民のアプローチが変容したというのは大事な意味合いを持つのではないかと思います。
一方で、総務省の発表では一票の格差は2倍を切り、1.9倍あまりまで差が縮まってきました。これは日本の政治において「0増10減」という大きな議席数の変化があっただけでなく、それに伴って人口割で小選挙区の区割り変更、合区が行われて、東京でも地方選挙区でも区割りが人口減少に見合った反映を行ってきた結果でもあります。
一方で、総務省の発表では一票の格差は2倍を切り、1.9倍あまりまで差が縮まってきました。これは日本の政治において「0増10減」という大きな議席数の変化があっただけでなく、それに伴って人口割で小選挙区の区割り変更、合区が行われて、東京でも地方選挙区でも区割りが人口減少に見合った反映を行ってきた結果でもあります。
今回、希望の党の立ち上げで一定の貢献をした若狭勝さんは、民進党を事前に離党した長島昭久さんや細野豪志さんに対して希望の党への合流に際し一院制の重要性を繰り返し説くというエピソードも聞かれました。政治改革を志すにあたって今回の選挙で一院制の是非を前提とする若狭勝さんの政治的センスの良しあしは別としても、少子高齢化から人口減少時代に差し掛かる日本の政治が、いままでの利益代表を政界に送り込むだけでは政治改革を満足に行えないという問題意識はもう少し持たれてもよいのではないか、と感じる部分はあります。
例えば、目下国政最大の争点となっているのは、いまや景気対策や雇用の充実、産業育成などではなく、高齢者の年金、福祉、介護といった社会保障がトップに躍り出ています。ここで問題となるのは、高齢者ほど投票に足を向けやすく、また有権者の人口比でも高齢者が大きな割合を占めるシルバーデモクラシーという現象です。日本の政治において、シルバーデモクラシーの影響は非常に大きく、今回解散に打って出た安倍政権も高齢者向けの社会保障を削減しなければならない政治課題を言い換えるようにして「全世代対応の社会保障」というオブラートに包んで公示日に突入しています。
この問題は極めて大きい課題を日本社会に突きつけていて、社会保障の削減はもちろん年金に頼った暮らしをしている高齢者の生活を直撃するだけでなく、その子供の世代に大きな負担を強いることになります。つまり、介護離職に代表される福祉の問題は、突き詰めれば高齢者を誰が面倒を見るのかという話であり、国家が税金や保険料で高齢者を養う余力がなくなったので、地域や家庭でご自身のお父さんお母さんの面倒を見てくださいという流れなのですが、その高齢者を食べさせ、介護をし、病気やけがをすれば病院に連れて行くのは家族の負担となって、結果として日中独居老人や介護離職といった課題を日本社会に突きつけます。
もっと議論すべきことがある!
しかも、少子化が進んでいる以上、こういう年老いた親の介護は少ない子供、下手をすると1人しかいない子供が仕事を辞めてでも介護しなければならないという状況になり、とても「結婚しない人の自己責任」とか「子供ももうけないで自業自得」などとはとても突き放せない問題として日本社会に降り掛かってきます。
そうなると、利益代表という意味において地域で区切られたいまの選挙制度は日本の政治改革を考えるにあたって本当にふさわしいのか、ひょっとしたら、年齢別の利益代表や、利害関係の異なる層に対するより包括的な選挙制度を考えなければならない時代に入ったのではないかとさえ思います。地域の代表が70代の衆院議員であって良かった時代は、それこそ地元に大地主がいて、名士がいて、地域を代表する人物が住民から選ばれて議員となる政治プロセスを意味していました。
しかしながら、デジタル全盛時代になってくると、もはや個別の政策論争を国会で議論するよりも、より簡便で多くの人たちが参画できる政治手法も出てくることになります。電子投票はいまだ認められておらず、公職選挙法ではインターネットの利活用もきちんと解禁されているとは言いにくい状況です。社会の発展や技術の進歩が私たちの暮らしに与える影響が大きくなっているにも関わらず、立法も行政もこれに追いつかないのは、文字通り議員代表制、間接民主主義そのものが制度疲労を起こしているからではないかとさえ思います。
有権者の意見を広く取り入れるためにも18歳以上に選挙権を与える改革や、区割りの変更などで一票の格差を是正するというのは極めて大事なアプローチであり、一歩一歩進めていくべきものです。その一方、今回の選挙は古色蒼然(そうぜん)とした選挙戦での勝った負けたが目の前の国難である安全保障と社会保障について適切な議論を向けきれていない、議院内閣制や政党政治が持つ枠組みが遅すぎてさまざまな問題解決の阻害要因になっているようにも感じます。
今回、さほど争点にもならない消費税10%への引き上げや、それに伴う「社会保障と税の一体改革」で日本の形もある程度の道筋がもたらされるかもしれない割に、どのように行政が国民の声を吸い上げて技術革新や国際競争の中で日本の取るべきポジションやリーダーシップを確保するのか、また、より産業の前線で戦っている日本人や、家族の暮らしで困窮している日本人がより良く生きていくことのできる環境を実現するために間接民主主義、政党政治にどんな改革を必要とするかは、もう少しきちんとした議論を積み上げていくべき状況であることは言うまでもありません。少子高齢化で衰退に向かう日本の未来の青写真を描けるような議論は、今回の選挙では沸き起こらないものなのでしょうか。