「武漢で大学生が大量失踪」は本当にデマなのか

公安局は事件認めず、報じた記者は処罰も、謎は消えず

2017年10月13日(金)

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 中国の国営通信社“新華通訊社”(略称:新華社)は9月28日付で湖北省“武漢市”から“馮国棟”記者が発信した『「武漢の大学生30数名が神秘的失踪」というデマをばらまいたネットユーザーが拘留される』と題する記事を配信した。当該記事の内容は以下の通り。

“デマ”を報じた記者を10日間の拘留

(1)「よくよく考えるとものすごく恐ろしい! 武漢で30人以上の大学生が神秘的失踪」(以下「武漢で大学生が神秘的失踪」)と題する文章が27日にネット上で広く伝播し、武漢の大学生や地方の父母の間に憶測を引き起こした。記者が28日に“武漢市公安局”から聴取したところでは、この情報は事実でなく、武漢市公安局は28日に法に照らしてデマをバラまいた“王某”に対し行政拘留10日間の罰を科した。

(2)27日に大学生の神秘的消失に関する文章がネット上に掲載されると、社会の注目を集めた。記者は当該文章の中に2011年から2017年9月までに武漢で失踪した大学生と言われる若者の写真数十枚が添付されているのを見た。同文章は除外法を用いて、彼らが“傳銷(マルチ商法)”の罠にはまった<注1>、“綁架(誘拐)”されて殺害された、犯罪を行って拘束された、甚だしきは“外星人(宇宙人)”に誘拐されたなどの可能性を除外した上で、「大学生の神秘的失踪は依然として謎である」と結論付けている。

<注1>中国におけるマルチ商法については、2017年9月16日付の本リポート「大卒青年たちを死に追いやる中国マルチ商法の闇」参照。

(3)28日、記者は武漢市公安局に事実を確認した。武漢市公安局は初歩的調査を経て、文章中に言及されている32人の失踪者の中に武漢市の学生は6人だけで、その中の1人はすでに発見されているし、2人は“春節(旧正月)”休暇後に学校へ戻った届けをまだ提出していないだけだし、残る3人は“長江(揚子江)”周辺で失踪したものであることが判明した。なお、文中にある“林飛陽”はロシアから武漢市へ戻った後に連絡が取れなくなったもので、武漢市公安局はこの件をすでに立件して調査している。

(4)武漢市公安局の調査で、ネット上に文章を書き込んだのは39歳の男で武漢市“黄陂区”に居住する“王某”であることが判明した。王某は武漢市公安局の事情聴取において、林飛陽の父親からの要請とネット検索の結果に基づき、当該文章を書いてネットに掲載したと説明したが、文章中のデータと内容は事実確認を経ていないずさんな代物であることを認めたのだった。28日、武漢市公安局“江漢区分局”は『中華人民共和国治安管理処罰法』第25条第1項中の「デマばらまきにより故意に社会公共秩序をかく乱した」ことに対する処罰規定に基づき、法に照らして王某を行政拘留10日間の罰に処した。

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「「武漢で大学生が大量失踪」は本当にデマなのか」の著者

北村 豊

北村 豊(きたむら・ゆたか)

中国鑑測家

住友商事入社後アブダビ、ドバイ、北京、広州の駐在を経て、住友商事総合研究所で中国専任シニアアナリストとして活躍。2012年に住友商事を退職後、2013年からフリーランサーの中国研究者として中国鑑測家を名乗る。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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満岡 次郎 IHI社長兼CEO