積極的棄権について考える

2017年10月13日(金)

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 選挙が近づくとツイッターのタイムラインが荒れる。

 なので、私は、この二週間ほどあまり積極的に書き込みをしていない。
 興奮した人たちが険しい言葉で反論をしてきたり、言質を取るために質問を投げかけてくる展開が面倒だからだ。

 今回は、告示が終わって選挙運動期間に入ったこともあるので、個々の政党や候補者についての話題は避けて、自分が選挙を好きになれない理由について考えてみるつもりでいる。

 ツイッター上では、さる有名人が今回の選挙に関連して「積極的棄権」を呼びかけたことが議論を呼んでいる。

 議論というよりは袋叩きに近い。
 積極的棄権を呼びかけているご当人が、各方面から叱責を浴びている感じだ。

 まあ、こういうご時世に、自分が投票しないというだけならまだしも、わざわざ不特定多数の一般人に向けて投票の棄権を呼びかけて署名運動まで展開しているのだから、非難論難叱責打擲されるのは仕方がないところだろう。

 仮に、呼びかけの結果、投票率が落ちたのだとして、その投票率の低さを通して伝えられることになるメッセージが、いったいわれわれの社会にどんな好影響をもたらすというのだろうか。私は、その好影響の事例をひとつも思い浮かべることができない。

 引き比べて、低投票率がもたらすであろう政治的な効果は、ずっとはっきりしていて、しかも致命的だ。おそらく、一部のファナティックな人々の声が、よりファナティックなカタチで鳴り響くことになる。

 つまり、声の小さい人たちが黙ることは、声の大きい人たちの声をより大きく響かせる結果を招くわけで、とすると、棄権は狂信者に力を与えるに違いないのだ。

 仮に、投票率が20%を切るみたいな極端な数字が出れば、さすがにその結果に危機感を抱く人が増えることにはなるのだろう。が、さかのぼって考えてみれば、そもそも投票率が20%を下回るということは、人々がそれだけ危機感を抱いていないことを意味しているわけで、ということは、このお話は、はじめから「交通信号を守るドライバーがほとんどいなくなって、道路が事故車と負傷者でいっぱいになれば交通ルールの大切さが実感できるのではないか」と言っているのと大差のない本末転倒の寓話なのであって、バカな選挙であることを訴えるために、選挙をバカにすることは、自分たちの住んでいる社会をバカな社会に作り変えること以外の意味は持っていないはずなのだ。

 もっとも、とことんまでバカな社会ができあがれば、さすがにその社会の構成員たちも自分たちのバカさを反省せざるを得ないのだろうし、そういう意味では、自分たちの社会を奈落の底に落とすことにも、まるで意味がないわけではないのだろうが、そこのところまで話を広げないと選挙のバカさを伝えられない論者は、あまりにも選挙民の洞察力をバカにしていると思う。こういう設定でものを考える人は、私にはバカであるとしか思えない。

 ただ、実際に棄権の呼びかけを展開することの是非はともかく、いまこの時期に、あえて「棄権」という選択肢を掲げて思考実験をしたことには、それなりの意味があったとは思う。

 というのも、積極的棄権を呼びかけた哲学研究者に向けて、左右上下を問わないあらゆる立場の人々が投げつけている罵倒の、あまりといえばあまりに激越な調子の中に、私は、うちの国の社会の窮屈さというのか、若い人たちが、投票所に向かう気持ちを喪失する原因のひとつとなっているに違いないパターナリズムの臭気を感じ取るからだ。

 私自身、50歳になるちょっと手前までは、一度も投票に出かけたことのない人間だった。

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「積極的棄権について考える」の著者

小田嶋 隆

小田嶋 隆(おだじま・たかし)

コラムニスト

1956年生まれ。東京・赤羽出身。早稲田大学卒業後、食品メーカーに入社。1年ほどで退社後、紆余曲折を経てテクニカルライターとなり、現在はひきこもり系コラムニストとして活躍中。

※このプロフィールは、著者が日経ビジネスオンラインに記事を最後に執筆した時点のものです。

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